一般向けの栄養指導教材をアスリートに使用する場合、大胆なアレンジが必要 カナダの研究
多くの国の公的機関が、国民の体格や食習慣、疾患特性などを考慮してフードガイド(栄養指導用の教材など)を発行している。しかし、そのような一般的なフードガイドをアスリートに適用するには大幅なアレンジが必要であり、そのまま用いたのではアスリートの栄養ニーズの2分の1程度しか満たせないことがあるとする論文が発表された。カナダの研究者らの報告。
わかりやすくなったフードガイドはスポーツ栄養に適用できる?
カナダでは2019年に同国保健省がフードガイドを改訂した。改訂以前は食品を4群に分類し各群から摂取すべき量(サービング)を示していたが、新しいフードガイドでは食品のバランスに重点を置いたわかりやすいものとなった。
ただし、わかりやすい半面、クライアントのニーズにあわせて柔軟にアレンジする必要があり、栄養指導上の懸念として指摘されている。とくに大きな懸念は、一般生活者に比べて栄養素のニーズが高いアスリートの場合であり、フードガイドを利用した栄養介入を行う場合は、スポーツ栄養士の腕のみせどころとなる。
15歳男子アスリートをモデルケースとして試算
この論文の研究者らは、カナダのケベックで夏と冬に交互に開催され、18歳未満の若年者が参加するマルチスポーツイベント(Finale des Jeux du Québec)の平均的なアスリートをモデルケースとして、フードガイド適用の可能性を検討した。同大会に参加する平均的な選手は、体重71kgの15歳の男子であり、アスリート対象のガイドラインから、必要とされるエネルギー量は2,840~3,195kcal/日、炭水化物355~710g/日、タンパク質85~142g/日、脂質35~71g/日と計算され、1回の食事からは最低でも830kcal、タンパク質20gを摂取し、不足分を間食で補う戦略が妥当と考えられた。
5つのシナリオで検討
カナダの新しいフードガイドにサンプルとして示されている5日間のメニューを基本として、以下の5種類のシナリオを作成した。なお、間食には最低50gの炭水化物と15gのタンパク質を含み260~380kcalを供給するよう設定し、すべてのシナリオで摂取することとした。
フードガイド準拠では充足率50%程度
栄養素摂取量を計算した結果、5つのシナリオで推奨栄養素要件に対する充足率が大きく異なることが明らかになった。フードガイドに準拠したシナリオIでは、エネルギー要件の最低範囲の52.6%しか満たせていなかった。最も充足率が高いシナリオは、シナリオIIIであり、推奨されるエネルギー要件の85.0%を満たしていた。
推奨栄養素要件と各シナリオでの摂取量は以下のとおり。
エネルギー量 (kcal/kg/日) | タンパク質 (g/kg/日) | 炭水化物 (g/kg/日) | 脂質 (%) | |
---|---|---|---|---|
推奨栄養素要件 | 40~45 | 1.2~1.8 | 6~10 | 20~35 |
シナリオⅠ | 21.3 | 1.22 | 2.95 | 29.2 |
シナリオII | 31.23 | 1.68 | 4.69 | 23.8 |
シナリオIII | 34.69 | 1.73 | 5.42 | 21.4 |
シナリオIV | 30.68 | 1.71 | 4.47 | 23.9 |
シナリオV | 34.12 | 1.77 | 5.45 | 21.5 |
フードガイドは万能ではない
以上から著者らは、「フードガイドは、教育者、医療提供者、一般の人々を含むさまざまな対象が使用することを目的としたツールであるため、わかりやすいことが不可欠。フードガイドは、座位行動が多い人と身体活動量の多い人での利用を想定しているものの、ハイレベルのスポーツを行うアスリートへの適用は制限される。改訂されたカナダのフードガイドは理解しやすいものではあるが、栄養士がクライアントの指導に用いる場合は、すべての対象に利用できるわけではないと理解しておくことが重要」と結論をまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Does the 2019 Canada’s Food Guide meet the needs of young athletes?」。〔Nutr Health. 2022 Apr 18;2601060221093430〕
原文はこちら(SAGE Publications)