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炭水化物補給戦略、摂取とマウスリンスで効果は異なるか? トライアスロン選手での検討

トライアスリートを対象に、炭水化物の摂取と、摂取せずにマウスリンスにとどめる場合とで、パフォーマンやメンタル関連パラメータへの影響に違いがあるか否かを調べた結果が報告された。水泳のスプリントや自覚的運動強度にはどちらの条件でも影響はないが、炭水化物を摂取する条件では、POMSという気分を表す指標に有意な影響が認められたとのことだ。

炭水化物補給戦略、摂取とマウスリンスで効果は異なるか? トライアスロン選手での検討

炭水化物とプラセボの摂取またはマウスリンスという4条件で比較

持久系スポーツでは炭水化物の摂取が競技成績を左右する重要な要素の一つとして位置づけられている。持久系スポーツの中でもトライアスロンは競技時間が長く、筋グリコーゲンや肝グリコーゲンの枯渇を防ぐための炭水化物補給戦略がより重要となる。しかし、競技中の炭水化物摂取は消化器症状を惹起することがあるため、かえって記録が伸び悩むことがある。これに対して、炭水化物の水溶液を口に含んで飲まずに吐き出す、マウスリンスの試みがなされている。今回紹介する論文は、そのマウスリンスの効果を、炭水化物を摂取する場合と比較したもの。

研究参加者とデザイン

研究参加者は男性トライアスリート10人。年齢は26.0±8.7歳、BMI22.0±1.7で、週に10~15時間のトレーニングを行っている。試験デザインは無作為化クロスオーバー法で、以下の4条件を試行した。各条件の試行には7日間のウォッシュアウト期間を設け、また、全条件ともに午後8時から28℃の環境で試行。また、最初の条件の試行前2日間の食事摂取状況を把握し、他の3条件の試行前2日間は同じものを摂取するよう指示した。

試行した4条件は以下のとおり。なお、トレーニング持続時間の12.5%が経過した時点で、これらの試験食を摂取または含嗽した。

  • プラセボリンス:炭水化物0%に人工甘味料(ステビア)で風味付けされたものを口に含み、8秒間含嗽後に吐き出す。
  • プラセボゲル:165mLの水に人工甘味料で風味付けした25gのプラセボゲル(ゼラチン)を摂取する。
  • 炭水化物リンス:プラセボと同様に風味付けされた炭水化物15%の水溶液を口に含み、8秒間含嗽後に吐き出す。
  • 炭水化物ゲル:プラセボと同様に風味付けされた炭水化物15%を含む165mLの水を摂取する。

評価項目

評価項目は、自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)や感情プロフィール検査(profile of mood states;POMS)などとともに、短距離水泳のスプリントタイムを評価した。

このうち自覚的運動強度(RPE)は、「非常に軽い」から「非常に困難」までの6~20点で定量化する。感情プロフィール検査(POMS)は、怒りや倦怠感、緊張、抑うつなどの6因子について、「まったくない(0点)」から「非常に多い(4点)」の5段階で評価する。6因子中4つの因子は負の要素(緊張、怒り、抑うつ、倦怠感)であり、他の2つの因子は正の要素(活力と友好)。

このほかに、血糖値の測定や気分状態を把握するスケールなどを用いた評価を行った。

感情プロフィール検査(POMS)のスコアに、炭水化物ゲル条件で有意な影響

では結果だが、自覚的運動強度(RPE)は、全条件ともにトレーニング前よりトレーニング後のほうが上昇していたが、プラセボリンス条件のみはこの変化が有意でなかった。条件間の差も有意でなかった。

気分や覚醒の状態を把握するスケールのスコアに関しては全条件ともに、トレーニング前後で有意な変化がなく、条件間の差も有意でなかった。また、水泳スプリントの記録や血糖値も、条件間の差が有意でなかった。

一方、感情プロフィール検査(POMS)のスコアに、炭水化物ゲル条件で有意な影響がみられた。具体的には、トレーニング前が84.4±9.85点に対し、トレーニング後は94.4±11.4点で有意に上昇していた(p=0.041)。なお、前述のように、炭水化物ゲルはトレーニング開始後、トレーニング時間の12.5%が経過した時点で摂取された。炭水化物ゲル摂取以外の3条件は、POMSスコアの変化が有意でなかった。

評価されたパラメータの相互の相関をみると、POMSのサブスケールである緊張(p=0.014)や抑うつ(p=0.003)、倦怠感(p=0.002)のスコアの高いほどスプリントタイムが遅くなるという有意な相関が認められた。また、気分のスコアが高いほど自覚的運動強度(RPE)が低いという負の相関も認められた(p=0.004)。

結果のポイントまとめると、トレーニング中にゲル状の炭水化物を摂取した場合に、感情面に有意な影響を期待できる可能性が示された。著者らは、「炭水化物のマウスリンスや、炭水化物を含まない甘味飲料やゲルは、主観的な影響を呼び起こさないようだ」と述べている。ただし、既報論文からは炭水化物のマウスリンスの有効性が示されていることも付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「Ingestion of Carbohydrate Solutions and Mouth Rinse on Mood and Perceptual Responses during Exercise in Triathletes」。〔Gels. 2022 Jan 9;8(1):50〕
原文はこちら(MDPI)

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