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野菜摂取による心血管疾患の直接的な抑制効果はごくわずか、大半は交絡因子で説明される

健康のために野菜を多く摂ったほうが良いと、多くの人が信じていることだろう。しかし、こと心血管疾患との関連に限ると、野菜を食べることによる直接的なリスク抑制効果はわずかであって、効果の大半は交絡因子によって説明可能であるとする研究論文が発表された。一方、この発表は米国のCNNが取り上げて記事化。その記事の中では複数の栄養の専門家が、著者が結論に記しているメッセージを鵜呑みにすべきでないとの見解を述べている。

野菜摂取による心血管疾患の直接的な抑制効果はごくわずか、大半は交絡因子で説明される

野菜摂取量が多い人は、もともと健康的な生活だから心血管疾患が少ないのか?

野菜の摂取量が多いほど心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)が低下するが、生野菜を摂取する場合と調理された野菜を摂取する場合とでの影響の差はよくわかっていない。また、野菜摂取による直接的な影響も、十分に明らかになっているわけではない。つまり、野菜の摂取量が多い人は肉類の摂取量が少なく、喫煙をせずに運動習慣もあるなど、健康的な生活を送っており、それらトータルの効果によってCVDリスクを抑制されている可能性がある。

これらの不明点を明らかにするために、本論文の著者らは、英国で行われている一般住民対象の疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いて検討を行った。

40万人を12年追跡し、野菜摂取量とCVDリスクの関連を解析

UKバイオバンクには2006~10年に40~69歳の一般住民50万2,494人が登録されている。今回発表された研究では、このうち登録時にCVDの既往がある人、研究参加の同意を撤回した人、解析に必要なデータが欠落している人などを除外して、39万9,586人を解析対象とした。その平均年齢は56.1±8.1歳であり、女性が55.4%、BMI27.3±4.7であって、大半(90.9%)が白人だった。高レベルの身体活動を行っている人が41.3%を占め、自己申告による糖尿病有病率が4.7%だった。

野菜摂取量が多い人は、低BMI、非喫煙、活動的、高学歴、高所得

野菜摂取量は、研究参加登録時に行った食事調査から把握。1日の総野菜摂取量は大さじ換算で5.0±3.4杯、生野菜が2.3±2.2杯、調理済み野菜が2.8±2.2杯。

野菜摂取量の多寡で比較すると、摂取量が多い人は女性が多く、BMI低値、非喫煙、身体活動量が多い、教育歴が長い、居住地区の平均所得が高いといった傾向が認められた。

CVDイベント粗発生率は、野菜摂取量が多いことで大きく低下

12.1年(中央値)の追跡期間中に、心筋梗塞1万1,317件、脳卒中6,969件、計1万8,052人にCVDイベントが発生。また12.0年の追跡で1万3,398人が死亡し、そのうち2,589人がCVD死だった。

そして、以下に記すように、野菜摂取量が多い人ではイベントリスクが大きく低下していたことが明らかになった。なお、野菜摂取量は、大さじ換算のカップ数を基準として、全体を4群に分けて比較している。

野菜摂取量と粗イベントリスクの関係

1日の総野菜摂取量が最も少ない群(大さじ換算で1杯以下)に比べて、最も多い群(同7杯超)は、CVDイベントがHR0.74(95%CI;0.69~0.80)、心筋梗塞はHR0.71(同0.65~0.78)、脳卒中はHR0.84(0.74~0.95)、CVD死はHR0.63(0.55~0.73)、全死亡はHR0.61(0.57~0.65)だった。

次に、生野菜の摂取量との関係をみると、1日の生野菜摂取量が最も少ない群(大さじ換算で1杯以下)に比べて、最も多い群(同4杯超)は、CVDイベントがHR0.79(0.74~0.84)、心筋梗塞はHR0.78(0.72~0.84)、脳卒中はHR0.85(0.77~0.94)、CVD死はHR0.74(0.65~0.84)、全死亡はHR0.69(0.65~0.73)だった。

続いて、調理済み野菜の摂取量との関係については、1日の調理済み野菜摂取量が最も少ない群(大さじ換算で1杯以下)に比べて、最も多い群(同4杯超)は、CVDイベントがHR0.77(0.71~0.84)、心筋梗塞はHR0.74(0.67~0.83)、脳卒中はHR0.87(0.75~1.01)、CVD死はHR0.67(0.57~0.78)、全死亡はHR0.57(0.53~0.61)だった。

