プロバイオティクスで持久系アスリートのパフォーマンスを向上可能か 系統的レビューの報告
持久系アスリートのパフォーマンスに対するプロバイオティクスの有効性を検討した研究を対象とするシステマティックレビューが、スペインの研究者らにより報告された。直接的な因果関係は明らかでないが、免疫システムへの影響が認められ上気道感染症が抑制されて、間接的にスポーツパフォーマンスにプラスの影響を及ぼす可能性が示唆されたという。
期待が膨らむプロバイオティクスサプリのエビデンスを確認する作業
プロバイオティクスサプリメントには、宿主の健康を促進するさまざまな菌株の生きた微生物が含まれている。これらのサプリメントは、スポーツパフォーマンスの向上、上気道感染症(upper respiratory tract infection;URTI)や酸化ストレス、消化器症状の抑制などを目的に、アスリートの利用が広がっている。
腸内細菌叢とスポーツの関係は双方向性と言える。一つは、運動負荷、とくに持久系スポーツの負荷によって、酸化ストレスや腸管透過性の亢進、電解質不均衡、グリコーゲン枯渇などが生じ、腸内細菌叢の組成が変化する可能性がある。もう一つはその反対に、腸内細菌叢の変化が免疫系、消化管活動、エネルギーの取り込み、および酸化や炎症反応に影響を及ぼす可能性がある。
一部のエリートアスリートは、消化器症状を抑えるために食物繊維の少ない食事を摂ることがあるが、これは腸内細菌叢の多様性の低下につながると考えられる。このようなケースでの補完代替手段としてのプロバイオティクスサプリメントの利用も研究されている。
このようにプロバイオティクスの可能性は広がりを見せているが、これらの関係のエビデンスレベルは十分に高いとは言えないものもある。これを背景として著者らは、「プロバイオティクスサプリメントは持久系アスリートのスポーツパフォーマンスを改善するか?」という質問の答を探るために、本システマティックレビューを行った。
9件のヒトを対象としたRCTを抽出
文献検索には、PubMed、Web of Science(WOS)、Scopus、SPORT Discus、Embaseを用い2016~2020年に公開された論文を対象とした。適格基準は、査読システムのあるジャーナルに発表された論文であり、全文が公開されていて、ヒトを対象とした研究であって、英語またはスペイン語で執筆されているもの。除外基準は、介入対象を置いていない基礎研究、システマティックレビュー、メタアナリシス、ナラティブレビュー、レター、エディトリアル、書籍など。検索用キーワードは、持久力トレーニング、運動パフォーマンス、プロバイオティクス、プレバイオティクスを用いた。
合計26件の論文がヒットし、タイトルとアブストラクトに基づくスクリーニングにより10件が抽出された。そのうち1件は全文が公開されていなかったため、9件の英語で執筆された論文を解析対象とした。
抽出された9件の研究の傾向
抽出された研究報告はすべて二重盲検下で実施された無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT)だった。9件中8件はサンプル数が50人未満であり、その他の1件のみ、研究参加者数が243人と比較的多数だった。また9件中5件は男性のみを対象とし、男性と女性の双方を対象とした研究は4件だった。
介入期間は12~140日の範囲で、摂取タイミングは朝食前、朝食後、毎食時、朝夕、運動後、就寝前などさまざまであり、摂取回数は1日1~3回だった。評価指標もさまざまで、酸化ストレス、炎症反応、スポーツパフォーマンス、免疫システム、上気道感染症などのいずれか、または複数が含まれていた。
9件中5件が肯定的な結論
9件の報告のうち5件はプロバイオティクスの利用に肯定的な結論を述べていた。例えば、酸化ストレスの抑制(炎症性サイトカインが6~13%低下、抗炎症性サイトカインが55%上昇)したという報告や、上気道感染症有病率の低下などが報告されていた。また、プロバイオティクスとタンパク質の摂取により、回復に要する時間が短縮するとの報告もみられた。
9件中3件は、スポーツパフォーマンスへのプロバイオティクスの直接的な影響を論じていた。それらの研究からは、プロバイオティクスサプリの摂取によって腸内細菌叢の多様性が高まり、有益な細菌が増加する一方で病原細菌は減少して、運動後のパフォーマンス低下と筋緊張を緩和する可能性が示されている。
肯定的な結論を示していた5件の研究のうち2件で確認されたメリットは、スポーツパフォーマンスの改善は確認できないものの、トレーニング負荷の増加が観察されたことから、二次的にメリットをもたらし得るというものだった。また、上気道感染症の抑制を介して競技シーズン中の欠場やトレーニング中断のリスクが軽減されることを示していた。
間接的にパフォーマンスを支持するのではないか
これらの定性的な分析のうえで著者らは、プロバイオティクスの摂取は、免疫能の改善、酸化ストレス抑制、炎症抑制を介して上気道感染症や消化器症状のリスクを低下させることでトレーニングレベルの向上や運動負荷後の回復を促進し、それによってパフォーマンスを改善するのではないかとの考察を述べている。
この他の可能性として、プロバイオティクスがアスリートにとって重要なメンタルヘルス状態にも有利に働く可能性が考えられという。ただ、そのテーマでの研究も複数あるがエビデンスレベルは高くないとし、さらなる研究が必要としている。
一方、プロバイオティクス使用にともなう有害事象の報告は見つからなかったという。ただし、免疫不全者が使用した場合の影響について、現在、研究が進行中とのことだ。
文献情報
原題のタイトルは、「Impact of Probiotics on the Performance of Endurance Athletes: A Systematic Review」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Nov 4;18(21):11576〕
原文はこちら(MDPI)