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中学生の便秘に果物不足、朝食欠食、運動不足などが関与 世界初の縦断研究で明らかに

日本人中学生を対象とした研究から、果物摂取量が少ないこと、心理ストレスが多いことに加え、生活習慣が変わって朝食欠食や運動不足になった生徒では、便秘の発症リスクが有意に上昇することがわかった。富山大学の研究グループが同県内の中学生約1万人を対象に行った「富山出生コホート研究」のデータを解析した結果であり、「BMC Public Health」に論文掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。同研究グループは本研究を、子どもの便秘のリスクを明らかにした世界初の大規模縦断研究と位置付けている。

中学生の便秘に果物不足、朝食欠食、運動不足などが関与 初の縦断研究で明らかに

実態がよくわかっていない、子どもの便秘問題

便秘は一般的によくみられる症状であるにもかかわらず、他の消化器疾患に比較して注目されることが少ない。さらに、子どもの便秘に関しての研究は、世界的にも非常に少ないのが現状。しかし、小児期に便秘であった子どもは成人期以降も便秘が続きやすいこと、成人における重度の便秘は虚血性腸炎(壊疽型)、巨大結腸症といった生命を脅かす疾患のリスクと関連があることなどが知られている。また、便秘は非常に有病率が高いため、近年は医療経済的な問題として取り上げられることが増えてきた。

これまでの研究で、野菜や果物などの食物摂取不足、運動不足、心理的ストレスが、子どもの便秘と関連することが報告されている。しかしこれらの研究は、ある時点のデータを基に便秘症状と関連する因子を検討した横断研究であり、因果関係については言及できない。それに対して今回発表されたデータは、一定期間、対象者を継続的に追跡して便秘の発症と関連のある因子を見つけ出す前向きの縦断研究であり、その結果からは因果関係を述べることが可能。

小学4年生を中学1年まで、3年間追跡した縦断研究

この調査は、平成元年度生まれで3歳時に富山県内に在住した全児童(約1万名)を対象とし、生活習慣や家庭環境と児童の健康への影響を調べる「富山出生コホート研究(1989-2005年)」として実施された。今回の研究では、小学4年生時のデータ(第3回)と中学1年生(第4回)が用いられた。第3回の9,378名から、分析に必要な質問項目に回答していなかった児童と、既に便秘を発症していた児童を除いた7,858名を抽出して追跡。最終的に5,540人(追跡率 70.5%)を分析対象とした(図1)。

図1 子どもの便秘の縦断研究の概念図

子どもの便秘の縦断研究の概念図

(出典:富山大学)

3年間で4.7%が便秘を新規発症

調査の結果、中学1年生までの3年間に、対象者全体の4.7%(男子2.7%、女子6.8%)が便秘(排便が3日に1回以下)を発症した。

多変量ロジスティック回帰分析の結果、便秘発症には、果物摂取不足、心理的ストレスが多いことに加え、小学生時代から朝食を抜くようになったことと(OR1.83)、運動をする習慣がなくなったことが(OR1.56)、有意に便秘のリスクを上昇させていたことがわかった(図2)。

図2 子どもの便秘の縦断研究の主な結果

子どもの便秘の縦断研究の主な結果

(出典:富山大学)

体内時計の重要性

小児便秘の対策として、「規則正しい生活と食習慣」が小児の便秘症診療ガイドラインでも推奨されている。しかし実際には、これまでにこの推奨を裏付ける研究は存在しなかった。そのため、推奨のエビデンスレベルは5(低い:実証に基づく推奨ではなく、専門家の意見)とされていた。研究グループによると今回の研究は、子どもの便秘予防において、規則正しい生活を続けることの重要性を示す、世界初のエビデンスだという。

規則正しい生活が重要である理由は、体内時計と臓器の関係が考えられる。脳には体内時計の役割を果たす機能があることは知られているが、さらに近年、全身の臓器や細胞レベルでも時計(時計遺伝子'clock gene')が発見されている。それにより、胃腸や肝臓なども自身が持つ時計の影響を受けていると考えられるようになった。

日常生活において、朝の日光で体内時計がリセットされ、朝食摂取の刺激によって1日の中で一番強い大腸の蠕動が生じることがわかっており、またこの蠕動は運動によっても活性化される。一方、成人対象の疫学研究では、睡眠不足や夜勤、交代勤務者や時差の影響を受ける客室乗務員において便秘が多いことも知られている。

今回の中学生を対象とした調査では、朝食を欠食し始める生徒、運動習慣がなくなった生徒に便秘が増えることが明らかになった。朝食や運動が体内時計(生活のリズム)を調節しており、その乱れによって腸の働きが悪化し、便秘を増やしたと考えられる。

便秘予防には、十分な食物繊維の摂取や心理的ストレスの軽減のほか、規則正しい生活を送ることが重要だ。コロナ禍で子どもたちのネット・ゲーム利用が増え、生活習慣の乱れが増したり運動時間が減っていることが予想される。

研究グループでは、「便秘を軽視せず、子どもの時期から規則正しい生活習慣を心がけてほしい」と語っている。

関連情報

中学生の便秘発症を分析する世界初の縦断研究(富山大学)
プレスリリース(富山大学、PDF)

文献情報

原題のタイトルは、「Lifestyle, psychological stress, and incidence of adolescent constipation: results from the Toyama birth cohort study」。〔BMC Public Health. 2021 Jan 6;21(1):47〕
原文はこちら(Springer Nature)

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