サッカーで最も長生きなのはゴールキーパー ワールドクラス選手の回顧的コホート研究
サッカーのゴールキーパーは一般的に、フィールドプレーヤーよりも選手寿命が長い。ところが長いのは選手寿命だけでなく、実際の寿命(生命寿命)も長いことがわかった。その差は5~8年に及ぶという。
1922年以前に生まれた選手の寿命をポジション別に比較
エリートアスリートは一般集団に比べ平均寿命が長いことが報告されている一方で、それを否定する報告もある。否定する報告では、アスリートの過度のトレーニング、傷害のリスク、ファンからの大きなプレッシャー、結果責任に関連するストレス、場合によっては薬物使用などが、アスリートの平均寿命にマイナスの影響を与える可能性があると述べられている。
一方、サッカーは1億2,000万人以上がプレーし35億人のファンが視聴する最も人気のあるスポーツであるにもかかわらず、選手の寿命が長いのか短いのか詳しくはわかっていない。今回紹介する論文は、サッカーのポジションによる寿命への影響を調査した結果である。
ワールドカップトーナメントや欧州リーグ参加選手の記録
著者らは、1922年以前に生まれたサッカー選手を対象に、寿命を調査した。これは、対象を既に亡くなっている可能性の高い選手に限定することで、より正確に寿命を知ることができるため。
調査対象の選手は、1930年のウルグアイでの第1回大会、1934年のイタリア、1938年のフランスのいずれかのワールドカップのトーナメント進出国、もしくは1946~1947年の欧州リーグに主要クラブのメンバーとして参加した、ワールドクラスの選手のみとした。具体的には、イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス、スコットランド、スウェーデンの選手、および、マンチェスターユナイテッド、リバプール、FCバルセロナ、レアルマドリード、ユベントス、トリノ、インテルミラノ、ボルシアドルトムント、バイエルンミュンヘン、ASサンテティエンヌ、ハイバーニアンFC 、マルメFFの各チームに所属し参加した選手。
死亡年齢に関する情報は、ウェブサイト(www.worldfootball.net)を主な情報源とし、他の情報ソースで確認・検証した。合計921人の選手(ワールドカップ545人、欧州リーグ376人)が分析対象となり、第二次世界大戦中または戦後まもなく(1950年まで)に死亡した選手は対象から除外した。また、所属チームのプレーヤーの半数以上から信頼できる記録を得られなかった場合、そのチームのすべての選手を除外した。
最終的なサンプルサイズは、723人(ワールドカップ443人、欧州リーグ80人)だった。
結果発表!
論文ではポジションにより、ゴールキーパーと、フィールドプレーヤー(ディフェンダー、ミッドフィルダー、フォワード)に分けて分析した結果を示している。
まず、ワールドカップ参加選手についてみると、平均寿命が最も長いポジションはゴールキーパーで82.0±7.0歳、2位はミッドフィルダーで76.0±7.8歳だった。ディフェンダーとフォワードはともに73.0歳だった。85歳まで生存する確率は、ゴールキーパーが27.5%、ミッドフィルダーが13.3%、ディフェンダーが12.9%、フォワードは12.1%だった。
次に、欧州リーグ参加選手についてみると、平均寿命が最も長いポジションはやはりゴールキーパーで83.0±7.5歳、2位はフォワードとミッドフィルダーで79歳、4位はディフェンダーで76.5歳だった。85歳まで生存する確率は、ゴールキーパーが44.7%、ディフェンダーが24.2%、フォワードは23.4%、ミッドフィルダーが22.2%だった。
ゴールキーパー以外のフィールドプレーヤーの合計では、ワールドカップ参加選手の平均寿命が74.0±8.0歳、欧州リーグ参加選手は78.0±8.0歳であり、ともにゴールキーパーとの間に有意差が存在した。フィールドプレーヤー間の差は有意でなかった。
なお、この検討の対象である選手の多くが亡くなった20世紀後半は、男性の平均寿命が約60歳、欧州に限定しても約70歳である。それに比べてサッカー選手全体が長寿であることにも注目すべきだと、論文の著者らは指摘している。
ゴールキーパーが長生きする理由の考察
本研究の結果は以上だが、著者らは、ゴールキーパーが長寿な理由について、以下のような考察を加えている。
まず、ゴールキーパーとフィールドプレーヤーでは、運動量に大きな違いがある。1試合でフィールドプレーヤーは約10〜12km走る。一方、ゴールキーパーは、低強度運動で試合時間の約75%を費やす。フィールドでのプレーは走ることに加え、急な方向転換、タックルなどが含まれる。
また、フィールドでのプレーは不整脈を惹起することがあり、心臓突然死のリスクを高める。本検討ではピッチ上での心臓突然死はみられなかったが、ピッチ外で発生する心臓関連死への影響は評価できていない。
もう一つは頭部外傷のリスクがゴールキーパーは、フィールドプレーヤーに比較し低いという違いが挙げられる。さらに、ゴールキーパーは選手としての寿命が長いことが多く、それだけ一般の人よりも身体活動量が多い期間が長いという差もある。
著者らは、これらの理由はすべて仮説であり、他の研究での検証が必要であることを強調している。
文献情報
原題のタイトルは、「Goalkeepers Live Longer than Field Players: A Retrospective Cohort Analysis Based on World-Class Football Players」。〔Int J Environ Res Public Health. 2020 Aug 29;17(17):E6297〕
原文はこちら(MDPI)