スポーツ栄養に詳しいと自認するアスリートほど実際の知識は少ない傾向 FCバルセロナで調査
スペインの総合スポーツクラブであるFCバルセロナに所属している選手や、サポートスタッフ、および一般の高校生や大学生、栄養学専攻学生を対象に、スポーツ栄養の知識を調査した結果が報告された。アスリートのスポーツ栄養の知識はサポートスタッフや栄養学専攻学生に比べて有意に低く、一般学生や高校生と同等だったという。また、スポーツ栄養の知識が貧弱な選手ほど、自分の知識を過大評価している傾向も認められたとのことだ。
アスリートのスポーツ栄養の知識は誰が支えている?
栄養関連の知識が豊富なアスリートほど、野菜や果物の摂取量が多く脂質の摂取量は少ないという健康的な食生活を実践していることが報告されている。これまでの報告から、アスリートの栄養知識の情報源は義務教育に加えて、メディア、両親、友人、仲間、コーチ、サポートスタッフなどに依存していることが示されてきている。それらの情報源はアスリートの食行動に影響を与える可能性があり、限られた情報または不正確な情報は、時にアスリートにとって有害となり得ることも報告されている。
一方、アスリートの栄養知識の調査は、さまざまな対象で実施されてきているが、評価方法が異なるため、それらを単純に比較検討することができず解釈が制限される。そこで本論文の著者らは、アスリートと同時に、サポートスタッフや栄養学生、およびスポーツや栄養との関連のない一般対象を含めて、スポーツ栄養に関する知識レベルや情報源を把握し、かつ、スポーツ栄養の知識をどのように実践に生かしているかを調査した。
FCバルセロナ所属アスリートとスタッフ、栄養学生、一般学生・高校生を比較>
検討対象と評価手法について
検討対象は、スポーツ関連としては、FCバルセロナのサッカー、ホッケー、フットサル、バスケットボールのいずれかに所属する、エリートおよびサブエリートのアスリート、および、サポートスタッフ(コーチ、トレーナー、理学療法士、医師)から自主的に参加してもらった。一方、スポーツを行っておらず栄養教育を受けていない集団として、高校生とバルセロナ大学の哲学専攻学生を対象とした。このほかに、栄養学を専攻している学生も対象に加えた。
回答者数は合計506人で、男性71.1%。年齢は18歳未満が35.5%を占め、その平均は15.3±1.3歳、他の回答者(64.5%)の平均年齢は25.2±6.9歳。また、FCバルセロナ所属のアスリートが264人、非アスリートが242人だった。
スポーツ栄養の知識は、精度検証済みの調査票(Nutrition Knowledge Questionnaire for Young and Adult Athletes;NUKYA)で評価した。この調査票は、主要栄養素、微量栄養素、水分補給、および運動前と運動中の補給という4つの主要領域の59項目の知識を問うもので、満点は100点。
このほかに、アスリートには、自分自身の栄養知識の自己評価を5段階のリッカートスコア(乏しい=1点、平均以下=2点、平均的=3点、優れている=4点、極めて優れている=5点)で回答してもらった。また、スポーツ栄養に関する情報源、実際の食事スタイルなどのアンケートの回答も得た。
アスリートのスポーツ栄養学の知識は高校生や哲学専攻大学生と同等
解析結果について、まずスポーツ栄養の知識調査票(NUKYA)のスコアをみると、アスリートは高校生や哲学を専攻している大学生と同レベルであり、不十分であることがわかった。スコアの中央値を高い順に並べると以下のとおり。
栄養学専攻学生が74.6点、サポートスタッフが58.5点、哲学専攻学生が25.1点、高校生が19.5点。アスリートのスコアは、栄養学専攻学生やスタッフより有意に低く(いずれもp<0.05)。哲学専攻学生や高校生とは有意差がなかった。
アスリートを行っている競技別に比較すると、スコアが高い順に、ホッケーが38.6点、フットサルが26.0点、バスケットボールが24.0点、サッカーが23.7点となった。ホッケー選手のスコアは、バスケットボールやサッカーの選手よりも有意に高値だった(いずれに対してもp<0.05)。
スポーツ栄養の知識に関する自己評価と実際の知識レベルの乖離が大きい
次に、自分自身のスポーツ栄養に関する自己評価(前述の5段階のリッカートスコアでの評価)と、知識調査票(NUKYA)のスコアとの関連が検討された。
実際の知識レベルは、NUKYAスコアを20点ごと合計5つのランクに群分け。すると、極めて低い(NUKYAスコアが20点以下)が40.0%、低い(同21~40点)が43.3%、標準的(41~60点)が15.0%、高い(61~80点)が1.3%、極めて高い(81点以上)が0.4%だった。
