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ロシアの持久系アスリートの疲労回復戦略はエビテンスと乖離? ロシア全国レベルの選手を調査

ロシアのエリート持久系スポーツアスリートの疲労回復戦略の実態を調査した結果が報告された。サウナ入浴やマッサージ、睡眠などが人気で、冷水浸漬やコンプレッションガーメント(圧縮衣服)などは不人気であり、科学的エビデンスが示されている疲労回復手段との乖離が存在するとのことだ。

ロシアの持久系アスリートの疲労回復戦略はエビテンスと乖離? ロシア全国レベルの選手を調査

トップアスリートはどのような疲労回復戦略をとっているのか?

過度のトレーニングで発生する最も一般的なマイナスの影響として、筋力の一時的な低下を伴う遅発性筋肉痛(delayed onset muscle soreness;DOMS)が挙げられる。多くのアスリートにとって疲労からの回復の主観的な指標は恐らくDOMSであり、その程度と期間の最小化を図ることが多い。しかし、アスリートがDOMSに対してどのような手段で影響の最小化を図っているのかという研究は少ない。とくにトップアスリートを対象とするこの種の研究報告はみられない。よって、理想的には科学的エビデンスの裏付けがある方法を利用していることが望まれるものの、その実態は不明。

ロシアで行われた本研究の研究者らは、同国では伝統的にサウナ入浴とマッサージが長年、陸上競技のコーチによってトレーニングキャンプ中に必須要件として実施されてきたことから、サウナ入浴とマッサージの人気が高いものと仮定しつつ、本検討を行った。

持久系アスリート153人を対象に調査

検討の対象の適格基準は、ロシア国内全国陸上競技会参加以上のレベルであり、ドーピング違反の履歴がなく、研究参加に同意した18歳以上の持久系アスリート。除外基準は、疾患治療中、過去2年以内の心血管疾患または呼吸器疾患の既往、心理社会的または感情的な状態にある場合。

この基準を満たす153人が研究に参加した。年齢は22.7±4.6歳、61.4%が男性で、参加競技は競歩が52.3%、中距離(800~5,000m)28.8%、長距離(1万m以上)18.9%。競技レベルは52.3%が同国内の全国選手権参加者であり、39.9%は国際大会出場経験があり、7.8%は国際大会での受賞歴があった。

ほぼ全員がサウナを利用し、マッサージも9割近くが利用

最も利用されていた回復方法は、サウナ入浴で96.7%、次いでマッサージが86.9%であり、昼寝81.0%、9時間以上の長時間睡眠61.4%と続いた。その一方で、エビデンスのある冷水浸漬とコンプレッションガーメントの利用率は、それぞれ15.0%、7.8%とごく限られた利用にとどまっていた。これらの傾向に性別による差は認められなかった。

マッサージの利用率は競技レベルで有意差

マッサージの利用率は、アスリートの競技レベルにより有意差が存在した。国内レベルでは80.0%、国際レベルでは93.4%、国際大会受賞レベルでは100%と全員が利用していた(p=0.024)。

マッサージの頻度を週1回未満、1~2回/週、3~4回/週、週4回以上に分けると、週4回以上が43.6%で最も多く、とくに男性では51.2%と過半数を占め、女性との有意差が存在した。女性では1~2回/週が43.4%を占め最多だった。

1回のマッサージに充てる時間は最大60分が最多で75.2%と4人に1人が該当した。性別による差はなかった。また、競技種目による差もなかった。

サウナ入浴の利用率は競技レベルなどでの有意差なし

サウナ入浴の頻度を1~2回/週と3~4回/週に分けると、96.6%と大半が1~2回/週だった。1回のサウナ入浴に充てる時間は最大60分が最多で42.2%を占め、次いで最大30分が29.5%、60分以上が24.5%、最大10分が4.1%だった。

これらの結果に性別による差はなかった。また、マッサージの利用率でみられたような競技レベルによる差異は認められなかった。競技種目による差もなかった。

競歩選手は昼寝、国際大会受賞レベルの選手は長時間睡眠の利用率が高い

疲労回復のための昼寝の利用率は、国際レベルのアスリートで最も高く91.3%であり、これは国内レベルアスリートの72.5%と有意差が存在した(p=0.015)。国際大会受賞レベルは、両者の中間にあたる83.3%だった。また、昼寝の利用率は競技種目による有意差もみられ、競歩選手は93.8%と高く、中距離選手の65.9%や長距離選手の69.0%より利用率が高かった(p<0.001)。

一方、長時間睡眠については国際大会受賞レベルの選手の利用率が91.7%と高く、他群との有意差があった(p=0.046)。国内レベルは55.0%、国際レベルは63.9%だった。なお、昼寝でみられた競技種目による差は、長時間睡眠に関してはみられなかった。

国際大会受賞レベルの選手は全員がコンプレッションガーメントを利用

疲労回復手段としてのコンプレッションガーメント(圧縮衣服)の利用率は、競技レベルで大きく異なっていた。国内レベルでは2.5%とごくわずかであり、国際レベルでも16.4%であるのに対して、国際大会受賞レベルは全員が利用しており100%だった。

なお、該当者数が少ないため、競技種目による差も含めて、有意性の検討はされていない。

冷水浸漬は中距離選手で利用率が高い

冷水浸漬の利用率は中距離選手が31.8%であり、競歩選手の8.8%や長距離選手の6.9%より高かった。競技レベル別では、国内レベルと国際レベルはそれぞれ16.3%と16.4%であり同等だったが、国際大会受賞レベルは0%で1人も利用していなかった。

なお、該当者数が少ないため、競技種目による差も含めて、有意性の検討はされていない。

既報のエビデンスとの相違の考察

以上の結果からの考察として著者らはまず、アスリートの競技レベルが高いほどさまざまな疲労回復手段の利用率が高いことが明らかになった点を、主要な発見の一つとして挙げている。そのうえで、それぞれの回復手段について考察を加えている。

そのうち、本研究の参加アスリートの大半が疲労回復手段として利用していたサウナ入浴については、「サウナ入浴は熱順応を高める効果は示されているが、運動後の疲労回復法として有効性を示すエビデンスはない」としている。また、二番目に利用率が高かったマッサージについては、「柔軟性が回復し遅発性筋肉痛(DOMS)が抑制される可能性はあるが、そのエビデンスは不十分。ただし既報研究はマッサージの施術時間が40分以内で、対象がアマチュアアスリートの研究が多く、一方、今回の調査はエリートアスリート対象で大半の選手が60分の施術を受けているという違いがある」と述べている。

他方、疲労回復のエビデンスのあるコンプレッションガーメントの利用率が低い点に関しては、ロシアのアスリートやコーチでの認識が低いことが理由ではないかとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Prevalence of Use of Various Post-Exercise Recovery Methods after Training among Elite Endurance Athletes」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Nov 7;18(21):11698〕
原文はこちら(MDPI)

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