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低炭水化物食と通常食で、上気道感染症リスクやパフォーマンスなどの一部に有意差

低炭水化物食を開始後の急性期と亜急性期の影響を、通常食とのクロスオーバー試験で検討した結果が報告された。レクリエーションアスリートを対象とする研究で、上気道感染症のリスクやパフォーマンス指標などの一部に有意差が認められることが示されている。

低炭水化物食と通常食で、上気道感染症リスクやパフォーマンスなどの一部に有意差

低炭水化物食のパフォーマンス、免疫能への影響は?

炭水化物摂取量を大幅に抑制するケトン産生食は、脂肪酸のβ酸化を増加させる一方で、炭水化物の酸化能が低下する。この相反する作用のために、炭水化物摂取量を極端に減らすことのスポーツパフォーマンスへの影響は不明な点が残されている。

また、炭水化物の可用性低下は運動負荷時のコルチゾール上昇を亢進させる可能性があり、免疫能の低下につながるとの指摘もある。アスリートは上気道感染症のリスクが高く、そのリスクは唾液中の免疫グロブリンA(saliva samples for immunoglobin A;s-IgA)と関連することが知られている。エネルギー基質としての炭水化物の不足はコルチゾール分泌を刺激し、免疫グロブリン産生を阻害しs-IgAレベルの低下させる可能性がある。よって理論上は、アスリートの低炭水化物食実践に際し、上気道感染症のリスクに留意が必要とも考えられる。ただし、この点についても明確なエビデンスはない。

これらに加えて、低炭水化物食に切り替えた後の時間経過によって生じる適応反応もまた明確でない。このような背景から本研究では、標準的な食事と比較して、低炭水化物食に変更後の急性および亜急性の変化を、コルチゾール、s-IgA、上気道症状、および運動パフォーマンス等の面から検討した。

レクリエーションレベルのアスリート対象のクロスオーバー試験

研究対象者の特徴

対象はレクリエーションレベルの男性アスリート14名。適格条件は、年齢18~45歳、BMI18.5~25、週に4時間以上トレーニングしていること、研究開始前6週以降に献血をしていないことで、除外基準は、食物アレルギーや慢性疾患を有していることなど。

14名の平均年齢は32.9±8.2歳であり、競技種目はサイクリング(5名)のほか、トライアスロン、クライミング、水泳、バレーボール、サッカー、陸上など。VO2maxは57.3±5.8mL/kg/分で、トレーニング量は5.6±1.1時間/週。習慣的な摂取エネルギー量は2,961±528kcalで、炭水化物43±5%、脂質36±6%、蛋白質16±3%。

研究デザイン

研究は以下のように、対象者全員に対して標準的な食事および低炭水化物食でそれぞれ2週間介入するクロスオーバー法で行われた。

標準食条件は炭水化物50%、脂質35%とし、低炭水化物食条件は炭水化物10%、脂質75%とした。蛋白質は両条件ともに15%。なお、論文中では前者を「高炭水化物食」と記しているが、本稿では標準食と呼ぶ。

それぞれの条件の食事を2週間継続し、開始2日後と2週間後(当該条件での介入終了時点)で、コルチゾール、s-IgA、上気道症状、運動パフォーマンス等を測定した。運動パフォーマンスは60%Wmax(70%VO2max)で90分間の自転車エルゴメーターにより評価した。

なお、各条件の介入期間を2週間に設定したのは、低炭水化物食への切り替え後5日後には脂肪酸化の亢進が認められるとする既報に基づく。また開始2日後の評価は、急性のストレス反応をみるために実施した。

両条件の施行順序はランダム化し、週間のウォッシュアウト期間を設けた。

主な結果について

本研究で評価された項目数は多数あり、その中から主要なものをピックアップして結果を紹介する。

食事摂取状況とケトン体レベル

介入中の摂取エネルギー量は、標準食条件3,075±298kcal、低炭水化物食条件3,104±297kcalで有意差はなかった(p=0.221)。計画どおりに、炭水化物と脂質の摂取量は両条件で有意に異なっていた(炭水化物;49±0 vs 8±0%,p<0.001.脂質;33±0 vs 73±1%,p<0.001)。ただし、蛋白質の摂取量は低炭水化物食条件で多いという意図しない有意差が認められた(15±1 vs 16±0%,p<0.001)。