アスリートの4人に3人は、実際も知識よりも自己評価の方が高い
これに対して、42.1%のアスリートが、自分のNUKYAスコアのカテゴリーの1つ上に該当するカテゴリーのリッカートスコアを選択していた。さらに24.2%のアスリートは、自分のNUKYAスコアのカテゴリーの2つ上に該当するリッカートスコアを選択、3.8%は3つ上と自己評価していた。自己評価のリッカートスコアとNUKYAスコアのカテゴリーが一致していたアスリートは、4人に1人の25.4%にすぎなかった。また、4.5%のアスリートはNUKYAスコアよりも自己評価のほうが低く、控えめに評価していた。
反対にサポートスタッフは、自己評価が低い傾向
一方、サポートスタッフの回答についても同様の検討を行ったところ、アスリートとは反対に、スポーツ栄養に関する知識の自己評価が、実際の知識レベルよりも低い傾向が認められた。具体的には、回答者の50.7%が、NUKYAスコアのカテゴリーよりも1ランク以上低いリッカートスコアを選択していた。
スポーツ栄養の自己評価が高いアスリートほど実際は低スコア
前述のように、アスリートは自分自身のスポーツ栄養の知識を実際よりも高く評価している傾向があったが、この傾向はNUKYAスコアが低いアスリートで顕著に認められた。つまり、知識レベルが低いアスリートほど、自分自身の知識レベルを高く評価するという「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれる認知バイアスが生じていることがわかった。
具体的に数値を挙げると、自己評価のリッカートスコアとNUKYAスコアのカテゴリーが一致していたアスリートのNUKYAスコアは30.4点であるのに対して、自己評価のリッカートスコアのほうがNUKYAスコアのカテゴリーより1ランク高かったアスリートのNUKYAスコアは27.3点だった。さらに、自己評価がNUKYAスコアのカテゴリーより2ランク高かったアスリートのNUKYAスコアは14.1点であり、自己評価とNUKYAスコアのカテゴリーとの乖離が3ランクだったアスリートのNUKYAスコアは、7.1点にすぎなかった。
一方、NUKYAスコアのカテゴリーより自己評価のリッカートスコアが低い、つまり控えめな評価をしていたアスリートのNUKYAスコアは44.9点だった。
NUKYAスコアの高さは食行動にも表れている
続いて、アスリートをNUKYAスコアの四分位で4群に分け、食行動を比較。すると、以下に示すように、NUKYAスコアの高い群ほど野菜や果物の摂取頻度が高く、予定外の食事や間食をする頻度が少ないことがわかった。なお、各四分位群のNUKYAスコア中央値は、第1四分位群が10.8、第2四分位群が23.6、第3四分位群が34.8、第4四分位群が57.6。
1週間あたりの野菜や果物の摂取頻度: 第1四分位群が中央値6.2回、第2四分位群が同9.5回、第3四分位群が9.0回、第4四分位群が21回。第4四分位群は他の3群に比較し有意に多かった(p<0.05)。 1週間で予定外の食事や間食をする頻度: 第1四分位群が中央値7.0回、第2四分位群が同5.0回、第3四分位群が6.0回、第4四分位群が3.5回。第4四分位群は第1四分位群に比較し有意に少なかった(p<0.05)。
サポートスタッフと家族を組み込んだアスリートへの栄養指導が必要
このほか、アスリートの栄養に関する情報源は、家族(57%)、栄養士(57%)、理学療法士(53%)、コーチ(49%)、インターネット(38%)、友人(21%)、雑誌(10%)、科学雑誌(8%)、および本(6%)の順であること、NUKYAスコアが高いアスリートは科学雑誌を参照する傾向があること(p=0.010)などが明らかになった。
その他の調査項目の回答の解析も加えた一連の検討の結果のまとめとして、著者らは、「情報源の適切な選択方法や、サプリメントをむやみに摂取しないことの重要性などを指導し、アスリートのスポーツ栄養知識を改善する必要がある。またこの指導計画には、サポートスタッフと家族を組み込むことも検討すべきだろう」と結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Sport Nutrition Knowledge, Attitudes, Sources of Information, and Dietary Habits of Sport-Team Athletes」。〔Nutrients. 2022 Mar 23;14(7):1345〕
原文はこちら(MDPI)