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スポーツ栄養領域でモバイルアプリを活用する方法 現状のナラティブレビュー

スポーツ栄養の領域でのモバイルアプリケーションの現状をまとめたナラティブレビュー論文が発表された。モバイルアプリはどの程度進化していて、アスリートの食事内容の分析、栄養指導などに、どの程度活用可能なのだろうか?

モバイルアプリの進歩を定期的にチェックする必要がある

モバイルテクノロジーは現代社会に広く普及しており、それを利用したアプリケーションは、情報共有、保存、コストなどの点でかつて使われていた方法より遥かに優れている。このような特徴を生かした、スポーツやスポーツ栄養の領域での活用を想定したアプリも既に多く開発されている。

例えばスポーツ領域では、心拍数、ジャンプ力、バーベル速度、走行距離などの変数を収集可能だ。信頼性が十分ではない可能性はあるものの、技術の進歩は目覚ましく、実用性の定期的な評価とその結果次第で実践に応用しようとする姿勢が欠かせない。

栄養関連では、62%の栄養士が自身の業務で栄養アプリを使用しており、84%が患者に栄養アプリの利用を推奨しているとするデータが報告されている。ただ、スポーツ栄養という領域に限ると、アスリートは健康でありながら摂取エネルギー不足の懸念がある集団であり、一般の栄養関連アプリを適用可能かという点でハードルが残る。

このような現状を背景として、このナラティブレビューでは、

  1. アスリートの食事分析
  2. アスリートの栄養カウンセリングと指導
  3. 体組成の評価

という3つのテーマについて、モバイルアプリの現状をオーバービューしている。

アスリートの食事分析のモバイルアプリ

摂取エネルギー量を評価する従来の方法は、信頼性への疑問がしばしば投げかけられてきている。実際、思い出し法や食事日誌などでは摂取エネルギー量の過小評価が生じやすいというエビデンスがある。それらのエラーの原因の一つは、摂取した食品の記録漏れにある。もう一点は分析時のエラーであり、トレーニングを積んだ栄養士が解析を行っても、常に高い精度の分析を維持できるわけではない。

モバイルアプリはまず、前者のエラーを減らせる可能性がある。スマートフォンの普及によって、多くの人が食事のたびに、リアルタイムで摂取内容を記録できるようになってきた。ただ、現状において、写真のみからの解析のアルゴリズムは初期段階と言え、テキストベースでの情報を必要とする。

最近発表されたシステマティックレビューとメタ解析からは、すべてのアプリが摂取エネルギー量を過小評価する傾向があることが指摘されている(-202〈95%CI;-319~85〉kcal/日)。ただし、このメタ解析の対象に含まれる研究では、比較した摂取エネルギー量の評価法として、24時間思い出し法を利用した研究が多くを占めており、その点で結果の解釈に注意を要する。食事分析モバイルアプリの真の有用性を確立するため、今後の研究では、摂取エネルギー量評価のゴールドスタンダードである二重標識水法での測定値との比較検討が望まれる。また、アスリートを対象に有用性を検討した研究は、まだわずかであることも指摘される。

アスリートの栄養カウンセリングと指導のモバイルアプリ

最近のシステマティックレビューから、モバイルアプリが栄養行動の効果的な介入になり得ることが確認された。また、既にそのような介入が実際に採用されており、栄養士の46%が患者の教育リソースとしてアプリを使用したと報告されている。アスリート集団での研究も少ないながら存在する。

19歳の2名の女子ラグビー選手を対象に、アプリを介した栄養指導を行った結果、摂取エネルギー量の増加が認められたという。ただし、1名は炭水化物とタンパク質の摂取量を増やし、もう1名は脂質を増やして炭水化物とタンパク質を減らしていた。このような変化がアスリートにとって意味のあるものなのかは、論文の著者自身が「不明」と述べ、多集団への外挿は困難と考えられる。

このほかには、18~20歳の男子フィールドホッケー選手17名に6週間介入した研究、18±1.4歳の79名の持久系アスリートでの介入研究などが行われている。それらから、栄養に関する知識の向上に一定程度の効果が報告されているが、対照群への介入がどのように行われたのかが述べられていないなど、強固なエビデンスとは言えない研究が少なくない。

アスリートの体組成に関するモバイルアプリ

体型の写真を基に3Dイメージング技術によって体組成を算出するアプリも複数開発されている。それらの中には生体インピーダンス法での測定値との相関がr=0.82(95%CI;0.77~0.87)、あるいはr=0.83(同0.78~0.86)という、許容可能と考えられる精度をもつものもある。

ただし、それらの研究では検討対象者のBMIが比較的狭い範囲にあったこと、より精確な測定のために体格にピッタリした服装で測定していたことなどは、実用へのネックとして残されている。

スポーツ栄養関連モバイルアプリの潜在的なメリットと現状

以上、論文の一部を紹介した。論文では上記のほかに多くの考察を加えたうえで、結論部分に、現時点でのスポーツ栄養関連モバイルアプリの潜在的なメリットを表形式でまとめている。その要約を紹介する。

食事分析

メリット
データ入力が省力化される。
使用時の考慮点
摂取エネルギー量を過小評価する傾向がある。過去のアスリートのデータなどを基に作成された、使い勝手の良い直感的な食事摂取量のインターフェースが含まれている場合は、測定精度が高まる可能性がある。

栄養カウンセリングと指導

メリット
アスリートと指導者の間の効率的かつ密接なコミュニケーションを増やす。アスリートの栄養知識向上につながるというエビデンスがある。
使用時の考慮点
栄養知識向上の効果は報告されているものの、それが他の手段の介入よりも効果的であるという点でのエビデンスは限定的。モバイルアプリの利用を、アスリートが好むかという点が重要である可能性がある。また、アプリ主導の栄養知識の向上が、必ずしも栄養行動の変化をもたらすとは限らない。よって、アプリ利用後もアスリートの栄養行動のモニタリングが必要。

体組成の推定

メリット
簡便であり低コスト。
使用時の考慮点
一部のアプリは再現性についてエビデンスがある。ただし、比較対照群での測定値の妥当性が確認されていないため、使用時には個々のアプリの特性を考慮するとともに、別のアプリでの計測値とは互換性がないと考えたほうが良い。

文献情報

原題のタイトルは、「Mobile applications for the sport and exercise nutritionist: a narrative review」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2022 Feb 22;14(1):30〕
原文はこちら(Springer Nature)

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