メタボの人は食べ過ぎていないが、摂食行動に問題あり 国内住民対象研究の知見
メタボリックシンドローム(MetS)の人への栄養指導にあたって、まず対象者の年齢や目標体重、身体活動量などから算出した摂取エネルギー量を伝え、その中で栄養バランスを整える方法を指導することが多いのではないだろうか? これは、摂取エネルギー量の過多が肥満につながっているという、至極当然な考え方に基づく指導法といえる。しかし、MetSの人の摂取エネルギー量はMetSでない人と差がないという研究結果が発表された。その一方で、MetSの人には摂食行動上の問題が多くみられるという。
長野県佐久市の住民対象コホート研究の登録時データを解析
この研究報告は、長野県佐久市で行われている住民対象コホート研究「佐久健康長寿プロジェクト」のベースラインデータを解析した結果であり、三重大学大学院医学系研究科公衆衛生・産業医学分野の森田明美氏らの論文が、「Journal of Physiological Anthropology」に掲載された。
解析対象は、2009年5月~2013年3月に佐久総合病院人間ドックで健診を受け、研究参加に同意した成人4,446人(男性2,602人、女性1,844人)。平均年齢は男性59.2歳、女性58.4歳で、BMIは同順に23.7、22.3だった。
摂食行動を55項目の質問で評価
対象者の摂取エネルギー量と栄養バランスは、自記式質問票の回答を基に算出した。また、摂食行動については日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン」に取り上げられている食行動質問票で評価した。
この食行動質問票は、「体質や体重に関する認識」「食動機」「代理摂食」「空腹、満腹感覚」「食べ方」「食事内容」「食生活の規則性」という7領域について、合計55問の質問で構成されている。0~3点の4段階のリッカートスケールで回答してもらい、その合計スコアが高いほど非健康的な摂食行動であると判定する。
MetS群と非MetS群で摂取エネルギー量は同等
MetS該当者は、男性20.6%、女性6.1%だった。
MetSの有無でエネルギー摂取量を比較すると、男性のMetS群は2,350±694kcal/日、非MetS群は2,387±680kcal/日、女性は同順に1,880±519kcal/日、1,937±514kcal/日であり、いずれも有意な群間差はなかった。
年齢と摂取エネルギー量で調整後の比較では、男性の非MetS群のほうがMetS群よりもむしろ有意に摂取量の多い栄養素が見いだされた。
MetS男性は嗜好飲料の摂取量が多いが、肉類等の摂取量は非MetS男性のほうが多い
次に、日常的に摂取している食品群を比較すると、男性では非MetS群のほうが、穀物、豆・大豆製品、緑黄色野菜、肉類、牛乳・乳製品、菓子を有意に多く摂取していることがわかった。その一方で、嗜好飲料の摂取量についてはMetS群のほうが多く、群間に有意差が存在した。年齢と摂取エネルギー量で調整しても、穀物以外については引き続き有意差が維持されていた。
女性に関しては、年齢と摂取エネルギー量で調整後の比較において、MetS群のほうが穀物の摂取量が有意に多く、芋類の摂取量は非MetS群の方が有意に多かった。
摂食行動は、男性・女性ともにMetS群が有意に非健康的
続いて摂食行動とMetSの関連をみると、評価した7領域それぞれのスコアと、それらの合計スコアのいずれもが、男性・女性ともにMetS群のほうが有意に高いという結果だった。
以上の結果は、(1)MetSの人の食事摂取量は、一部の栄養素と食品を除いてMetSでない人より多いわけでなく、その一方、(2)MetSの人の摂食行動はMetSでない人より有意に悪い――という2点にまとめられる。
著者らは本研究が横断研究であるために因果関係には言及できないことや、喫煙・飲酒・身体活動習慣の影響が調整されていないことなどを限界点として挙げている。その上で、「メタボリックシンドロームは単純に栄養・食品の過剰摂取が原因なのではなく、食事スタイルの"質"に問題があることが示唆される」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「The associations of eating behavior and dietary intake with metabolic syndrome in Japanese: Saku cohort baseline study」。〔J Physiol Anthropol. 2020 Dec 14;39(1):40〕
原文はこちら(Springer Nature)