偏食が社会不安障害やQOL低下を引き起こす恐れ 米国・大学生の調査結果
食べ物の好き嫌いが激しい大学生は、野菜や食物繊維の摂取量が少ないだけでなく、社会不安障害のスコアが高くてQOLが低いという、大学生対象の調査結果が米国から報告された。多くの人にとって大学生に相当する年齢の時期は、自分自身の判断で食べる物を選択するようになる最初の時期にあたる。これまで偏食に関する研究は小児を対象とするものが多く、著者によると「大学生の偏食の実態とそれによる影響はあまり知られていなかった」という。
4割弱の大学生が偏食で、その65%は口にする食品が10品未満
この研究の対象は米国中西部にある大学に在籍する、18~24歳の学生。579人が調査に回答し、回答内容が不十分なものなどを除外して、488人分が解析対象とされた。調査項目は、食べ物の好き嫌いの有無とその程度、食事摂取量、偏食に伴う苦痛、QOL、および、社会不安障害の有無とその程度。なお、社会不安障害は、自分の行動をほかの人に観察されたり判断されたりすることを恐れ、また人前で恥をかくのではないかと不安が募るといったメンタルヘルスの不調のこと。
解析対象488人の主な特徴は、平均年齢が19.8±1.3歳で、女性が76.4%、白人83.0%、異性愛者85.5%、中産階級53.9%。このうち190人(38.9%)が「食べ物の好き嫌いがある」と判定され、そのなかの124人(65%)は、口にする食品が10品未満と回答した。
偏食のある大学生の好みの食べ物として、パスタ、チキン(チキンナゲットなど)、フルーツ、ピザ、ジャガイモ、野菜、サンドイッチ/ハンバーガー/ホットドッグ、パン、サラダ、米、シリアル、チップ/クラッカー、卵が挙げられた。
偏食のある大学生は社会不安障害のスコアが高く、QOLが低い
偏食をする大学生とそうでない大学生を比較すると、前者は食物繊維(14.9±3.6 vs 16.0±3.4g/日,p=0.001)と野菜(マメ科植物とフライドポテトを含む。1.4±0.4 vs 1.6±0.4カップ/日,p=0.001)の摂取量が有意に少なかった。さらに、社会不安障害(SPS)のスコアが有意に高かった(2.0±1.0 vs 1.7±0.8点、p<0.001)。
また、偏食の激しさは社会不安障害の程度と正相関し(R2=0.12,p<0.001)、QOLとは負の相関関係があった(R2=0.06,p=0.001)。
本研究では以上のような定量的な検討に加え、記述回答の定性的な検討により、偏食に伴う課題などをまとめている。
偏食に伴う課題とメリット
「食べ物の好き嫌いがある」と判定された学生から182件の偏食に伴う課題の記述回答が寄せられた。このうち、情報が不十分などの理由で31件が除外され、残りの139件を分析した結果、食べられる食品を見つけるのが困難、緻密すぎる食事の計画などの問題が浮かび上がった。
偏食に伴う課題
食べられる食品を見つけるのが困難
回答者の約半数は、ほかの人から提供された食事を食べるときに、食べられるものを見つける方法について語っていた。「外食や友人宅では食べものの選択肢が少ない」(21歳の白人女性)。また、複数の学生が旅行中の食事について、同じ文脈で語っていた。「韓国に行ったとき、食べるものを見つけることが信じられないほど困難だった」(21歳のアジア人女性)。
食べ物を避ける、または食事をしない
回答者の約3分の1は、特定の食品を避けるように努力する、または食事を食べないように努力していると語った。「以前は友達と外食していたが、好き嫌いのせいで、食事で過ごす場面の半分は水を飲むだけだった」(19歳の白人男性)。
一緒に食べる人との付き合いの困難
好き嫌いの激しい大学生の一部は、食品以外にも食事にまつわる不快感や気苦労を報告していた。「私が食品を避けたり食事をとらないために、両親は非常に不満を感じているだろう」(23歳の白人女性)。「ガールフレンドの家族と一緒に食事をするとき、彼らのコメントへの応対に苦しむことがある」(18歳の白人男性)。
緻密すぎる食事計画
一部の大学生は、食事の計画を入念に立てる必要を感じていた。「家族や友人の家で食事をするときは、食べたいものがあるかどうかわからないので、おやつを持っていく必要がある」(21歳の白人女性)。「別の食事を頼む必要があったり、レストランを選ぶのに苦労したり、食事を注文するのに過度の時間を費やしたりする」(19歳の黒人女性)。
一般的ではないが重要な事象
回答は多くはなかったが、偏食に伴う無視できないデメリットとして、「何も食べられない懇親会に出席しなければならないとき、人々の評価が気になる」(23歳の白人男性)といった心理的負担や、数名ではあるが、嫌いな食べ物を食べることに関連する生理学的課題、例えば嚥下困難、吐き気を生ずるなどの回答がみられた。
メリット
一方、好き嫌いのあることに伴うメリットが175件寄せられた。このうち43件はコード化されず、情報不十分のため4件が除外され、118件の回答が定性的に分析された。
食べ物やレストランの選択がシンプル
最も一般的に言及されたメリットは、食品の選択肢の範囲が限られているため、食品またはレストランを簡単に選択できることだった。「好き嫌いが多いがために、嫌悪感を感じることはほとんどない」(21歳の白人女性)。
より健康的な食事を選択する
回答者の4分の1は、偏食に伴う制限のためにより健康的な食事の選択が可能になったと述べていた。好き嫌いの強いことは、摂取する食品の量と質の双方に影響を与えているとの回答も多かった。
食中毒の回避
一部の大学生は、好き嫌いするために食中毒を避けられると語っていた。家族や友人が汚染された食品や不適切に調理された食品を食べて病気になったが、自身は何もなかったとの回答が複数みられた。
食品のコスト削減
とくに外食時に出費が減るというメリットも、複数の学生が挙げていた。「初めてレッドロブスターに行ったとき、選択できる食べ物は安い食べ物だった」(18歳の黒人女性)。
社会不安障害を伴う偏食は、回避制限性摂食障害につながる可能性
論文では以上の定量的・定性的分析に基づき、「好き嫌いのある大学生は、そうでない大学生に比べて社会不安障害のレベルが高く、QOLの低下にも関連していた」とまとめ、「大学生活に順応するのが困難な学生に対する支援に際しては、偏食の評価も必要」と述べている。
また、社会不安障害のレベルが高い場合は、単に味覚や食感の好みによる偏食ではなく、メンタルヘルス上の問題に起因する摂食障害である回避制限性摂食障害(avoidant restrictive food intake disorder;ARFID)とオーバーラップする可能性もあることに触れ、今後も研究が必要なテーマであるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「Consequences of Picky Eating in College Students」。〔J Nutr Educ Behav. 2021 Oct;53(10):822-831〕
原文はこちら(Elsevier)