尿ケトン体レベルは、低炭水化物食条件の2日後に0.16±0.42g/L、2週間後に0.26±0.25g/Lだった。標準食条件では尿ケトン体陰性だった。

体重、体組成

体重はベースライン時が76.4±5.4kgであり、2週間後には標準食条件75.1±4.7kgと有意に低下(p=0.003)、低炭水化物食でも74.0±4.5kgと有意に低下していた(p<0.001)。また、2週間後の体重は低炭水化物食条件の方が低く、有意差がみられた(p=0.005)。

体脂肪率は両条件ともに有意に低下、条件間の有意差はなかった。除脂肪体重は両条件ともに有意に増加し、条件間の有意差はなかった。

仕事量、心拍数、自覚的運動強度(RPE)

90分の自転車エルゴメーターの仕事量は、標準食条件に比較し低炭水化物食条件で有意に少なかった(介入2日後;1,042±151 vs 939±163kJ,2週間後;1,043±141 vs 1,003±129kJ.p<0.02)。ただし低炭水化物食条件では、2日後に比べて2週間後に有意に増加するという適応による時間効果が認められたが(p=0.03)、標準食では時間効果はみられなかった。

運動負荷中の心拍数は、介入2日後には条件間の差はなかったが(164±18 vs 165±13bpm,p=0.652)、2週間後の値は低炭水化物食条件が有意に高かった(165±13 vs 170±11bpm,p=0.001)。

自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)は、介入2日後には標準食条件よりも低炭水化物食条件のほうが有意に高かった(15.5±2.7 vs 18.0±1.4,p=0.001)。低炭水化物食条件のRPEは2週間後には低下したが、それでも標準食条件より高い傾向が持続していた(16.1±2.0 vs 17.3±1.7,p=0.053)

運動誘発性コルチゾール分泌

運動誘発性コルチゾール分泌は、低炭水化物食条件の介入2日後に822±215nmol/Lと高値になり、2週間後には669±243nmol/Lと低下した(時間効果p=0.004)。標準食条件では同順に609±208nmol/L、555±173nmol/Lであり、低炭水化物食条件に比較していずれも有意に低値だった(p<0.001)。

運動負荷によるコルチゾールレベルの変化は、低炭水化物食条件の2日後では83%増と大きく増加していたが、2週間後には31%増にとどまっていた。一方、標準食条件では同順に、28%、19%だった。

なお、安静時のコルチゾールレベルは、食事条件による有意差はなく、時間効果もみられなかった。

唾液中の免疫グロブリンA(s-IgA)、上気道症状

標準食条件では介入2日後に運動負荷後のs-IgAの低下が認められ、条件間に有意差が存在した。ただし運動前値、および介入2週間後の運動前後の値は、条件間に有意差がなかった。

上気道症状(URTS〈upper respiratory tract symptoms〉スコア)も有意差はなかった。

本研究ではこれらのほかに、低炭水化物食により呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)の低下、血糖値の低下、遊離脂肪酸(free fatty acid;FFA)の上昇といった急性の変化が起きることなどがわかった。論文タイトルにも示されているポイントをまとめると、低炭水化物食では運動誘発性コルチゾール分泌が亢進するが、2週間後には上昇幅が少なくなる一方、運動パフォーマンスの低下は2週間後も引き続き継続して認められた。

文献情報

原題のタイトルは、「A 2 Week Cross-over Intervention with a Low Carbohydrate, High Fat Diet Compared to a High Carbohydrate Diet Attenuates Exercise-Induced Cortisol Response, but Not the Reduction of Exercise Capacity, in Recreational Athletes」。〔Nutrients. 2021 Jan 6;13(1):E157〕
原文はこちら(MDPI)

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