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女性トップアスリートの健康やパフォーマンスを規定する因子は何か?

エリート女性アスリートの健康やパフォーマンスは、何によって規定されるのだろうか? そんな素朴であり根源的な疑問を解き明かそうとする研究の結果が報告された。ニュージーランドのトップレベルの女性アスリートを対象に、疾患や傷害の既往、月経状態、体型、サポートスタッフとの関係など、広い範囲の質問項目で構成されたオンラインアンケートの回答を解析した結果だ。研究者らは、「女性の性別特有の健康上の懸念の広がりだけでなく、症状の過少報告と過小認識、健康関連知識の教育不足などの問題が浮かび上がった」と述べている

女性トップアスリートの健康やパフォーマンスを規定する因子は何か?

研究の背景:女性トップアスリートの健康とパフォーマンスを左右する因子が不明

スポーツでの女性の活躍が著しいが、それに反してエリート女性アスリートの健康障害の頻度と影響に関するデータは限られている。観察研究からは、エリートか非エリートかにかかわらず女性アスリートの摂食障害、月経機能障害、鉄欠乏、骨塩密度低下の高い有病率が報告されている。とくに、低体重または審美的に評価される競技参加者では、これらの健康問題は、スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)として重視されている。

これら、アスリートであることで生じる要因のほかに、社会文化的要因もエリート女性アスリートの健康とパフォーマンスに影響を与える。例えば、女性らしさを求める社会の期待、男性のコーチとの距離感、また、ソーシャルメディア、観客、スポンサーなどは女性アスリートにとってのプレッシャーの源として認識されている。

2016年のオリンピックのニュージーランド代表選手の50%以上が女性であるにもかかわらず、女性の健康とパフォーマンスに焦点を当てたリソースはほとんどない。そこでこの研究では、以下の3点に焦点を当てたアンケート調査を実施した。(1)疾患履歴、婦人科疾患または健康関連症状の有病率、(2)健康への悪影響に対する社会文化的危険因子の存在、(3)ホルモン避妊薬の使用状況。

ハイパフォーマンスアスリートがアンケートに回答

アンケートの内容は、社会学、生理学、応用生理学、内分泌学、スポーツ医学、栄養学、心理学の専門家からなる学際的チームによって作成された。調査への参加は、ニュージーランドのハイパフォーマンスアスリートを支える組織「High Performance Sport New Zealand(HPSNZ)」のサポート対象のアスリート、357名に対して要請された。

このうち61%に相当する219件の回答があった。84%がエリートレベルで、16%は成長段階にあるアスリートだった。38%が月に少なくとも70時間のトレーニングを行っており、チームスポーツと比較して個人競技アスリートのトレーニング量は有意に多かった。アスリートの大多数(47%)は、エリートレベルのスポーツに5~10年間参加し、25%は10年以上参加していた。より詳細は以下のとおり。

回答したアスリートの背景

年齢は15~19歳が28.3%、20~24歳39.3%、25~29歳24.7%、30歳以上7.8%。月あたりのトレーニング時間は10~29時間が10%、30~49時間20%、50~59時間29%、70時間以上38%。人種は大半(82%)が欧州人で、マオリが8%、その他(パシフィカ、アジア)などが参加していた。

競技種目は、ローイング(ボート)21%、ホッケー13%、7人制ラグビー12%、サイクリング9%、体操9%、その他36%(セーリング8%、ネットボール7%、カヌー6%、パラスポーツ3%、トライアスロン2%、水泳2%、乗馬1%など)。

疾患既往歴、受傷歴:鉄欠乏、疲労骨折が多い

臨床的に診断された怪我や病気で多いものとして、鉄欠乏症(47%)、疲労骨折(23%)、脳震盪(18%)などが挙げられた。

より詳細に層別化して比較すると、傷害は体重負荷のある競技種目で頻発しており、体重負荷のない競技との比較で有意差が存在した(p<0.028)。また、成長中のアスリートはエリートシニアアスリートより傷害リスクが高かった(p=0.002)。チームスポーツのほうが個人スポーツよりも傷害のリスクが高い傾向があったが有意でなかった(p<0.059)。

チームスポーツと比較して、個人スポーツ選手のほうが、医学的に診断される疾患を報告することが有意に多く(p=0.047)、また個人スポーツ選手のほうが高いトレーニング負荷を報告していた(p<0.001)。

薬剤やサプリメントの使用率:避妊薬は4割弱、サプリは7割弱が使用

全体の46%が定期的に処方薬を使用していた。最も多いのはホルモン避妊薬(37%)であり、非ステロイド性抗炎症薬(6%)、喘息薬(6%)、抗うつ薬(3%)が続いた。また、66%は定期的にサプリメントを使用しており、最も一般的なのはタンパク質、ビタミン、カフェイン、プロバイオティクス、鉄だった。

