疾患を有していても、身体活動量が死亡率低下と有意に関連 前向き研究のメタ解析
健康な人にとって身体活動が、健康をさらに増進し長寿につながることは、多くのエビデンスから示されている。しかし健康が損なわれている人で身体活動に寿命延伸効果があるか否かは、必ずしも明確になっていない。本論文はこの点をシステマティックレビューとメタ解析によって明らかにすることを試みた研究の報告。
非感染性疾患(NCDs)患者対象の前向き研究の系統的レビュー
検討の対象とした疾患は、非感染性疾患(non-communicable diseases;NCDs)と呼ばれる疾患群で、具体的には、変形性関節症、腰痛、うつ病、虚血性心疾患、2型糖尿病、脳卒中、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺がん、乳がんという9種類の疾患を取り上げた。検索にはPubMed、Scopus、およびWeb of Scienceを用い、2018年8月までに報告された論文を対象とし、かつ2019年8月に新規発表論文の有無を確認した。適格基準は前記9疾患の患者の全死亡率またはその他の死因による死亡率を前向きに検討した観察研究で、英語以外の論文は除外した。報告年は制限しなかった。
検索でヒットしたのは4万4,518件で、上記の適格基準に当てはまる報告28件が抽出された。結果的に対象疾患は、乳がん(12件)、虚血性心疾患(8件)、2型糖尿病(6件)、COPD(2件)という4疾患に絞り込まれた。これらはすべて直近20年以内に報告されていた。25件は症例対照研究、3件は無作為化比較試験の追跡研究で、対象者数は435~1万5,645人に分布していた。
患者数の合計は、乳がん2万7,248人、虚血性心疾患4万2,027人、2型糖尿病3万2,221人、COPDが4,784人。追跡期間は3.3~18.4年に分布していた。
乳がん、虚血性心疾患、2型糖尿病では、身体活動と死亡リスクに有意な関連
それぞれの疾患を診断された後の週あたりの身体活動が10METs・時多いごとに、全死亡リスクがどのように変化するかをメタ解析した結果、乳がん、虚血性心疾患、2型糖尿病では、身体活動量が多いほど死亡リスクが低いという有意な関連が認められた。
例えば、乳がん患者では身体活動量が10MET・時/週多いと全死亡リスクが22%低かった(HR0.78,95%CI:0.71-0.8)。同様に虚血性心疾患患者では12%(HR0.88,95%CI:0.83-0.93)、2型糖尿病患者では4%(HR0.96,95%CI:0.93-0.99)、それぞれ有意なリスク低下と関連していた。COPD患者についてはHR0.70(95%CI:0.45-1.09)と30%のリスク低下ながら、95%信頼区間が1を含んでいた。
なお、10MET・時/週を180分のウォーキング、または86分のランニングに相当するという。
層別化サブ解析では、乳がんのみ追跡期間に有意な交互作用
前記の結果は、研究が実施された地域(アジア、欧州、米国、その他)、対象者の年齢(60歳未満/以上)、対象者数、乳がん患者の閉経の有無などで層別化したサブグループ解析でも一貫しており、身体活動量の多さが死亡リスクの低下と関連していた。ただし乳がんに関しては、追跡期間10年未満と以上で有意差が認められ(p=0.018)、追跡期間の長さが結果に影響を及ぼす可能性が示唆された。
死亡リスク低下がプラトーになる身体活動量は、疾患によって異なる
乳がん、虚血性心疾患、2型糖尿病の死亡リスクは、身体活動量が0MET・時/週から20MET・時/週に増加するに伴い、急激に低下していた。COPDについては0MET・時/週から10MET・時/週の間で顕著に低下し、それ以上の死亡リスク曲線は平坦であり、身体活動量増大の影響はみられなかった。
乳がんでは45MET・時/週でプラトーとなり、2型糖尿病では最大約90MET・時/週まで死亡リスク低下のプラスの影響が認められた。
NCDs患者では少ない身体活動量でも有益
結論として、「システマティックレビューとメタ解析によって、身体活動レベルが高いほど、乳がん、虚血性心疾患、2型糖尿病という非感染性疾患患者の死亡リスクが低いという関連が認められた。一般成人に推奨される運動量より少ない身体活動であっても、非感染性疾患患者の余命延長に有益」と、著者らは述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Dose-response relationship between physical activity and mortality in adults with noncommunicable diseases: a systematic review and meta-analysis of prospective observational studies」。〔Int J Behav Nutr Phys Act. 2020 Aug 26;17(1):109〕
原文はこちら(Springer Nature)