スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2023 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

寒い季節の運動で、身体への負担を軽減し高パフォーマンスを発揮するための推奨事項

寒さ、激しい雨や風、または雪などの寒冷環境でスポーツを行う際に、身体への影響を抑制し、かつ高いパフォーマンスを発揮するための推奨事項をまとめた論文が発表された。この領域のエビデンスがまだ不足していることから、主として著者らの文献的考察によりまとめられたもの。著者陣は、イタリアやオーストリア、カナダの山岳医療やスポーツ医学の専門家などで構成されている。

寒冷環境下でウインタースポーツパフォーマンスを発揮するための推奨事項

スポーツへの“寒さ”の影響は“暑さ”の影響ほど研究が進んでいない

スポーツ中の環境に関連する事故として近年、熱中症への注意喚起がなされることが多い。しかしその反対の寒冷への注意も無視できない。本年5月には中国でのトレイルランで、寒冷の影響により20名以上の参加者が亡くなっている。そのような深刻な事故には至らないとしても、暑熱環境でスポーツパフォーマンスが低下するのと同様に、寒冷環境でもパフォーマンスが低下する可能性がある。

本論文は、このトピックに関する限られた科学的エビデンスを精査・集約し、「スポーツパフォーマンスに対する寒冷暴露の影響」、「寒さ、寒さへの暴露および潜在的な健康問題での運動」、「結論と実用的な推奨事項」という3項目に分けて論説している。ここでは「結論と実用的な推奨事項」の項目のみを取り上げて紹介する。

実用的な推奨事項

特定の条件でのスポーツに関する推奨事項

非ウインタースポーツでの寒冷環境への曝露

非ウインタースポーツが寒冷の悪天候の条件で実施されることがある。例えば、サッカー、アメリカンフットボール、クロスカントリー、トレイルラン、自転車競技、マラソンカヌーなどは、想定外の寒さに直面することがある。その場合の推奨事項は、防護服を着用して放射冷却を減らすために皮膚の被覆を増やすことだ。

事前に寒冷環境が予測されている場合は、準備期間を長く設定する。準備には冷水への浸漬による寒冷への馴化も検討される。

寒冷環境が筋肉に及ぼす影響や寒冷関連傷害のリスクについて、アスリートやサポートスタッフは情報を周知すべきである。

持久系ウインタースポーツ

持久系ウインタースポーツは、氷点下の条件で行われることが多い。これらのスポーツで考慮すべきことは、極端な(可能性として-40℃)寒さとなることも否定できないことだ。-20℃未満の環境で競技会が決行される可能性は低いものの、リスクとして想定する必要がある。

また、長時間の寒冷曝露は身体冷却の影響を悪化させる。さらに、身体活動に伴う発汗による体温への影響も考慮する必要がある。

スピード・パワー系ウインタースポーツ

フリースタイルスキー、ルージュ/ボブスレー、スケルトン、スキージャンプ、スピードスケートなども、持久系ウインタースポーツと同様に、パフォーマンスと健康への影響が考慮される。また、高強度の試合の合間に休息・非活動的な時間帯があるため、代謝熱産生に持久系ウインタースポーツとは異なる影響が生じる。さらに、スピードを競う競技であるため、風速が熱バランスに影響を与える。

すべてのスポーツグループにわたる一般的な推奨事項

寒冷馴化

寒冷環境でのパフォーマンス低下を抑制するために、寒冷馴化が有効な可能性があるが、その知見は少なくエビデンスに基づいた推奨はできない。しかしこれまでの研究から、寒冷馴化が交感神経の活性化を抑制することが示唆されており、これはパフォーマンスにプラスの影響を与える可能性がある。それには、例えば血流が維持されるといった効果が含まれる。

また、寒冷環境で通常の生活を送ることは急性の寒冷暴露に対する代謝反応の良好な調整に資すると考えられる。よって競技前の寒冷環境でのトレーニング期間を長く設定することが、寒冷環境での運動の熱行動的側面を変える可能性がある。

安全性

トレーニングの観点からは、-15℃に至らない極端な寒さの条件では、練習/トレーニングセッションのキャンセルが必要になるか、可能であれば屋内に移動する必要がある。極寒の中でトレーニングを行う場合、発汗による身体への影響を抑制するために、適切なタイミングで着衣を替え、また体温低下抑制のため、通気性のある吸湿発散性のウエアは着用しないことが推奨される。四肢には、特別な注意を払う必要がある。

栄養面での配慮:寒冷地に移動前に十分なグリコーゲンローディングを

栄養に関しては、とくに持久系ウインタースポーツを寒冷地で行う前に、グリコーゲンを十分に蓄えておく必要がある。グリコーゲンローディングが少なくエネルギーが不足すると、パフォーマンスが低下する。

また、運動強度が低下すると熱産生が減少し、かつ運動中に末梢血管収縮が生じにくくなり熱損失の高い状態が持続して、低体温症が発症するリスクが上昇する可能性があると報告されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Practicing Sport in Cold Environments: Practical Recommendations to Improve Sport Performance and Reduce Negative Health Outcomes」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Sep 15;18(18):9700〕
原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024前期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