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ゴール裏の動く広告は、ペナルティーキックのパフォーマンスに影響を及ぼすか否か

2021年01月28日

スポーツイベントの会場内の広告のLED化が進み、一つの広告枠にさまざまなコマーシャルが表示されるようになり、以前に比べるとずいぶん賑やかになった印象がある。しかし、恐らく多くの人が「フィールドでプレーするアスリートは、あの広告が気になってパフォーマンスが影響されたりしないの?」と心配しているのではないだろうか。この疑問を検証した研究結果が報告された。サッカーのペナルティーキックでの検証だ。

ゴール裏の動く広告は、ペナルティーキックのパフォーマンスに影響を及ぼすか否か

ペナルティーキックの際のキッカーの目の動きの特徴

サッカーのペナルティーキックは、しばしば試合の結果を決定する。キッカーが蹴ったボールは22〜27m/秒の速度で11メートルの距離を進み、0.6秒ほどでゴールラインに到達する。このわずかな時間にキーパーがボールの軌道を捉えて反応することは困難であり、よってペナルティーキックは圧倒的にキッカー有利とされている。しかしペナルティーキックの約20~25%は失敗に終わる。圧倒的有利にもかかわらず失敗が少なくないことの背景には、キッカーの集中を妨げる因子の存在によると考えられる。

その因子の研究も進められている。近年では、画像解析技術の進歩により、キッカーがボールを蹴る動作の最中に、どのように視線を動かしているかを正確に分析できる。

キッカーがとる二つの戦略

ペナルティーキックの際にキッカーは、以下のいずれかの戦略を用いる。一つはキーパーの動きを見てボールを蹴る最後の瞬間にキーパーとは反対側に蹴るという方法。もう一つは、キーパーがボールを捉えることが物理的に不可能なゴールの隅を狙うという方法だ。

この二つの方法で、キッカーの視線が明確に異なることが明らかになっている。具体的には、後者のキーパーの動きを想定しない方法で蹴る場合、キーパーの動きをもとに蹴る方向を変える場合に比較して、キーパーを視認する時間が減り、ボールを見つめる時間が長くなる。

キッカーの視線の動きに影響を及ぼす可能性のある因子として、LEDによる動く広告が挙げられる。動く広告は、表示が右から左、左から右に動くものが混在し、キッカーの注視を混乱させると考えられる。

さまざまな条件を再現し、キッカーの視線の動きとキック精度を検証

このような背景のもと、本研究は以下の4条件を設定し行われた。条件1は広告なし、条件2は静止広告、条件3aは左から右に表示が動く広告、条件3bは右から左に表示が動く広告だ。前述したキッカーの二つの戦術のうち、キーパーの動きを注視することがより重要である、キーパーの動きを見て蹴る方向を決める方法で検証した。

検討対象者は16名の中級スキルをもつサッカー選手。全員、オランダのアマチュア全国リーグでプレーしている選手で、年齢は26.3±2.8歳、1人のみ女性で他は男性。また、1名のみ利き足が左で、他は右足。

キーパーはビデオクリップを用いた。キッカーの動きと同期させ、キッカーがボールを蹴る直前に、右または左にダイブする計8パターンの映像が作成され、研究者の指示により左または右にダイブさせた。キッカーは、ゴールの左右に設けられたいずれかの的へ蹴ることとした。広告はキーパーの背後にプロジェクターで投影した。

参加者1人につき前記の4条件で各12回、計48回施行した。ただし4名については視線追尾がうまくいかず、12名の結果が解析に用いられた。その12名はすべて男性で、利き足は右足だった。ボールの軌道判定のためのカメラの記録漏れが一部にあり、合計564回分のキックのデータが解析された。

評価項目

評価した項目は、視線の動きとパフォーマンス。このうち視線の動きについては、キッカーの視線を追尾することで、キーパーやボール、ターゲット、広告、およびその他の領域の注視時間を測定した。