15~19歳のアスリートは20歳以上の年齢カテゴリーのアスリートに比較して、処方薬(p=0.036)とサプリメント(p=0.048)の使用率が有意に低かった。トレーニング時間の多寡は処方薬とサプリメント使用率に関連がなかった。鉄補給は、鉄欠乏症と診断されたアスリートで高かった(p<0.001)。

月経の状態:2割強が初経発来遅延

全体の36%は思春期発来が人より遅いと感じており、実際に22%は初経発来の遅延(15歳以上)の診断基準を満たしていた。初経発来のための介入(投薬、体重増加、運動量の抑制)を必要としたのは2名だけだった。

調査時にホルモン避妊薬を使用していなかった選手(63%)のうち、37%に稀発月経がみられ、13%は無月経だった。稀発月経や無月経の既往を有することは、疲労骨折(p=0.018)、摂食障害(p=0.008)の既往歴と正の関連があり、鉄欠乏(p=0.058)とも有意水準には至らないながら関連する傾向がみられた。

前述のように全体の37%はホルモン避妊薬の現使用者であり、その使用目的は避妊だけでなく、月経の操作、月経の規則性、症状およびにきびの軽減のためにも頻用されていた。避妊薬使用者の56%が副作用を報告し、最も一般的なのは気分障害と体重増加だった。

大多数のアスリートが、骨盤痛(115/202)、倦怠感(99/202)、腰痛(94/202)、睡眠障害(58/202)など、パフォーマンスに影響を与える可能性のある月経関連症状を報告していた。これらの月経関連症状は、若年選手(p=0.022)、資金提供を受けていない選手(p<0.001)、トレーニングの頻度が少ない選手(10~19時間/月 vs 50時間/月以上で、p=0.003)でよくみられた。

月経周期とパフォーマンス

アスリートの3分の1(32%)は、月経周期によってトレーニング量が影響されると報告したが、トレーニング量に対する明らかな傾向は認められなかった。大多数(86%)は、月経関連症状のためにトレーニングの変更や不参加を報告していなかった。トレーニングを変更した人(29名)の90%は、激しい痛み(68%)、倦怠感(61%)、意欲の欠如(54%)、気分の落ち込み(46%)、激しい出血(25%)、消化器症状(21%)、頭痛(18%)によって、過去6カ月間にトレーニングを1~5回変更していた。

アスリートの54%は、コンピューターソフトウェア(68%)または紙/電子日記(21%)を使用して、月経周期を記録していた。

体型の外観とパフォーマンスに関連するストレス

73%のアスリートは、エリートスポーツへ参加する者は特定の体型を持っているべきというプレッシャーを感じており、そのようなプレッシャーは自身の健康に害を及ぼす可能性があると感じていた。

パフォーマンス関連のプレッシャーの原因は、スポーツ自体(80%)、ソーシャルメディア(59%)、コーチ(53%)だった。22名のアスリートが、コーチからパフォーマンス関連の理由で体重を減らすように言われたと報告した。

33名(15%)は、理想的な体型の維持のために摂食障害の状態にあると報告した。それに関連する行動として、食事制限(11%)、休息日のトレーニング(7%)、嘔吐(2%)、下剤の使用(0.5%)が挙げられた。

コミュニケーションと情報源

80%は月経周期に関するサポートスタッフとのコミュニケーションに障壁がないと回答した。障壁があるとした20%のうち、障壁のあるコミュニケーションの対象として挙げられたのは、男性コーチ(90%)、男性の医師(47%)などで、性別が関係していた。

成長段階にあるアスリートに比較してエリートアスリートは、コミュニケーションの障壁をより多く報告していた(p=0.02)。チーム競技と個人競技との比較では、有意差はなかった。

健康情報の情報源は、仲間のアスリート(40%)、医師(37%)、自分自身の研究(30%)、コーチ(23%)、理学療法士(20%)、ソーシャルメディアまたはウェブサイト(18%)の順だった。

女性エリートアスリートに影響を及ぼす社会的要因の研究を

以上より著者は、「さまざまなスポーツのエリート女性アスリートを対象としたこの調査で、さまざまな因子が健康や幸福、パフォーマンスに与える影響が浮き彫りになった。例えば、月経周期をモニターしているアスリートが半数しかいないことも明らかになった。月経周期のモニタリングを推進する必要があるだろう。その他、審美的な要素は依然として女性アスリートにとって大きな負担であり、教育と文化の進化を通じて積極的に対処する必要があることが示唆された」と述べるとともに、「この調査結果が、このトピックのさらなる研究につながることを期待したい」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Biological and Socio-Cultural Factors Have the Potential to Influence the Health and Performance of Elite Female Athletes: A Cross Sectional Survey of 219 Elite Female Athletes in Aotearoa New Zealand」。〔Front Sports Act Living. 2021 Feb 18;3:601420〕
原文はこちら(Frontiers Media)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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