若年のウィンタースポーツアスリートの最適な栄養戦略を探るナラティブレビュー
ウィンタースポーツを行う若年アスリートに対する栄養戦略をまとめた論文が報告された。この領域はまだ研究が不足しており、ガイドラインを策定するほどエビデンスが蓄積されていない。著者らは、文献検索に基づくナラティブレビューとして、考慮すべき事項を考察している。
ウィンタースポーツの特徴と、成人とユースの違い
成人アスリートに対してはスポーツ栄養ガイドラインが存在するが、ことウィンタースポーツアスリート向けの推奨はごく限られている。とくに若年(ユース)ウィンタースポーツアスリート向けの情報はほとんどない。
かといって、成人アスリートの推奨事項をユースアスリートに安易に適用することは、この時期のアスリートでは成長と成熟が重要であることから不適切であり、ユースアスリートを「小さな成人アスリート」として扱うことはできない。また、この時期のアスリートは成長の個人差が大きく、最大4年程度の幅があるとされ、年齢のみで栄養所要量を判断することもできない。
一方、ウィンタースポーツに特有の考慮すべき事項も存在する。競技種目は、スキー、アイスホッケー、カーリングなど多岐にわたり、これらの競技場は屋内または屋外に大別され、通常は寒冷な環境で行われるが、競技により環境温度が異なる。また、高高度で行われるものと、低地で行われるものとの差もある。
本論文の著者らは、文献検索で入手可能であって報告から、ユースウィンタースポーツアスリートに重要な栄養上の考慮事項と課題を検討した。文献検索には、Scholar、PubMed、Web of Science、およびScopusを使用した。データベースのスタート時点から2020年12月までに収載された報告を対象として、キーワードとして、栄養、エネルギー消費、アスリート、若年者、冬、スポーツを設定した。要点のみを紹介する。
摂取エネルギー量
ユーススポーツアスリートにとってのエネルギー確保の重要性
十分なエネルギー可用性は、最適な成長と成熟、およびスポーツパフォーマンスに不可欠(成人の場合は45kcal/kg除脂肪体重/日)。
考慮事項とその実践的適用
ユースウィンタースポーツアスリートのエネルギー要件は、各アスリートの体格、成長率、非運動性熱産生(non-exercise activity thermogenesis;NEAT)、および、スポーツ固有の要求(トレーニングと競技の負荷を含む)により、大きく異なる。成長率(身長と体重)と成熟度(最大発育時期〈peak height velocity;PHV〉からの経過)を年に3~4回確認する。スポーツによるエネルギー可用性の低下(relative energy deficiency in sport;RED-S)が考えられる症状、例えば慢性疲労感、気分の落ち込み、パフォーマンスの低下、体調不良、集中力の欠如、免疫能の低下、女性の初経発来遅延などに注意する。
教育事項
さまざまな食品のエネルギー密度と主要/微量栄養素含有量の理解。典型的な1日の食事を計量し視覚化する。欠食しないことの重要性。学校の行事や遠征などのスケジュールに合わせて栄養計画を立てる。
微量栄養素
微量栄養素は、正常な生理学的機能を維持するために必要。成長や成熟、パフォーマンスのためのエネルギーを直接的に供給するものではないが、多くの代謝経路で重要な役割を果たす。現在のところ、ユースアスリートが非アスリートよりも、微量栄養素を追加摂取することを推奨するエビデンスはないが、考慮を必要とする。
まず、成長と成熟のために、いくつかの微量栄養素の必要性が高まる。身体活動による消費エネルギー量の増加に比例して微量栄養素の必要量が増加するわけではないものの、必要量は増える。微量栄養素の補給は、不足が想定される場合のみ、追加摂取が考慮される。
カルシウム
若年期までに、成人の骨密度の約95%に到達することから、ユースアスリートにとってカルシウムは重要な微量栄養素である。しかし、多くの研究から、ユースアスリートのカルシウム摂取量が不足していることが報告されている。
カルシウム摂取に関して、ユースウィンタースポーツアスリートに固有の考慮事項は、知り得る限り見あたらない。なお、カルシウムに加えて、リン、マグネシウム、ビタミンDなどの他の栄養素も骨代謝に重要。ユースアスリートは、リンとマグネシウムが不足している可能性は低いものの、最近、ユースウィンタースポーツアスリートはビタミンD欠乏症のリスクが高い可能性が報告された。
