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わずか24時間の不活動でも筋肉に脂質が溜まる 不活動によるインスリン抵抗性発生のメカニズム

わずか24時間の不活動が筋肉へのジアシルグリセロール(DG)蓄積を通して、骨格筋インスリン抵抗性をもたらすという研究結果が報告された。この関連には、DGを細胞内で生成する「Lipin1」という脂質代謝酵素が関与していることも明らかにされた。順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの研究グループの研究によるもので、米国内分泌学会の「American Journal of Physiology Endocrinology and Metabolism」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究者らは、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによるステイホームや、座位行動の多さといった不活動が注目される今、新たな生活習慣病発症予防法の開発に有用な成果」と述べている。

わずか24時間の不活動でも筋肉に脂質が溜まる 不活動によるインスリン抵抗性発生のメカニズム

研究の背景:短期間の不活動によるインスリン抵抗性発生メカニズムの解明

生活習慣病である糖尿病やメタボリックシンドロームの病態の根源であるインスリン抵抗性※1は、肥満によって生じることが知られている。その一方で、肥満でない場合でも、ステイホームや座位時間の増加といった不活動の状態が短期間継続するだけで、インスリン抵抗性が生じることが明らかになってきている。

※1 インスリン抵抗性:膵臓から分泌され、血糖を下げるホルモンであるインスリンの感受性が低下して効きにくい状態のこと。主に肥満に伴って出現し、糖尿病の原因になるだけでなく、メタボリックシンドロームの重要な原因の一つと考えられている。肝臓・骨格筋・脂肪組織にそれぞれインスリン抵抗性が個別に生じる。

日本の一般市民の座位時間は諸外国に比べて長いことが報告されており、近年の身体活動ガイドラインにおいては、座位時間を含む不活動の時間を短くすることが推奨されている。しかしながら、なぜ短期間の不活動でインスリン抵抗性が生じてしまうのか、その分子メカニズムはほとんどわかっていない。

そこで研究グループでは、不活動によるインスリン抵抗性発生メカニズムの解明を目指して、動物とヒトを対象とする研究を行った。

研究の内容:Lipin1の活性が不活動によるDGの蓄積と連動

まずマウスの片脚をギプスで固定した不活動モデル動物を作成し、不活動とそれに伴う代謝機能への影響を検証した。

具体的には、24時間の不活動と、悪い生活習慣である高脂肪食(2週間)を組み合わせた4群に対して、インスリン感受性とジアシルグリセロール(DG)※2量を比較した。

※2 ジアシルグリセロール(DG):グリセリンに2つの脂肪酸がエステル結合を介して結合したグリセリドで、トリグリセリドやリン脂質などの脂質の前駆体。また、細胞のシグナル伝達におけるセカンドメッセンジャーとして機能し、骨格筋インスリン感受性低下の原因の1つである可能性が示されている。本研究では、不活動によりDGが骨格筋でLipin1を介して産生され、それが骨格筋細胞内のDG蓄積とインスリン抵抗性を発生させたと考えられた。

その結果、骨格筋のインスリン感受性はわずか24時間の不活動でも半減し(インスリン抵抗性の発生)、高脂肪食単独では変化がなかったものの、高脂肪食に不活動を組み合わせると、インスリン抵抗性がさらに増悪することが明らかになった(図1左)。

