「指導者はアスリートの脆弱性を意識せよ」WADAによるドーピングの脆弱性に関する調査結果
世界ドーピング防止機構(The World Anti-Doping Agency;WADA)はこのほど、アスリートとスポーツ関係者を対象に行った、ドーピングの脆弱性に関する調査結果を発表した。スポーツ関係者は、スポーツサプリメントの存在をドーピングリスクに結びつくものとして懸念を抱いている一方で、アスリートはそれを必要のものとして捉えていることなどが明らかになった。また、アスリートの4~5人に1人がドーピングを行っている可能性があると考えられていることもわかった。
85カ国、59種目、574人が回答
WADAによるこの調査は、2021年4月23日~6月13日にかけてオンラインで実施された。回答者は、85カ国から46種の競技に従事するスポーツ関係者(コーチ、医療スタッフ、団体のリーダーなど)355人と、30カ国35種の競技に参加している219人のアスリートであり、合計すると85カ国、59種の競技、574人になる。約7割が国内組織、約3割が国際組織に所属し、約6割がチーム競技、約4割が個人競技を行うか関連していた。
ドーピングに対する脆弱性を高めると考えられる要因
35の選択肢から、ドーピングに対する脆弱性を高めると考えられる要因を選択してもらった回答をみると、まず、スポーツ関係者では50%が「スポーツ栄養サプリ」を挙げた。2位は「期待からのプレッシャー」で25%だった。
それに対してアスリートが挙げたトップの要因は「身体的パフォーマンスを迅速に高めるため」であり30%が選択。それに続いて「健康維持」と「ネガティブな社会環境」が26%、「外傷リスクの高さ」の25%などが挙げられた。スポーツ関係者の2人に1人が挙げてトップだった「スポーツ栄養サプリ」は、アスリートの回答では5人に1人の20%であり、6位だった。
レポートでは、スポーツ関係者とアスリートの回答を比較した場合、「この点の違いが最も重要である」と述べられている。
世界レベルの男性アスリートがドーピングハイリスクとの認識
性別・競技レベル別にドーピングリスクの高さを、「リスクなし」から「非常にリスクが高い」の5段階で回答してもらい、その上位2つの回答を合計して解析。その結果、男性アスリートでは、世界レベルのアスリートが最もハイリスクと認識されていた(スポーツ関係者では30%、アスリートでは37%が上位2つのいずれかを選択)。2位は国内レベルアスリートだった。
この順序は女性アスリートも同様だったが、世界レベルアスリートをハイリスクの上位2位に選択した回答は、スポーツ関係者では25%、アスリートでは29%であり、男性アスリートよりもやや低かった。
なお、意図しない不注意によるドーピングのリスクに限ると、キャリアの浅いアスリートがハイリスクとする回答が多かった。
21%のアスリートが「ドーピングを行っているのではないか」と考えられている
ドーピングを行っている可能性のあるアスリートの割合を推測で回答してもらったところ、全体で21%という数値が得られた。この数値は回答者の属性によりやや異なり、アスリートの回答は25%と全体平均より高く、コーチは22%、医療関係者は17%、管理者は15%だった。
アンチドーピングの情報源はWADAのサイトやコーチ、医療スタッフ
アンチドーピングの情報源として示された13の選択肢から、上位3つを選択してもらった結果、アスリートの回答のトップはWADAのwebサイトであり、64%が上位3つの中の1つとして選択していた。2位は医療スタッフで48%、3位はコーチの47%だった。
スポーツ関係者の回答のトップはコーチであり、52%が上位3つの中の1つとして選択。2位はWADAのwebサイトであり51%、3位は医療スタッフの47%だった。
アスリートの脆弱性を意識しておくべき
このほか、ドーピング抑止のために最も影響力のある存在を問う質問では、コーチがトップに挙げられた。また、ドーピング抑止のために最も重要なことは教育であるとする考えた方が主流であることも明らかになった。
このレポートの発表に関連して、WADAの教育部門のディレクターであるAmanda Hudson氏は、「アスリートはそのキャリアをクリーンな状態からスタートすることを我々は知っている。しかし、キャリアの中でアスリートを間違った決断に導く環境に無防備であることも、我々は承知している。今回の調査結果は、アスリートの行動と現実について理解を深めるのに役立つものだ。アスリートの脆弱性について、我々はより意識しておく必要がある」と述べている。
WADAによると、この調査はアスリートの脆弱性研究プロジェクトのフェーズ1にあたるものだという。WADAは今後、より綿密な調査と解析を行い、この領域の研究のイニシアチブをサポートしていくとしている。