ビタミンC経口摂取で急性炎症に伴う内皮機能低下が抑制される FMDとPWVでの検討
ビタミンCを経口摂取することで、急性の炎症反応に伴う血管内皮機能の低下を抑制可能とする研究結果が報告された。その有効性は、年齢にかかわらず認められるという。
若年成人では、急性炎症に伴い血管機能が低下することが知られている。それに対して高齢者では急性炎症による血管機能への影響は明確でない点が多い。本研究は、急性炎症による血管機能への影響を若年者と高齢者で比較するとともに、急性炎症に伴って生じる参加ストレスに対する抗酸化物質であるビタミンCの有用性を検討したもの。
研究参加者の特徴:年齢ではBMIやVO2peakに有意差のない集団
研究参加者は、若年者(18~35歳)が9名と55〜75歳の中高齢者が16名。心血管疾患や炎症性疾患、代謝性疾患、出血性疾患の既往者、降圧薬服用者、BMI30以上、現喫煙者、抗酸化剤またはビタミンサプリメントの利用者、妊娠、経口避妊薬服用者、ホルモン補充療法施行中などの該当者は除外されている。なお、若年成人群の女性は月経周期の最初の7日間に試験が行われた。中高齢者群の女性は全員閉経後だった。
参加者の主な特徴は、年齢は若年者群が24±4歳、中高齢者群が64±5歳、男性/女性の数は同順に3人/6人、13人/3人。BMIは26.2±4.9、25.8±3.2、体脂肪率35.2±6.8%、31.0±6.3%、VO2peak34.3±5.6mL/kg/分、30.9±6.7mL/kg/分だった。年齢と男女比を除いて、BMIやVO2peakを含め群間に有意差はなかった。
FMDとPWVで血管機能を評価
研究参加者はまず、安静時(急性炎症反応を惹起しない条件)でのビタミンC摂取の血管機能への影響が評価された。ビタミンCの用量は、既報に基づき血漿中ビタミンCレベルを生理的に変化させ得る用量とされる2gとし、摂取前と摂取120分後に血流依存性血管拡張反応(flow mediated dilation;FMD)と、脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)を測定した。
なお、FMDは血管径に対する血管拡張反応を%で表した数値で評価される血管内皮機能の指標。PWVなど他の動脈硬化指標に比べて、動脈硬化の初期病態の検出に優れており、数値が小さいほど内皮機能が低下していると判定される。PWVは脈波が1秒間に伝わる距離を表す指標であり、数値が大きいほど血管壁が硬く変性していると判定される。
安静時の測定から少なくとも72時間以上おいた日の同じ時刻に、腸チフスワクチンを接種し急性炎症を惹起。炎症反応はインターロイキン-6(interleukin-6;IL-6)とC反応性蛋白(C-reactive protein;CRP)で評価した。その24時間後の同じ時間帯に、再度、2gのビタミンC摂取とFMD、PWVの測定を行った。
急性炎症による内皮機能低下が年齢にかかわらずビタミンC摂取で抑制される
結果について、最初にベースラインの血管機能をみると、若年者群に比較して中高齢者群はFMDは低く(5.5±3.4 vs 2.42±1.8%,p=0.01)、PWVは高く(5.8±0.8 vs 9.3±2.0m/秒,p<0.001)、いずれも加齢による動脈硬化の進展を表していた。ただし、FMDに関しては、安静時の血管径で調整すると、有意性が消失した(p=0.28)。
安静時にはビタミンCを摂取しても内皮機能は変わらない
次に、安静時のビタミンC摂取後の変化をみると、若年者と中高齢者で類似した影響が認められた。
まず、若年者群ではベースラインの血漿ビタミンC濃度が4.7±2.1μg/mL、ビタミンCを2g経口摂取した90分後は11.7±2.9μg/mL、中高年齢群は同順に6.2±1.2μg/mL、13.3±2.1μg/mLであり、ともに約2倍に有意に上昇していた(いずれもp<0.001)。ただし、炎症を惹起していないこの条件では、FMD(p=0.32)とPWV(p=0.36)に、ビタミンC摂取による有意な変化は観察されなかった。
若年者でも中高齢者でも、急性炎症により低下した内皮機能がビタミンCで回復
続いて腸チフスワクチン接種後の変化をみてみよう。
まず、ワクチン接種により若年者群、中高齢者群ともにIL-6とCRPが有意に上昇し、急性炎症が確認された。血漿ビタミンC濃度は安静時の試験と同様に、若年者群、中高齢者群ともにベースライン値の約2倍に上昇していた。
では、本研究の主題である、ビタミンC経口摂取の影響だが、両群をあわせて解析すると、FMDはワクチン接種後の急性炎症により有意に低下したが(Δ-1.4±1.9%,p<0.01)、ビタミンC摂取により、ベースライン値に回復した(Δ+1.0±1.8%,p<0.01)。ビタミンC摂取後のFMDは、若年者群のほうが中高齢者群よりも高く有意差があったが(p=0.001)、ベースライン時の血管径で調整すると、安静時での検討と同様に有意性は消失した(p=0.17)。
一方、PWVに関しては、急性炎症に伴う有意な変化は認められなかった(Δ-0.0±0.9m/秒,p>0.05)。
この結果を各群ごとにみると、FMDの変化は以下のとおり。
若年者群は、ベースライン値6.3±3.3%、急性炎症惹起時5.8±3.4%、ビタミンC摂取後6.1±3.2%。中高齢者群は同順に、3.5±1.9%、1.6±1.7%、2.8±1.9%。各ポイントでのFMD値は、その前のポイントの値との間で、両群ともにすべてにおいて有意差が存在した。
ビタミンCによる内皮機能改善作用は抗炎症作用とは別?
前述のようにワクチン接種による急性炎症はPWVには有意な変化をもたらさなかった。このことから著者らは、「経口ビタミンC摂取は、若年および高齢者の急性炎症時に、動脈硬化には影響を与えずに内皮機能を回復させる」と結論づけている。また、炎症マーカーが上昇している状態でビタミンC摂取によるFMD低下の抑制が認められたことから、「ビタミンCによる内皮機能改善作用は抗炎症作用とは別の経路も想定され、詳細なメカニズムの検討が求められる」とも付記している。
文献情報
原題のタイトルは、「Oral vitamin C restores endothelial function during acute inflammation in young and older adults」。〔Physiol Rep. 2021 Nov;9(21):e15104〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)