スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2023 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

世界レベルの女性サンボ選手の減量戦略の実態調査 栄養士の影響力は2割にとどまる

日本ではまだ馴染みがあまりないが、サンボというロシア発祥の格闘技がある。格闘技であるために体重階級制のあるスポーツであり、多くの選手は試合前に減量を行う。今回紹介する論文は、女性サンボ選手の減量戦略を調査した研究結果だ。選手の約9割が試合前に減量を行っており、その戦略に影響を及ぼしている存在は、コーチとパーソナルトレーナーだという。

世界レベルの女性サンボ選手の減量戦略の実態調査 栄養士の影響力は2割にとどまる

ソ連赤軍の戦闘技術として採用され、スポーツに転化

サンボは20世紀初頭にソビエト連邦で生まれたスポーツ。ソビエト赤軍の兵士の白兵戦戦闘力と体力の向上を図るために採用された格闘術が発祥。80年の歴史を経て、現在では旧ソ連邦諸国にとどまらず、世界各地にアスリートが存在する。世界選手権が開催され、欧州やアジアのオリンピック委員会が関与する競技会では正式競技にもなっている。

格闘技の常として、サンビストと呼ばれるサンボアスリートも、試合前に急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行い、有利な体重階級で戦おうとする。サンビストのRWLに関しては、これまでに2件の研究報告があるが、女性サンビストを対象とした研究はまだ行われていない。そこで本論文の著者らは、女性サンビストの試合前の急速な減量(RWL)の実態を調査した。

世界トップレベルの女性サンビストで調査

調査の対象は、2020年にセルビアで開催された世界サンボ選手権に出場した、トップレベルのアスリート。この大会には34カ国から計483人のサンビストが出場。そのうち199人が、今回の研究に協力してアンケートに回答した。ただし、そのうち146人は男性、または18歳未満の女性アスリートであったため、解析対象から除外。最終的な解析対象は、「試合前に体重を減らした経験はあるか?」とのアンケート項目に回答した18歳以上の女性サンビストであり、12カ国、計47人だった。

急速な減量(RWL)の戦略などの解析に際しては、シニアグループ(27.3±4歳)とジュニアグループ(18.7±0.8歳)とに分けて行った。シニアは身長1.61±0.09m、体重61.8±8.87kgで、ジュニアは1.66±0.07m、63.7±12.1kg。

女性サンボアスリートの9割が急速な減量を実施

アンケートの結果、女性サンボアスリートの88.7%と9割近くが、試合前に減量を行っていると回答した。

「試合前に減量をするようになったのは何歳か?」という質問に対する回答は、シニア選手は15.5±5.2歳、ジュニア選手は14.2±2.7歳だった。「試合の何日前から減量するか?」という質問の回答は、シニア選手11.9±10.2日、ジュニア選手11.8±7.9日だった。減量の幅はシニア選手3.5±1.4kg、ジュニア選手3±1.5kgであり、試合後の体重回復は同順に、5.2±9.7kg、2.7±1.3kgだった。

減量戦略に最も影響を与えている存在はコーチで、栄養士の影響は2割弱

アスリートの急速な減量(RWL)戦略へ影響を及ぼしている存在として、コーチ、パーソナルトレーナー、医師、栄養士などを挙げ、それぞれについて、非常に影響力がある、やや影響力がある、どちらとも言えない、影響力がほとんどない、影響力がないという5段階で回答してもらい、前二者(やや影響力がある、非常に影響力がある)の割合を比較した。

その結果、最も影響力が強いのはコーチであり、「やや影響力がある」と「非常に影響力がある」の合計が67.4%だった。次いで、パーソナルトレーナーが43.7%、医師が12.7%であり、栄養士は19.1%と影響力か小さかった。

また栄養士に関しては、「影響力がない」との回答が、シニア選手で62.5%、ジュニア選手で73.9%を占めた。この割合は、アンケートの選択肢に挙げられているスタッフの中で最多だった。ちなみに、コーチを「影響力がない」と回答したのは、シニア選手12.5%、ジュニア選手で21.7%、パーソナルトレーナーに関しては同順に41.7%、34.8%、医師は50.0%、69.6%。

減量手段は、段階的ダイエット、サウナ、水分制限、食事を抜くなど

RWLの手段を、常に用いる、時々用いる、稀に用いる、全く用いない、かつて用いていたが現在は用いないという5種類の中から選んでもらい、前二者(常に用いる、時々用いる)の割合を比較した。

その結果、最も用いられていた方法は、段階的なダイエットであり、「常に用いる」と「時々用いる」の合計が83.0%だった。次いで、サウナが72.9%、水分制限72.4%、食事を抜く70.3%と続いた。利尿剤(12.7%)や下剤(6.4%)の服用、嘔吐(6.4%)なども、多数ではないながら一定数存在した。

RWLに関する教育セミナーなどの必要性

著者らによると、「本研究はエリート女性サンボアスリートのRWLの問題を評価した初の研究」と述べている。RWLは、健康被害のリスクがあり、かつ試合のパフォーマンスの低下や試合後のリバウンドなどの弊害がある。しかし本調査では、女性アスリートのRWL戦略に最も重要な影響を与えたのは、コーチとパーソナルトレーナーであり、医師や栄養士の関与は限られていることが明らかになった。著者らは、「科学と実践の間には一定のギャップがあるようだ」と表現している。

この状況の改善のために考えられる実際的な方法として、著者らはRWLに関する教育セミナーを開催することを提案している。そして、その教育の主要なトピックは、体重の5%を超える過度の減量の有害性に重点を置き、またアスリートの長期的な健康に関する有害性を強調する必要があるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Principles of Rapid Weight Loss in Female Sambo Athletes」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Oct 28;18(21):11356.〕
原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024前期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