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オーバートレーニングで短絡的な思考に陥る可能性 fMRIを用いた実験で確認

オーバートレーニング症候群は、強い倦怠感を伴うパフォーマンス低下が生じる。それに加えて、精神的な影響もあることが示唆されていたが、機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging;fMRI)を用いた検討で、それを裏付ける結果が報告された。アスリートに対するトレーニングの過負荷によって、経済的選択における衝動性が認められたという。

オーバートレーニングで短絡的な思考に陥る可能性 fMRIを用いた実験で確認

男性持久力アスリート37名をオーバーリーチ状態にして検討

オーバートレーニング症候群は、ホルモンバランスの変化、無関心、過敏性、落ち着きのなさ、不眠症、食欲不振、うつなどを伴うことがある。そのメカニズムは不明で、アスリートやコーチにとり大きな問題となり、またドーピングの潜在的なリスクでもある。著者らは本検討に際し、明らかなオーバートレーニング症候群を誘発することは倫理的でないため、オーバートレーニング症候群の前段階と言えるオーバーリーチ状態での検討を行った。

対象者は、37名の男性持久力アスリートで、平均年齢約35歳。過去少なくとも3年間定期的にトライアスロンに参加し、10時間/週以上のトレーニングを行っており、短距離トライアスロン(オリンピックの正式種目。水泳1.5km、サイクリング40km、ランニング10km)の記録は2時間~2時間20分だった。

年齢とトレーニング量、競技記録が一致するように調整した上で、通常のトレーニングを行う対照群(18名。36±1.5歳)とトレーニング過負荷とするオーバーリーチ群(19名。35±1.2歳)にランダムに分類。パフォーマンスへの影響を比較するとともに、fMRI検査を実施した。

両群ともに最初の2週間は通常の負荷(100%)でトレーニングを実施。1週間の調整期間後に、初回のサイクリングパフォーマンステストを施行。続く3週間では、対照群は通常負荷のトレーニングを行い、オーバーリーチ群は140%の負荷のトレーニングを課した。例えば、最大強度ランニング(maximal aerobic running)400m×10回を含む1時間のランニングは、同14回を含む85分に拡大するメニューとした。この3週間のトレーニングの終了時点で、2度目のパフォーマンステストとfMRI検査を行った。

パフォーマンスやメンタルヘルス状態に有意差

オーバーリーチでパフォーマンスが低下

結果についてまず最大パワー(maximal power output;MPO)をみると、予測されたとおりオーバーリーチ群で大幅な低下が認められた(ΔMPO=-13.26±2.88W,p=0.00022)。一方、対照群では変化が認められなかった(ΔMPO=3.60±2.74W,p=0.25)。そして、MPOの変化量(ΔMPO)に有意な群間差が認められた(p=0.00031)。

また、自覚的運動強度(ratings of perceived exertion;RPE)にも影響がみられ、オーバーリーチ群(15.59±0.16)は対照群(14.74±0.29)より有意に高値だった(p=0.014)。

オーバーリーチで倦怠感が増加

本検討では、被験者は2日ごとに質問票(ブルネル気分尺度)によりメンタルヘルス状態が評価された。その結果にベースライン時では群間差がなかったが、3週間の通常または強化トレーニング後の倦怠感のスコアの変化量に、群間差が認められた(オーバーリーチ群3.78±0.98 vs 対照群0.21±0.74,p=0.014)。ただし、うつスコアの変化量は有意でなかった。

オーバーリーチで経済的選択の衝動性が亢進し、即時報酬を求めるようになる

作業課題を与えその処理中の脳活動を捉えることのできるfMRIを用いた検討により、3週間の強化トレーニングを行ったオーバーリーチ群は、経済的選択の課題を処理する際に、認知制御システムにおいて重要な領域である外側前頭前野の活性が低下していることがわかった。これは経済的選択において、衝動性が対照群よりも高くなっていることを表す(p=0.016)。数理学的解析の結果、この変化は、将来の報酬に期待するのではなく、即時報酬を優先するという判断を優先することと関係していることが明らかになった。

オーバートレーニングがドーピングのリスクにもなり得る

その他一連の研究の結果から、著者らは以下のような結論と考察をまとめている。

本研究は、身体トレーニングの過負荷が、認知制御脳システムに関連する疲労を誘発し、衝動的な経済的決定にも関連するという初のエビデンスである。この結果は、オーバートレーニング症候群の状態にあるアスリートが、痛みや倦怠感の克服が困難になるという理由だけでなく、ドーピングのリスクにつながることの理由をも説明する可能性がある。つまり、即時のパフォーマンスには役立つが、長期的な成果を損う可能性のある行動に結びつきやすくなる。

また、ウルトラトレイルなどのエクストリームスポーツ(過酷な競技)のアマチュアアスリートにみられる疲労症候群の増加を説明することもできる。さらには、この研究結果は、おそらく、他の仕事の過負荷にも拡張し適用できる可能性がある。つまり、スポーツアスリートのコーチングにとどまらず、労働者の管理やヘルスケアにも適用できるだろう。過度の仕事による負荷は、オーバートレーニングと同様に、バーンアウト(燃え尽き状態)への道筋の一つだからだ。

ただし、本研究の限界点として、対象者にはオーバーリーチ状態を誘発したものであり、オーバートレーニング症候群を来したわけではないという相違に留意が必要だ。長期的なバーンアウトへの移行には、認知制御に対する倦怠感以外の要因が関与する可能性もあり、今後のさらなる研究が必要。

文献情報

原題のタイトルは、「Neuro-computational Impact of Physical Training Overload on Economic Decision-Making」。〔Curr Biol. 2019 Oct 7;29(19):3289-3297.e4〕
原文はこちら(Elsevier)

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