プロアスリートはアマチュアより地中海食遵守率が高く、オルトレキシア傾向が強い
アスリートの地中海食遵守状況とオルトレキシア傾向を、プロ選手とレクリエーションアスリートとで比較検討した研究結果が、クロアチアから報告された。両群ともに地中海食遵守率とオルトレキシア傾向との間に有意な相関がみられ、かつ、プロ選手はレクリエーションアスリートに比べて、オルトレキシア傾向がより強いという結果が示されている。
オルトレキシアとは
食事に対する不健康な執着~摂食障害の一種―オルトレキシア(時事メディカル)プロアスリートの地中海食の実施状況とオルトレキシア神経症の有病率を探る
地中海式食事療法(Mediterranean diet;MD)は、健康的な食事パターンの一つであり、人々の健康意識の高まりとともにMDを実践する人が増えている。その一方、新たな問題として、健康的な食品の選択に強迫的に執着する病的な食事状態を指す「オルトレキシア神経症(Orthorexia nervosa;ON)」が注目されるようになってきた。オルトレキシアのために、栄養不良、過度の体重減少、日常生活の支障、特定の食品の排除に関連する健康上の問題を引き起こすことがある。
ハイパフォーマンスを維持することが要求されるプロスポーツ選手は食事に気を使い、MDの実践者率も高いと考えられるが、その実態は明らかになっていない。また、プロ選手でのONの有病率も不明。そこで本論文の著者らは、クロアチアのプロスポーツ選手のMD遵守状況とONの有病率の把握を試みた。同時に、その実態をレクリエーションアスリート(アマチュア)と比較検討した。
調査対象と調査項目
調査対象は、同国内のコーチや知人を介して募集された、プロスポーツ選手150人と、対照群のレクリエーションアスリート150人。適格基準は18~40歳で、前者はプロスポーツ選手として登録され、プロの試合に出場していることであり、後者は週に2回以上レクリエーションスポーツを行っていること。
調査項目は、年齢・性別などの基本的情報のほか、国際標準化身体活動質問票の簡易版(International Physical Activity Questionnaire—Short Form;IPAQ-SF)、地中海食スコア(Mediterranean Diet Serving Score;MDSS)、および、ORTO-15という質問票によるオルトレキシア神経症(ON)の傾向を把握した。これらのうちMDSSについては、合計スコアが14点以上を地中海食の遵守が良好と判定した。またORTO-15は15項目から成る質問票で、4段階のリッカートスコアで評価。点数が低いほどONらしさを表す。カットオフ値は40未満が提唱されているが、近年の複数の研究では40未満では過剰診断の可能性があり35未満が適切と報告されている。本研究も35未満を採用した。
対象者の特徴
合計300人のうち、165人(55.0%)が男性、135人(45%)が女性であり、平均年齢は24.2±4.8歳だった。性別(男性の割合)と年齢は、プロと対照群の間に有意差はなかった。
体重(84.1±16.5 vs 77.6±13.8kg)、身長(183.2±10.8 vs 177.4±9.2cm)、BMI(24.8±3.3 vs 23.8±3.0)はプロのほうが有意に高値だった(いずれもp<0.001)。教育歴に関しては、プロスポーツ選手は高卒が最も多く36.7%を占め、対照群は修士号取得者が50.7%を占めていた。
行っている競技はプロは格闘技が多く44.7%を占めた一方、対照群はボクシング、キックボクシング、サッカー、パワーリフティング、ハンドボール、陸上競技、ラグビー、バスケットボール、テニス、バレーボール、ダンスなど多岐にわたっていた。
アマよりプロのほうが地中海食を遵守していてオルトレキシア傾向が強い
では結果だが、まず身体活動量については、プロアスリートは対照群のレクリエーションアスリートと比較して、有意に身体活動量が多かった(3,089.7±1,861.9 vs 2,228.6±957.1MET分/週,p<0.001)。地中海食の遵守状況やオルトレキシア傾向にも群間に有意差が認められた。詳細は以下のとおり。
地中海食の遵守状況:プロ選手のほうがMD遵守率が高い
地中海食の遵守状況を表すMDSSスコアは、プロ選手が8.0(95%CI;6.0~13.0)、対照群が7.0(同5.0~9.0)であり、プロ選手のほうが有意に高かった(p<0.001)。MDSSスコア14点以上で、順守良好と判断される選手の割合も同順に、36%、14%であり、プロ選手のほうが遵守良好者が有意に多かった(p=0.039)。
オルトレキシア傾向:プロ選手は過半数がハイリスク
オルトレキシア傾向を表すORTO-15スコア(点数が低いことがオルトレキシア傾向の強さを表す)は、プロ選手が33.0(31.0~38.0)、対照群37.0(33.0~39.0)であり、プロ選手のほうが有意に低かった(p<0.001)。ORTO-15スコア35点未満で、オルトレキシアの高リスクと判定される選手の割合も同順に、56%、32%であり、プロ選手のほうがハイリスク者が有意に多かった。プロ選手は過半数がハイリスクに該当した。
各指標の相関について
地中海食スコアが高いほどオルトレキシア傾向が強い
MDSSスコアとORTO-15スコアのとの間に、有意な負の相関が認められた。つまり、地中海食をよく遵守しているアスリートほど、オルトレキシア傾向が強かった。相関係数は、プロ選手がr=-0.365、対照群r=-0.309(いずれもp<0.001)であり、類似していた。
身体活動量が多いほどオルトレキシア傾向が強い
また、身体活動量とRTO-15スコアのとの間に、有意な負の相関が認められた。つまり、身体活動量が多いアスリートほど、オルトレキシア傾向が強かった。相関係数は、プロ選手がr=-0.524、対照群r=-0.337(いずれもp<0.001)であり、プロ選手においてより強い相関が認められた。
地中海食を遵守しているほど身体活動量が多い
身体活動量と地中海食の遵守状況との間に、有意な正の相関が認められた。相関係数は、プロ選手がr=0.478、対照群がr=0.318(いずれもp<0.001)。
食事療法遵守の努力がオルトレキシアのリスクを高める可能性
以上から著者らは結論を以下のようにまとめている。
「我々の研究対象アスリートのほぼ4人に1人が地中海食を遵守しており、かつ、プロスポーツ選手はレクリエーションアスリートと比較して地中海食の遵守率が高かった。さらにプロアスリートはレクリエーションアスリートと比較して、オルトレキシア行動の傾向が有意に強かった。地中海食の遵守とオルトレキシア行動傾向、および身体活動量との間に有意な関連が、プロアスリートとレクリエーションアスリートの双方で認められた。これらの結果はすべて、プロのアスリートがレクリエーションアスリートよりも食事パターンを配慮していることを意味し、この努力によってオルトレキシアのリスクが高くなる可能性がある」。
文献情報
原題のタイトルは、「Adherence to Mediterranean Diet and Tendency to Orthorexia Nervosa in Professional Athletes」。〔Nutrients. 2022 Jan 6;14(2):237〕
原文はこちら(MDPI)