高齢期に入ってからの身体活動量の変化も死亡リスクと相関 中国での8年間の追跡調査
身体活動が死亡リスクを低下させることは、欧米や日本などからは多々報告されている。ただし、それらの多くは身体活動量を、ある一時点で評価して死亡リスクとの関連をみたものであり、活動量の増減との関連を検討した研究は少なく、また、検討対象は比較的若年者である研究が多い。
これに対し今回、中国から、比較的高齢な対象者の身体活動量の変化を前向きに評価し、死亡リスクとの関連を検討した結果が報告された。高齢者でも身体活動量の変化と全死亡や心血管死リスクとの有意な関連が認められたという。
調査の手法と対象者の背景
この研究の対象者は、中国広州でのバイオバンクコホート研究の登録者で、2003~2008年にベースライン登録が行われ、2008~2012年に1回目の追跡調査が行われた。これらの研究参加者は、広州第12病院、香港大学、バーミンガム大学から、広州健康福祉協会を通じて募集された。
ベースライン時と追跡調査時に、中国成人向けに改変された国際身体活動アンケート中国版(IPAQ-C)を用いて身体活動量が評価された。IPAQ-Cでは、歩行の頻度と時間、職業、家事、利用交通機関、余暇活動、座位時間などが評価され、それに基づき消費エネルギー量を算出。具体的には、座位では1.0METs、歩行では3.3METs、中程度活動では4.0METs、高強度活動では8.0METsとし、週あたりのスコア(MET・分/週)に変換した。
中程度のカテゴリーは、週に3日以上に活発な活動を行い、それにより480MET・分/週を達成すること、または、歩行や中程度~活発な活動を少なくとも週5日行い、少なくとも600MET・分/週を達成することとした。高強度のカテゴリーは、週に3日以上の活発な活動を行い少なくとも1,500MET・分/週を達成するか、中程度の活動を毎日行い3,000MET・分/週を達成することと定義した。中程度のカテゴリーに満たないものは、低カテゴリーとした。
この分類の上で、ベースライン時と追跡調査時の身体活動量を、低、中、高の三つのカテゴリーに判定。かつ両者の変化を基に、計9種類の変動パターンに分類した。
ベースラインにおける登録者は3万430人で、追跡調査に参加したのは1万8,104人だった(女性1万3,178人、男性4,926人。平均61.2±6.9歳)。2017年12月までの7.8±1.5年の平均追跡期間中に、1,461人(女性777人〈53.2%〉、男性684人〈46.8%〉)の死亡が報告された。
身体活動量が減る変化と死亡リスクが有意に関連。増える変化は全体解析では非有意
ベースラインから1回目の追跡調査の間の身体活動量は、以下のように変化していた。最も多かったのは、身体活動量「高」を維持していた群で全体の41.98%、次に多かったのは、「中」から「高」にやや増加した群で全体の29.7%。以下、「中」を維持した群が9.08%、「高」から「中」にやや低下した群が8.99%、「低」から「高」に大きく増加した群が6.34%、「低」から「中」にやや増加した群が1.76%、「高」から「低」と大きく低下した群が1.09%、「中」から「低」にやや低下した群が0.91%、「低」を維持した群が0.06%。
死亡リスクに影響を及ぼす可能性のある、年齢、性別、教育歴、職業、個人所得、飲酒・喫煙習慣、および主観的健康感で調整の上、身体活動量が「中」を維持した群を基準として、他の群の死亡リスクを算出。
その結果、ベースライン時より追跡調査時の身体活動カテゴリーが低下した群(「高」から「中」または「低」、および「中」から「低」の合計)では、死亡リスクが有意に高いことがわかった(HR1.47,95%CI:1.11-1.96)。また、心血管疾患による死亡のリスクは、より高くなることがわかった(HR1.69,95%CI:1.08-2.64)。その一方、ベースライン時より追跡調査時の身体活動カテゴリーが上昇した群(「低」から「中」または「高」、および「中」から「高」の合計)の死亡リスクは、全死亡、心血管死ともにハザード比は1を下回ったが、有意水準に至らなかった。
より細かくみると、身体活動カテゴリーが「低」から「高」へ大きく増加した群(HR0.71,95%CI:0.52-0.97)や、「高」を維持した群(HR0.83,95%CI:0.70-0.98)は、全死亡リスクが有意に低かった。その一方で、「中」から「低」へ低下した群は、全死亡(HR1.54,95%CI:1.05-2.26)と心血管死(HR2.19,95%CI:1.28-3.78)のリスクが有意に高く、また、「低」を維持した群は心血管死(HR6.53,95%CI:1.58-26.91)のリスクが有意に高かった。
結論:高齢になってからでも身体活動量の維持・増進が大切
以上の結果から著者らは、「高齢者でも高い身体活動量を維持する、または低い身体活動量を高くすることが、死亡リスクの低下と関連している。一方で、低い身体活動量を維持する、または身体活動量を減らすことが死亡リスクの増大と関連している」とまとめるとともに、「この結果は、公衆衛生の政策担当者や臨床医に、高齢者の身体活動量を下げることに注意を要する場合があることを示している」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Mortality in relation to changes in physical activity in middle-aged to older Chinese: An 8-year follow-up of the Guangzhou Biobank Cohort Study」。〔J Sport Health Sci. 2020 Aug 19;S2095-2546(20)30105-8〕
原文はこちら(Elsevier)