要約すると、調理済み野菜の摂取量と脳卒中リスクの関連が非有意であることを除いて、すべて野菜摂取量が多いほどイベントリスクが低いという結果だった。

交絡因子の調整によりリスク低下率は8~9割減少し、非有意の項目も増加

上記の粗イベントリスクの解析に続いて、著者らは多くの交絡因子で調整を加えた解析を実施。その交絡因子とは、年齢、性別、民族、地域、BMI、喫煙・飲酒・身体活動量、果物・赤肉・加工肉・魚介類の摂取量、サプリメントの使用、教育歴、タウンゼント剥奪指数、高血圧・糖尿病の既往、降圧薬・スタチン・インスリンの処方、アスピリン・イブプロフェンの使用などだ。

その結果、野菜摂取量が多いことによるイベントリスク低下率は、以下に示すように、粗解析に比べて8~9割減少。粗解析では、調理済み野菜の摂取量と脳卒中リスクの関連のみが非有意だったが、それ以外にも多くのイベントリスクとの関連が非有意となった。

野菜摂取量と交絡因子調整後のイベントリスクの関係

1日の総野菜摂取量が最も少ない群に比べて最も多い群は、CVDイベントがHR0.90(95%CI;0.83~0.97)で、引き続き有意ではあるものの、リスク低下率は88.6%失われた。心筋梗塞も同様に、HR0.87(同0.79~0.95)で、引き続き有意ではあるものの、リスク低下率は85.0%失われた。脳卒中についてはHR1.01(0.89~1.15)と、交絡因子の調整により有意性が消失した。CVD死はHR0.83(0.71~0.96)で、リスク低下率86.3%減、全死亡はHR0.80(0.74~0.85)、リスク低下率80.6%減だった。

生野菜の摂取量との関係をみると、1日の生野菜摂取量が最も少ない群に比べて最も多い群は、CVDイベントがHR0.89(0.83~0.95)で、交絡因子調整によりリスク低下率81.9%減、心筋梗塞はHR0.88(0.81~0.96)、同85.0%減であり、脳卒中については総野菜摂取量と同様に、HR0.92(0.83~1.03)と、交絡因子の調整により有意性が消失した。CVD死はHR0.85(0.74~0.97)で、リスク低下率87.2%減、全死亡はHR0.82(0.77~0.87)で、同83.8%減だった。

調理済み野菜の摂取量については、交絡因子の調整によりイベントリスクの関連が非有意となるものが複数存在した。前記と同順にみていくと、1日の調理済み野菜摂取量が最も少ない群に比べて最も多い群は、CVDイベントがHR1.00(0.91~1.09)となり、有意性が消失した。さらに心筋梗塞についてもHR0.97(0.86~1.08)であり有意性が消失した。脳卒中については前記のように交絡因子を調整する前の段階で既に非有意であった。CVD死は交絡因子調整前は有意だったが調整後はHR0.96(0.80~1.13)となり、有意性が消失した。全死亡についてはHR0.81(0.75~0.87)であり、交絡因子調整後も有意ではあったが、リスク低下率は79.3%低下していた。

要約すると、交絡因子の調整後は、15項目の評価項目のうち6項目は有意性が消失し、有意性が保たれていたものも、リスク低下率が大きく低下した。

生活習慣病のリスク因子は多因子が相互に関係している

この結果から論文の著者は、「野菜摂取によるCVDイベントリスクの抑制効果は、社会経済的状況や生活習慣などの交絡因子によってほとんどを説明可能であることが明らかになった」とまとめている。

この結論に対して、冒頭に記したように、栄養の専門家たちが異議を唱えていることがCNNで取り上げられた。CNNのサイトからその声の一部を抜粋して紹介する。

「交絡因子の調整によって野菜摂取によるCVDリスクの低下効果が減弱することはわかった。しかしそれは、野菜を摂取すべきでないということではない」(英国心臓財団の上級栄養士)、「野菜などの食物繊維が豊富な食品の摂取が、減量やCVDリスク因子の抑制につながることは豊富なエビデンスが示している。観察研究では因果関係に言及することはできない。また、本研究は多数の交絡因子を調整し過ぎたきらいがある」(英グラスゴー大学の心臓血管代謝学教授)、「本研究の参加者の野菜摂取量の平均はガイドラインの推奨の3分1程度に過ぎない。さらに、この対象が野菜を食べずに何を食べていたのかも問題だ」(米国心臓病学会の栄養部門評議員)。

結局のところ、生活習慣病とは多因子疾患であり、その治療には多因子を改善し得る介入が必要ということだろうか。

文献情報

原題のタイトルは、「Raw and Cooked Vegetable Consumption and Risk of Cardiovascular Disease: A Study of 400,000 Adults in UK Biobank」。〔Front Nutr. 2022 Feb 21;9:831470〕
原文はこちら(Frontiers Media)

関連情報

Eating veggies won't protect your heart, study says, but critics disagree(CNN)

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