ビタミンD
ユースウィンタースポーツアスリートにとってのビタミンDの重要性
ウィンタースポーツアスリートは、ビタミンD欠乏症のリスクがある。ビタミンDはカルシウムととともに骨代謝にとって重要であり、骨格の成長と発達に欠かせない。
考慮事項とその実践的適用
ビタミンDレベルを評価し、結果に応じてビタミンD3を補給する。ビタミンDレベルは簡便な指刺しにより採取した血液でも測定できるが、モニタリングできない場合、冬季の間、安全な用量(通常800IU/日、5,600IU/週)の補給が、欠乏予防に有用なことがある。人種、居住地の緯度、および日光曝露を考慮し判断する。
教育事項
食事から十分な量を得ることは困難な場合がある。安全なレベルの日光への暴露が重要。安全なレベルの日光曝露やサプリメント摂取により、欠乏を防ぐ必要があることもある。
鉄
ユースアスリートにとっての鉄の重要性
鉄は多くの生物学的プロセスにとって重要なミネラル。成長とともに鉄の需要は増加し、女性では初経発来後さらに増加する。
考慮事項とその実践的適用
ユースアスリートは食事による鉄摂取が不十分なことが多く、鉄欠乏症の有病率が高い。鉄の必要量は、高度なトレーニングにより増加する可能性がある。非ヘム鉄(主に非動物由来)は生物学的利用能が低く、菜食主義者のアスリートは鉄欠乏リスクが高い。鉄の吸収はビタミンCとともに摂取すると強化され、お茶やコーヒーとともに摂取すると低下する。鉄欠乏症の場合の鉄補給は医師によって処方されるべき。
教育事項
鉄分が豊富な食品とその生物学的利用能の理解。鉄の吸収を阻害または促進する食品および組み合わせの理解。鉄欠乏症の症状(原因不明の倦怠感、集中力の喪失、パフォーマンスの低下など)の理解。
サプリメント
サプリメントは臨床的に診断された欠乏症(ビタミンD欠乏や鉄欠乏症など)の治療に必要なことがあるが、すべての必須栄養素の十分な摂取を含む多様な食事をとることに、常に焦点をあてるべき。
一方、ホエイ蛋白、カルニチン、分岐鎖アミノ酸などのサプリメントは、ユースアスリートの間で人気が高い。これらのサプリメントのいくつかは、パフォーマンス向上効果を生む可能性がある。ただし、流通しているものの中には、健康リスクやドーピングリスクのあるものも存在する。サプリメントに“潜在的な”短期的メリットに期待するのではなく、食生活の最適化を優先し長期的に取り組む必要がある。
水分補給
ユースウィンタースポーツアスリートにとっての水分補給の重要性
成人とユースアスリートでは、体温調節メカニズムの成熟度が異なる。さらに、スポーツ環境、ウエア、運動負荷、発汗などにより、熱放散とその後の反応に差異が生じる。
考慮事項とその実践的適用
ウエアに加え、環境(温度、湿度、高度など)も考慮する。トレーニングおよび競技中の適切な水分の利用可能性の確保(環境温度を考慮しながら)、十分な水分摂取により、過度の脱水(体重の2%以上)を防ぐ。風味を加え、必要に応じて温かい、または冷たい飲料として、嗜好性と摂取量を増やす。尿色を確認する(薄い色の尿を目指す)。トレーニングや競技の前後で体重を測定し水分の喪失を評価し、最適な水分補給戦略を決定する(1kgの体重減少につき1.5Lの水分補給)。
教育事項
水分補給/脱水症状を説明するための尿カラーチャートを示す。水分喪失の評価法、特定のスポーツに最適な水分補給戦略の理解。
教育
栄養教育は、栄養知識の向上だけでなく、食材の購入、食品衛生、料理などのスキルの向上にも焦点をあてるべき。また、対象を親/保護者にも拡大する必要がある。一方で、過度に規範的であることは避けることにも配慮する。エビデンスに基づいて指導する。
文献情報
原題のタイトルは、「Key Nutritional Considerations for Youth Winter Sports Athletes to Optimize Growth, Maturation and Sporting Development」。〔Front Sports Act Living. 2021 Jan 27;3:599118〕
原文はこちら(Frontiers Media)