また、骨格筋細胞内へDGが蓄積すると、インスリンシグナル伝達を阻害してインスリン抵抗性を生じさせることから、DG量の解析を行った。

すると、不活動で骨格筋のDG量が倍増し、高脂肪食との組み合わせでさらに増加した(図1右)。また、それに伴いインスリンシグナル伝達が阻害されていることがわかった。

これらのことから、骨格筋へのDG蓄積が不活動によるインスリン抵抗性発生のカギであることが示唆された。

図1 各群における骨格筋インスリン感受性と骨格筋DG量

各群における骨格筋インスリン感受性と骨格筋DG量

マウスに2週間の普通食または高脂肪食を摂取させた後、24時間の不活動の状態にして、骨格筋のインスリン感受性とDG量を評価した。その結果、骨格筋のインスリン感受性はたった24時間の不活動でも半減し(インスリン抵抗性発生)、高脂肪食単独では変化がなかったものの、高脂肪食に不活動を組み合わせると、インスリン抵抗性がさらに増悪した。この変化に伴いDGの量は、不活動で倍増、高脂肪食との組み合わせでさらに増加し、インスリン抵抗性の発生と密接に関連していた。
(出典:順天堂大学)

そこで、不活動によってなぜDGが蓄積するのかを明らかにするために、DG蓄積にかかわる様々な代謝経路の探索を行ったところ、細胞内でDGを作り出す酵素であるLipin1※3の活性が不活動によるDGの蓄積と連動していることを見いだした。

※3 Lipin1:主要なMg2+依存性のホスファチジン酸ホスファターゼで、ホスファチジン酸の脱リン酸を触媒し、DGを生成する脂質代謝酵素の1つ(図2)。

次に、遺伝子導入によりLipin1の酵素活性を不活化した骨格筋では不活動によるDGの蓄積やインスリン抵抗性が発生しないことを確認。

一方、ヒトにおいても24時間片足をギプス固定し、その前後で骨格筋生検を行い解析したところ、Lipin1の発現量の有意な増加と骨格筋DG量の増加傾向を認め、マウスの実験と矛盾しない結果が得られた。

以上の結果から、24時間という短時間の不活動においてもLipin1の活性化により骨格筋細胞内へのDG蓄積が生じ、インスリン抵抗性が発生する分子メカニズムが明らかになった(図2)。

図2 本研究で明らかになった不活動によるインスリン抵抗性発生の分子メカニズム

本研究で明らかになった不活動によるインスリン抵抗性発生の分子メカニズム

24時間という短時間の不活動においてもLipin1の活性化により骨格筋細胞内へのDG蓄積が生じ、インスリン抵抗性が発生することが明らかになった。また、高脂肪食はこれらの変化を増悪させた。
(出典:順天堂大学)

今後の展開:Lipin1の活性を抑制する運動様式や栄養食品の開発に期待

本研究により、不活動によるインスリン抵抗性の発生にはLipin1を介したDGの増加が関与し、高脂肪食によりそれらがさらに増悪することが初めて明らかになった。これまでの研究でも、運動により骨格筋代謝が改善するメカニズムの探索は進んでいる。しかし、不活動がなぜ代謝を悪くするのかは未解明の部分を多く残していることから、研究グループは「不活動による骨格筋のインスリン抵抗性発生の分子メカニズムを明らかにした本研究成果は、画期的と言える」としている。

また本研究から得られた知見のインパクトについて、「日本人を含む東アジア人は正常体重であるにもかかわらず生活習慣病になってしまう場合が多い。また、日本の一般生活者は諸外国と比較して座位時間が長いこともあり、本研究で明らかとなったLipin1を介した分子メカニズムを標的にした、東アジア人に向けた新たな生活習慣病予防策の開発が期待できる。例えば、Lipin1の活性を抑制するような運動様式や栄養食品、薬剤を新たに開にすることにより、不活動による生活習慣病の発症を防げる可能性がある」と述べている。今後の研究の方向性については、「不活動は骨格筋萎縮も引き起こすが、その病態基盤としてのLipin1のさらなる役割についても着目し研究を進めていく」とのことだ。

プレスリリース

わずか24時間の不活動により筋肉に脂質が蓄積する~不活動による骨格筋インスリン抵抗性発生の新規メカニズムを明らかに~(順天堂大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Short-term physical inactivity induces diacylglycerol accumulation and insulin resistance in muscle via lipin1 activation」。〔Am J Physiol Endocrinol Metab. 2021 Nov 1〕
原文はこちら(American Physiological Society)

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