朝食で良質なタンパク質を摂ることが認知機能低下を防ぐ可能性 日本人541人を4年間追跡
アミノ酸スコアの高い朝食を摂取することが、認知機能低下を予防するかもしれない。国立長寿医療研究センターと味の素(株)との共同研究グループが行った、地域住民対象長期縦断疫学研究のデータを解析して明らかになった。
認知機能低下のリスク因子を時間栄養学の視点で探求
加齢は認知機能低下の最大のリスク因子である。加齢によってなぜ認知機能が低下するのか、その理由は十分明らかではないが、高齢期にはタンパク質の要求量が増えるのにもかかわらず、逆に摂取量は減ることも関係している可能性がある。食事由来のアミノ酸のいくつかは神経伝達物質の前駆体として機能することが知られており、トリプトファンなど、人が自身で作ることができず食事から摂取する必要がある不可欠アミノ酸の認知機能に対する重要性を示唆する報告がある。
一方、食事中のタンパク質の生物学的利用能は、そのタンパク質を構成する不可欠アミノ酸のバランスによって左右されることが知られており、生物学的利用能の高いタンパク質は高品質なタンパク質とされている。また、近年、時間栄養学の研究が進み、摂取する栄養素の量やバランスに加え、「いつ」摂取するかも重視されるようになった。食事中のタンパク質の質や、その摂取タイミングが高齢者の認知機能に影響を及ぼす可能性も考えられるが、それを検討した研究はこれまで行われていなかった。
今回紹介する研究は、その点を明らかにするために行われた。一時点での関連性の有無を調べる横断研究ではなく、研究参加者を一定期間追跡し、認知機能の変化との関連を調べた縦断研究であり、その結果は因果関係を示唆するエビデンスとなるデザインでの研究だ。
PDCAASでタンパク質の質を評価
この研究では、国立長寿医療研究センターが行っている地域住民対象の長期縦断疫学研究(NILS-LSA)のデータを解析に用いた。NILS-LSAは愛知県大府市と東浦町の40~79歳の地域住民を対象とする研究で、本研究の解析では、2002年5月~2004年5月に研究参加登録された2,378人のうち、ベースライン時に認知機能低下がなく、データ欠落のない541人(平均年齢68.2±5.7歳、男性47.3%)を対象とした。
タンパク質の質は、「タンパク質消化吸収率補正アミノ酸スコア(protein digestibility-corrected amino acid score;PDCAAS)」という指標で評価した。PDCAASは0~100点の範囲で判定され、数値が高いほど不可欠アミノ酸のバランスが良い食事であることを意味する。本研究では、ベースライン時に行った3日間の食事調査から、朝食・昼食・夕食それぞれのPDCAASを算出した。
一方、認知機能の評価にはMMSE(mini-mental state examination)を用いた。MMSEは0~30点で評価され、点数が低いほど認知機能が低いことを表す。MMSE27点が軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)の診断基準であり、本研究でも27点以下を認知機能低下ありと定義した。
約4年の追跡で認知機能低下が見られた集団と見られなかった集団の違いは何か
平均4.2±0.4年の追跡で、145人(26.8%)に認知機能の低下見られた。
認知機能の低下が見られた群と見られなかった群のベースラインデータを比較すると、MMSEは認知機能低下群28.7±0.7(平均±標準偏差, 以下同じ)、非低下群29.1±0.8で前者のほうが有意に低かった(p<0.001)。また年齢は前者が69.5±5.9歳、後者が67.7±5.6歳で前者のほうが統計的に有意に高齢で(p=0.001)、脳卒中既往者の割合も同順に7.6%、3.5%で前者のほうが統計的に有意に高かった(p=0.047)。
一方、性別、BMI、教育歴、抑うつ症状(CES-D)、糖尿病・高血圧・脂質異常症・虚血性心疾患の既往者の割合の差は統計的に有意でなかった。また、1日の摂取エネルギー量や、朝食・昼食・夕食の炭水化物・タンパク質・脂質摂取量の差も統計的に有意でなかった。
PDCAASについては、昼食と夕食は有意差がないものの、朝食は認知機能低下群81.2±13.8、非低下群84.2±12.5で、後者のほうが統計的に有意に高かった(p=0.021)。
タンパク質摂取量は有意な関連がなく、PDCAASが有意に関連
多重ロジスティック回帰分析にて、認知機能に影響を及ぼし得る因子(性別、年齢、ベースライン時のMMSE、摂取エネルギー量、摂取タンパク質量、BMI、教育歴、抑うつ症状、高血圧・脂質異常症・糖尿病・脳卒中・虚血性心疾患の既往など)を調整後、朝食のPDCAASが低いことが、認知機能低下の新規発生と統計的に有意に関連していることが明らかになった。
具体的には、ベースライン時の朝食のPDCAASの第1三分位群(PDCAASスコア81.2±13.8)は、第2~3三分位群(同84.2±12.5)に比較して、追跡調査時の認知機能低下の新規発生に対するオッズ比が1.58(95%信頼区間;1.00~2.50)だった。それに対して、昼食のPDCAASについては、第1三分位群であってもOR0.85(同0.54~1.34)、夕食もOR1.08(同0.71~1.65)であり、認知機能低下の新規発生と統計的に有意な関連が認められなかった。
一方、タンパク質摂取量に関して同様の解析を行った結果では、朝食・昼食・夕食ともに認知機能低下の新規発生との統計的に有意な関連はみられなかった。
朝食のPDCAASが低い群は、牛乳/乳製品と魚介類がとくに少ない
次に、朝食のPDCAAS第1三分位群と第2~3三分位群とに分けて、朝食時に何を食べているのかを比較検討した。
その結果、PDCAASの低い第1三分位群は、穀類、砂糖/甘味料、油脂の摂取量が多く、豆類、牛乳/乳製品、魚介類、卵の摂取量が少ないという点で統計的に有意な差が認められた。とくに牛乳/乳製品(認知機能低下群9.4g/100kcal、非低下群19.3g/100kcal)や、魚介類(同順に1.5g/100kcal、2.6g/100kcal)の摂取量の群間差が大きかった。
朝食のタンパク質の「質」の高さの重要性
以上より、1日のタンパク質の摂取量ではなく、朝食のタンパク質、しかもその質の高さが認知機能の維持にとって重要である可能性が示された。著者によると、「朝食は一晩絶食後の最初の食事であり、学習や活動のための栄養素やエネルギーを供給することから、生理学的観点からも重要な食事と位置付けられている。そのため、質の高いタンパク質を含む食事、すなわちアミノ酸の栄養価の高い食事は、昼食や夕食よりも朝食で重要な可能性がある」という。
これらの検討を基に、論文の結論は、「朝食のタンパク質の質が低い食事は、摂取タンパク質量の多寡にかかわりなく、高齢者の認知機能低下リスクの高さと関連した。質の高いタンパク質を含む朝食の大切さを啓発する必要性があるのではないか」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Low Amino Acid Score of Breakfast is Associated with the Incidence of Cognitive Impairment in Older Japanese Adults: A Community-Based Longitudinal Study」。〔J Prev Alzheimers Dis. 2022;9(1):151-157〕
原文はこちら(Springer Nature)