パフォーマンスについては、得点率(成功した割合)、ボールがゴールをそれた割合、キーパーにセーブされた割合、キーパーのダイブと反対方向に蹴ることができた割合、および、ボールがゴールラインを通過したポイントのターゲットからの距離と、その距離の標準偏差(キックの精度)。

キッカーの視線の動きへの影響

研究の背景や手法の説明が長くなったが、それでは結果をみてみよう。まずは視線の動きについて。

条件3ではキーパーの注視時間が有意に減り、ボールの注視時間が増える

キッカーがどこを見るのにどれだけ時間を充てていたかを比較した結果から、以下のことが明らかになった。

まず、広告なしや静止広告のある条件に比較し、動く広告の条件では、キーパーを見る時間が有意に短かった(p<0.001)。反対に、ボールを見る時間は有意に長かった(p<0.05)。また、広告なしや静止広告のある条件では、広告表示スペースをほとんど見ておらず、動く広告を表示したときのみ視認しており、その時間に有意差が存在した(p<0.001)。

左右に設けられたターゲットを見る時間、および、その他の部分の注視時間は、条件間に有意差がなかった。また、広告なしと、静止広告のある条件の比較では、すべての視認時間に有意差がなかった。

左から右へ動く広告は影響がより大きい

次に、条件3aと3bを比較した結果をみてみよう。つまり、どちらも動く広告が表示される条件だが、その動きが左から右へ動く広告か、右から左へ動く広告か、という違いでの検討だ。

結果は、条件3a(左から右へ動く広告)のほうが広告を見る時間が有意に長く(p<0.001)、キーパーを見る時間が有意に短かった(<0.05)。

キッカーのパフォーマンスへの影響

続いてパフォーマンスへの影響を、条件1(広告なし)、条件2(静止広告)、条件3(動く広告)で比較してみる。

得点率は74.9~78.6%、ゴールをそれた割合は6.3~8.2%、キーパーにセーブされた割合は14.1~18.0%、キーパーのダイブと反対方向に蹴ることができた割合は80.6~84.9%、ボールがゴールラインを通過したポイントのターゲットからの距離は202.0~205.5cmであり、これらに条件間の有意差はなかった。ただし、キックの精度(ボールがゴールラインを通過したポイントのターゲットからの距離の標準偏差)は、条件1が67.6±24.5cmで最も高く、条件2は88.1±42.7cm、条件3は84.6±12.5cmであり、有意差が認められた(p<0.05)。

左から右へ動く広告は影響が大きい

条件3a(左から右へ動く広告)と3b(右から左へ動く広告)の比較では、成功率やキーパーにセーブされる割合、キーパーのダイブと反対方向に蹴ることができた割合、ボールがゴールラインを通過したポイントのターゲットからの距離については有意差がなかった。

しかしキックの精度に関しては、条件3aでは-51.5±87.8cmであるのに対し、条件3bでは22.1±55.3cmであり、有意差があった(p<0.05)。これは、ゴール裏の広告が左から右に動く場合、蹴ったボールは狙いから左にそれがちで、かつその精度が悪くなりがちであり、反対にゴール裏の広告が右から左に動く場合、蹴ったボールは狙いから右にそれがちで、精度への影響は少ないことを意味する。

なお、研究参加者のうち、広告を全く視認していないキッカーが1名いた。この参加者のデータを除いて解析した場合、上記の傾向はより強くなった。

著者らは、「結論として、サッカーのゴールエリアの後ろに配置された動く広告は、ゴールキーパーの動きを視認した上でペナルティーキックを蹴り込む場合に、キッカーに視覚的な影響を与えることがわかった。パフォーマンスへの影響は全体では認められなかったが、広告が動く方向によっては影響を受ける可能性がある」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Moving Advertisements Systematically Affect Gaze Behavior and Performance in the Soccer Penalty Kick」。〔Front Sports Act Living. 2020 Jan 14;1:69〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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