筋トレ+栄養介入のサルコペニア予防の相乗効果は? メタ解析からクレアチンの可能性が示される
筋力トレーニングに栄養介入をプラスした場合、相乗効果が発揮されて筋力トレーニング単独よりも有効性が高まるのだろうか。この疑問をシステマティックレビューとメタ解析により検討した研究結果が報告された。全体的にはネガティブな結果だが、栄養介入の方法別に検討すると、有意性が認められるものもあるようだ。
栄養介入にサルコペニア予防効果はあるのかないのか?
高齢者に多くみられる筋肉量や筋力の低下、つまりサルコペニアの予防や改善には、筋力トレーニングが重要であることを示す研究結果が多い。それに対して、栄養介入は単独では有効性が乏しいことも示されている。一方、筋力トレーニングに栄養介入を上乗せすると、有効性が発揮されるとする研究報告が複数ある。ただし一方でそれを否定する報告もみられ、結果に一貫性がない。本研究は、筋力トレーニングに栄養介入をプラスした介入試験の結果を統合して統計解析を行い、その有用性を検討した報告。
システマティックレビューは2名の研究者が独立して、MEDLINE(PubMed)、Cochrane CENTRAL、Embaseという文献データベースを用いて行った。2020年7月までに公開された論文の中から、栄養、食品、食事、運動、筋力トレーニング、高齢者、筋肉量、筋力、身体的パフォーマンス、歩行速度などのキーワードを用いて検索した。
60歳以上の健康な市民が含まれているRCTを抽出
適格条件は、研究対象に60歳以上の地域在住の健康な高齢者が含まれていること、レジスタンストレーニングと栄養介入を行う群が設定されている無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)であること、筋肉量や筋力などにより身体機能を評価していること、英語で執筆され査読システムのあるジャーナルに掲載されていることとした。60歳以上という年齢の設定は、一般的に退職する時期であり、活動量が低下しサルコペニアリスクが高まりやすい年齢であるため。また、健康な人に限定したのは、研究間の不均一性を抑制するため。
除外基準は、対象者に悪性腫瘍、重度の慢性疾患、またはADLが制限されるサルコペニアレベルの該当者が含まれている研究、動物実験、薬物介入を行っている研究、減量やエネルギー摂取制限を目的とした栄養介入研究、筋合成や炎症などのマーカーのみをエンドポイントとしている研究、比較対照群が設定されていない研究、観察研究など。
日本発の6件の研究を含む、22件の研究のメタ解析
検索でヒットした結果の重複を削除後に、3,641件が残った。論文のタイトルとアブストラクトのレビューにより92件に絞り込まれ、全文レビューの結果、25件が抽出された。そのうち3件はメタ解析に必要なデータを特定できなかったため、メタ解析は残りの22件の研究報告を対象に実施した。
これらのRCTは1998~2020年に報告されており、研究が行われた国は、日本とカナダが各6件、ブラジルが4件、米国とオランダが2件、英国、フランス、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンが各1件。サンプルサイズは14~161の範囲であり、6件は男性のみ、5件は女性のみで実施され、14件は男性と女性が含まれていた。平均年齢が70歳未満の研究が12件、70歳超の研究が13件だった。
栄養介入はタンパク質やクレアチンによるものが多くみられる
運動介入(筋力トレーニング)の頻度は、非連続の日に週に2回とするものが6件、週3回が16件であり、2件は連日、1件は週に1回だった。
一方の栄養介入については、8件がタンパク質の追加摂取、5件がクレアチン摂取、2件がn-3系不飽和脂肪酸(ω3PUFA)のほか、ビタミンCとEが2件などで、数種類の栄養素を組み合わせて介入を行ったものも複数存在した。大半の研究では対照をプラセボ摂取群としていた。
介入期間は8~24週間の範囲にあり、13件が12週間、9件が24週間、他に8週間、14週間、18週間が各1件だった。
全体解析では有意な効果が示されず、サブグループ解析では一部に有効性
栄養介入の有効性は、除脂肪体重、四肢骨格筋量、握力、膝伸展強度、および、椅子立ち上がりテスト、TUGテスト(timed up&go test)などで評価されていた。本研究では、それらに対する栄養介入への効果を、該当する研究全体で解析するとともに、介入に用いた栄養素ごとのサブグループで解析している。
まず抽出された研究全体での解析の結果をみると、除脂肪体重については12件のRCTで評価されており、うち1件は筋力トレーニングに栄養介入を上乗せすることで、有意に除脂肪体重が増加することを報告していた。ただしメタ解析の結果は、平均差(mean difference;MD)0.13(95%CI;-0.75~1.02)であり、有意でなかった。
膝伸展強度については15件のRCTがあり、うち1件は栄養介入の上乗せの有効性を報告していたが、メタ解析の結果は、MD0.09(95%CI;-0.04~1.23)であり、有意でなかった。四肢骨格筋量については6件、握力については8件のRCTで評価されており、いずれも栄養介入の上乗せの有効性は示されておらず、メタ解析の結果も非有意だった。また、椅子立ち上がりテストやTUGテストの結果にも、有意な影響は認められなかった。
サブグループ解析ではクレアチンの有用性が示唆される
続いて、栄養素別のサブグループ解析の結果をみると、クレアチンで介入した研究のメタ解析から、除脂肪体重と膝伸展強度において、対照群との有意差が示された。
具体的には、クレアチン介入で除脂肪体重への影響を検討した4件のRCTのメタ解析の結果、MDは2.61(95%CI;0.51~4.72)であり、研究間の異質性も低かった(I2=9%)。 また膝伸展強度への影響を検討した2件のRCTのメタ解析の結果は、MD0.74(95%CI;0.09~1.38)だった(I2=7%)。
栄養介入の評価には、より長期間の観察が必要か
これらの結果を著者らは、「レジスタンストレーニングに栄養介入をプラスすることは、体組成、筋力、身体機能に追加のメリットを及ぼさないことが示された。クレアチンのみが、筋量に対する相乗効果が認められる」とまとめている。
一方で本研究には、英語論文のみを対象としたメタ解析であることに加え、検討対象を健康な高齢者のみに絞り込んだことにより、有効性の有意差が得られにくい条件となった可能性があることなどの限界点を挙げている。後者のポイントはつまり、サルコペニア該当者を対象とすれば介入効果が現れやすいのに対し、健康な人では介入してもそれ以上は状態が改善しないという「天井効果」が、結果が非有意となった一因であることに言及したもの。
また、本メタ解析の対象とした研究の介入期間が最大で24週間であることも、結果に影響を及ぼした可能性があるという。その根拠として、6年間という長期間に及ぶ縦断研究からは、栄養介入による筋力へのポジティブな影響が報告されていると述べ、栄養介入によるサルコペニアの予防は長期的な戦略として用いるべきであることも示唆している。
文献情報
原題のタイトルは、「Does the combination of resistance training and a nutritional intervention have a synergic effect on muscle mass, strength, and physical function in older adults? A systematic review and meta-analysis」。〔BMC Geriatr. 2021 Nov 12;21(1):639〕
原文はこちら(Springer Nature)