カフェイン摂取量が多い持久系アスリートは睡眠の質が悪い 1日1杯半までが目安か
持久系アスリートを対象に、食習慣と睡眠の質との関連を調べた研究結果が報告された。パフォーマンス向上のためにアスリートに好まれることの多いカフェインは、睡眠の質の低下と有意に関連しているという。一方、全粒穀物の摂取量が多いことは、睡眠の質の一部の指標が良いことと関連していたとのことだ。
持久系アスリートの食生活と睡眠の質との関連を探る
アスリートは、睡眠不足や主観的な睡眠満足度の低下、入眠潜時(就床から入眠に要する時間)の延長、日中の眠気や疲労感などの睡眠の質の低下を表す症状がよくみられる。それらの症状のいずれか一つ以上を訴えるアスリートの割合は、50~78%というデータが報告されている。アスリートの睡眠不足や睡眠の質の低下は、免疫応答の低下につながり感染症リスクを増大させたり、集中力の低下からパフォーマンスの低下や怪我のリスク増大につながる。アスリートの睡眠の質が低いことの理由として、トレーニング第一と考え睡眠の優先度が低いこと、パフォーマンスにおける睡眠の重要性の認識の不足、スケジュール上の制約などが考えられている。
一般住民対象の研究からは、乳製品や果物、野菜、全粒穀物の豊富な食生活は睡眠の質に対して保護的に働く可能性が示されている。また、地中海食にも同様の効果があると報告されている。とくに乳製品に関しては、“睡眠ホルモン”とも呼ばれるメラトニンの前駆体であるアミノ酸のトリプトファンが含まれているため、それが睡眠の質を向上させるというメカニズムも想定されている。実際、日本からは、乳製品の摂取によりアスリートの睡眠の質が改善したとする介入研究も報告されている。
反対に、よく知られるようにカフェインは覚醒作用があり、睡眠の質を低下させる。一方でカフェインにはエルゴジェニックエイドとしての豊富なエビデンスがあり、アスリートに好まれる。
このように、単一の食品・飲料の摂取量と睡眠の関連に関する研究報告は少なくないが、持久系アスリートを対象に絞って、さまざまな食品の摂取量と睡眠との関連を調べた研究は数少ない。これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、以下の検討を行った。
北米を中心とする持久系アスリート234人のネット調査
研究参加者は、ソーシャルメディアや電子メールを通じて募集された、自身が持久系アスリートであると認識している234人。持久系スポーツを行っているものの、自身をアスリートとして認識していない人や18歳未満の回答は除外された。なお、この調査は2020年6月~2021年2月という新型コロナ感染症パンデミック中に実施された。
睡眠習慣や睡眠の質、食習慣の評価方法
睡眠習慣の評価には、アスリートに特化した睡眠習慣の指標として開発された、18項目からなる検証済みの質問票「Athlete Sleep Behavior Questionnaire;ASBQ」を用いた。このASBQは、日中の長時間(2時間以上)の昼寝、夕方のトレーニング、夜間に排尿のために目覚める、就寝前の飲酒、寝室の室温、ベッドと枕の快適さなどについて、5ポイントのリッカートスコアで回答を得て、合計点数が36点以下の場合は睡眠習慣が良好、42点以上は不良、37~41点はどちらでもないと判定する。
睡眠の質については、アスリート睡眠スクリーニング質問票「Athlete Sleep Screening Questionnaire;ASSQ」により評価。ASSQは16項目からなる検証済みスクリーニングツールで、スコアが高いほど睡眠の質が低いことを表す。ASSQのサブスケールとして、入眠困難、日内変動、睡眠時呼吸障害を把握可能。睡眠関連ではASBQやASSQのほかに、不快感による睡眠障害を評価した。例えば、筋肉痛、しびれ、痛み、けいれんによる睡眠への影響を質問した。
食習慣については、調査前月の果物、野菜、乳製品、全粒穀物、およびカフェインの摂取量を質問し、米国農務省の食事ガイドラインに示されている基準に従って、摂取量の多寡を評価した。
解析対象者の特徴
解析対象となった234人は大半(95.2%)が北米に居住しており、年齢は39.5±14.1歳で51.7%が女性。全体の8割以上が白人であり、大学または大学院の学位を取得していた。行っている持久系スポーツは、サイクリング、ランニング、トライアスロン、競歩、ローイング、水泳、車椅子レースなどであり、ランナー(37.6%)、トライアスリート(33.8%)、サイクリスト(20.5%)が多くを占めていた。
カフェイン摂取による持久系アスリートの睡眠の質の低下を確認
ASBQで評価した睡眠習慣は、31.6%が良好、31.2%がどちらでもない、35.5%が不良と判定された。各群の睡眠の質(ASSQスコア)は、19.6±3.93、20.5±4.45、22.1±4.33であり、ASBQで睡眠習慣「良好」と判定された群は「不良」と判定された群に比し、睡眠の質が有意に高かった(p<0.01)。また、不快感による睡眠障害があるとの回答が34.6%、ないとの回答が65.4%であり、睡眠の質(ASSQスコア)は前者が21.8±4.15、後者が20.3±4.41で、群間に有意差が存在した(p<0.01)。
ASSQスコアはカフェイン摂取量に応じて上昇する
では、食習慣との関連についてみてみよう。 まず、カフェイン摂取量との関連だか、摂取量が多いほど睡眠の質(ASSQスコア)が高い、つまり睡眠の質が低いことが示された。具体的には、カフェイン入り飲料の摂取量が1日1杯未満ではASSQスコアが18.1±2.75、1日1~1.5杯では19.2±3.78、1.5~2杯では21.6±3.96、2~2.5杯では22.5±4.64、2.5杯以上では23.0±4.56であり、1.5杯以上では1杯未満に比較し有意な睡眠の質低下が認められた。ASSQのサブスケールをみると、入眠困難について、カフェイン入り飲料の摂取量が1日1.5杯未満の場合、2.5杯以上に比べてそのリスクが有意に低いことがわかった。
全粒穀物、果物には、ASSQサブスケールの一部に保護効果
カフェイン以外の食品・飲料の摂取量については、ASSQの総合スコアと有意な関連がみられなかったが、ASSQのサブスケールの一部に有意な関連が確認された。例えば、全粒穀物の摂取量が1日3~4サービングであることは、1サービング未満に比べて睡眠時呼吸障害のリスクが有意に低かった。同様に、果物の摂取量が1日3~4サービングであることは、1サービング未満に比べて睡眠時呼吸障害のリスクが有意に低かった。なお、全粒穀物については、摂取量が1日3~4サービングである場合に、日内変動が有意に大きくなるという影響も示されている。
一方、乳製品については、1日3杯以上に比べて、1杯未満および1~2杯の場合に睡眠時呼吸障害のリスクが有意に低いという結果が得られ、睡眠に対する乳製品による保護効果を報告している既報研究と相反するとも言える結果が示された。この点について著者は、本研究では対象の72.6%が乳製品の摂取量1日1杯未満であり、その他の群のサンプル数が少なかったことに起因すると考えられると述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Relationship Between Dietary Intake and Sleep Quality in Endurance Athletes」。〔Front Sports Act Living. 2022 Mar 3;4:810402.〕
原文はこちら(Frontiers Media)