100kmウルトラマラソンの参加者数や記録の変遷 高齢世代を支える栄養計画の必要性
1960年以降2019年までに行われたウルトラマラソンの参加者、完走者の年齢や性別、記録を詳細に調査した結果が報告された。この間に競技人口とイベント数が飛躍的に増加し、とくに高齢世代の躍進が目覚ましいという。
1960年以降の100kmウルトラマラソン公式レースを調査
ウルトラマラソンは、完走に6時間以上かかる、またはマラソンの距離(42.195km)より長距離のランニングレースとして定義されている。近年、世界的な人気の高まりが見られ、1998年から2010年にかけて北米でのイベント数は、21から52に増加した。ただし、他の陸上競技に比較し、経年的な記録の推移が詳細に分析されていないことも確か。そこで本論文の著者らは、100kmウルトラマラソンのイベント数、参加者、走行記録、とくにマスターアスリートの記録、性別による記録の差などを調査・分析した。
これらのデータ収集には、ドイツのウルトラマラソン協会(Deutsche Ultramarathon Vereinigung;DUV)のWebサイトを利用した。同サイトには、1960年から2019年に行われた100kmウルトラマラソン公式レースについて、フィニッシャー(完走者)の名前や性別、年齢、国籍、レース記録が記されている。
結果の概要
その記録には、2,067件のイベント、71万5,571人の参加者のデータが含まれていた。参加者の13.4%は女性で、86.6%が男性だった。年齢は18歳から最高齢は94歳であり、平均43.8±10.6歳だった。国籍は、ドイツ10.0%、フランス10.1%、その他79.9%。
記録は最短が363.9分、最長5,221.9分で、平均は854.5±255.2分だった。
イベント数や参加者の特徴の推移
より詳しくみてみよう。
ます、開催されたイベント数を10年単位で比較すると、直近の10年(2010~2019年)に大幅に増加していた。具体的には、2000~2009年の10年のイベント数が379件だったのに対し、2010~2019年は1,373件だった。
参加者数も、男女ともに指数関数的に増加しており、2010~2019年の間に100kmウルトラマラソンに参加登録した男性は36万9,969人、女性は6万9,668人だった。ただしイベント数の伸びのほうがより大きく、1件あたりの参加者数は減少していた。イベント1件あたりの参加者数は2000年以降、320人ほどで落ち着いている。
平均走行速度が速かったのは1990年代、ただし70歳以上は記録更新中
平均走行速度は1990年代までは徐々に早くになっていたが、それ以降は低下がみられる。年齢層別では50歳代の走行速度が最も早い。
各イベントの上位3位までの参加者の平均走行速度をみると、男性は1980年代、女性は1990年代が最も早かった。70歳未満は1999年まではパフォーマンスを向上させていたが、それ以降はプラトーかもしくは低下している。一方で70歳以降の参加者では今でも平均走行速度がアップし続けている。
全期間の性別・年齢層別の平均走行速度は以下のとおりで(単位はkm/時)、平均では男女ともに50歳代が最速である。
20代男性6.0±1.6、女性5.9±1.9、30代男性7.2±2.3、女性6.8±2.3、40代男性7.8±2.4、女性7.3±2.3、50代男性7.9±2.1、女性7.4±2.0、60代男性7.7±1.7、女性7.2±1.6、70代男性7.3±1.4、女性6.9±1.4、80代男性6.5±1.3、女性6.0±1.0、90代男性5.6±1.0、女性5.9±1.0。
一方、各イベントの上位3位までの参加者の平均走行速度は以下のとおりで、男女ともに40歳代が最速であり、全体平均よりも若い。 20歳男性9.2±2.2、女性8.2±3.0、30歳男性10.3±2.8、女性8.4±2.5、40歳男性10.8±2.8、女性8.7±2.4、50歳男性10.4±2.5、女性8.6±2.1、60歳男性9.5±2.1、女性8.1±1.9、70歳男性8.4±1.8、女性7.6±1.8、80歳男性6.7±1.5、女性7.0±2.3。
1990年以降、平均走行速度の男女性は非有意。ただしトップランナーは別
記録を性別で比較すると、1990年以降、男性と女性の参加者で、有意なパフォーマンスギャップがみられなくなった。このような傾向は、走行距離がより短い80kmウルトラマラソンでも示されている。
対照的に上位3人の記録に絞ってみた場合、男性の記録のほうが依然、有意に速い。ただし、男女間のギャップは徐々に減少し続けている。
高齢アスリートを支える栄養計画の必要性
本研究で明らかになった注目すべきことの一つとして、高齢アスリートの躍進が挙げられる。他の世代の記録がプラトーかもしくは低下傾向にあるなか、高齢アスリートの記録更新が続いている理由として著者らは、近年の高齢世代が生理学的に良好になっていることを反映している可能性、当初の参加者数が少なかったために記録が向上しやすい状況にあることの影響、および、これまで他の世代が少しずつ蓄積してきたノウハウを短期間で吸収できたという背景を考察している。
いずれにしても、高齢者層の100kmウルトラマラソン参加は今後も増え、かつ当面は記録が更新されていくと考えられ、それを支えるトレーニング計画や栄養計画を確立することの必要性を著者らは指摘している。
文献情報
原題のタイトルは、「An Analysis of Participation and Performance of 2067 100-km Ultra-Marathons Worldwide」。〔Int J Environ Res Public Health. 2021 Jan 6;18(2):E362〕
原文はこちら(MDPI)