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収入の多寡と心肺機能に関連あり 日本人労働者対象の研究で明らかに

2021年04月17日

適度な強度での運動が心肺機能を高めることは間違いない。持久系スポーツのアスリートの多くが、心肺機能の向上を期待してトレーニングを続けている。しかし、一般成人の場合、心肺機能を規定する因子は運動に関連することばかりではないようだ。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所が行った、日本人労働者対象の研究結果が「Journal of Occupational Health」に掲載された。その結果は、雇用形態や収入、学歴などが、運動習慣の有無や心肺機能と有意に関連するというものだ。

収入の多寡と心肺機能に関連あり 日本人労働者対象の研究で明らかに

心肺機能や運動習慣と社会経済的因子との関連を調査

この研究の対象は、1都3県(埼玉、千葉、神奈川)で1日6時間以上、週3日以上働いている、20~65歳の一般成人。2018年1~7月にWebアンケートとして実施され、回答者が1万人になった時点で受付を終了し、回答内容の不備があるものなどを除き9,406人(男性56.0%)を解析対象とした。

アンケートでは、年齢、性別、身長、体重のほか、学歴、婚姻状況、雇用形態、勤務状況、年収といった社会経済的因子に関することと、運動習慣などを質問した。

運動習慣や心肺機能の評価法について

運動習慣については、厚生労働省の定義による「1日30分、週2日、1年以上の継続的な運動」を実施しているか否かや、運動をすることに対する考え方などを質問した。また、運動の頻度、期間、強度について尋ねた7つの質問から得られた回答を加算して、身体活動スコア(0~44点)を算出。

心肺機能は、年齢、性別、BMI、身体活動スコアを基に、先行研究にて精度が検証済みの以下の計算式より、推算最大酸素摂取量(VO2max)を算出して評価した。

推算VO2maxの計算式:
59.96+(-0.23×年齢)+(7.39×性別〈女性0、男性1〉)+(-0.79×BMI)+(0.33×身体活動スコア)

運動習慣の有無や推算VO2maxと関連するさまざまな因子が明らかに

運動習慣の有無と社会経済的因子の関係

解析対象者の平均年齢は男性44.5±11.2歳、女性41.7±10.8歳、BMIは同順に23.4±3.5、21.0±3.5。運動習慣のある人の割合は男性36.5%、女性28.4%で、推算VO2maxは41.3±5.1mL/kg/分、35.9±4.7mL/kg/分であり、運動習慣のある人は全体の32.9%だった。

運動習慣の有無で二分し両群を比較すると、未婚者(30.9%)より既婚者(34.7%)、推算VO2max低値群(第1三分位群。12.3%)より高値群(第3三分位群。60.3%)のほうが、その割合が高かった。

学歴(大学院卒36.7%、高卒27.8%)や、雇用/被雇用・雇用形態(雇用者41.5%、フルタイム従業員34.0%、パートタイム27.6%)も、運動習慣の有無と関連がみられ、また標準体重(BMI18.5~24.9)の人は、低体重や肥満者よりも運動習慣のある人の割合が有意に高かった(いずれもP<0.01)。

なお、年齢は運動習慣の有無と関連がなかった。

推算VO2maxと社会経済的因子の関係

社会経済的因子は、年齢、性別、BMIで調整後の推算VO2maxとも有意な関連が認められた。例えば、高卒者に比べて大卒者は、推算VO2maxが第1三分位群に該当する確率が15%低かった(OR0.85、95%CI;0.74~0.98)。

また、パートタイム従業員に比較してフルタイム従業員はOR0.78(95%CI;0.68~0.89)、雇用者はOR0.73(95%CI;0.58~0.92)であり、いずれも推算VO2max低値である確率が有意に低かった。

年収と運動習慣、推算VO2maxの関係

年収と運動習慣や推算VO2maxとの間にも、有意な関連が認められた。

具体的には、年収の第1三分位群の人に比べて第2三分位群の人は、運動習慣がある確率が22%高く、第3三分位群の人は76%高かった。

また、年収の第1三分位群の人に比べて第3三分位群の人は、推算VO2maxが低値である確率は47%低かった。なお、年収が第1三分位群の人と第2三分位群の人の推算VO2max低値である割合は、有意差がなかった。

運動習慣のない人も運動の必要性を感じている

運動をすることに対する考え方についての質問の回答から、全体の92.7%が「運動は健康に良い」と考えていることがわかった。また運動習慣がない人でもその72.5%は「できれば運動習慣を身に付けたい」と考えていた。

運動の必要性を理解していても始めていない人に、その妨げとなっていることを質問した結果、上位2項目は、「時間がないこと」(39.7%)と「経済的な余裕がないこと」(15.9%)だった。

これらの結果を基に著者らは、「大半の労働者は運動の意義を認識しているが、社会経済的因子がそれを妨げている可能性がある。よって、運動不足は個人の問題だけではなく、社会の構造的な問題としても扱う必要がある」とまとめている。

なお、「もし職場健診で心肺機能を簡単に測定できるのなら受けてみたいか」との質問に対し、約8割(78.9%)は「受けてみたい」と回答したことから、「職場健診に心肺機能検査を導入することが、運動を習慣づける対策として有用かもしれない」と考察している。

東京オリパラが運動習慣を変え得るか?

このほか、開催が眼前に迫った東京オリンピック・パラリンピック(東京2020)に関する質問として、「東京2020開催が、自分の運動習慣に影響を与えると思うか」という質問も設けられていた。

その回答は、「そうは思わない」が80.8%を占めるという結果だった。とくに、運動習慣のない人では「そうは思わない」が87.2%であり、運動習慣のある人の67.6%より有意に多かった。東京2020を契機に一般市民の運動習慣が一気に増えることは、あまり期待できないかもしれない。

文献情報

原題のタイトルは、「Socioeconomic status relates to exercise habits and cardiorespiratory fitness among workers in the Tokyo area」。〔J Occup Health. 2021 Jan;63(1):e12187〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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