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高齢者が継続可能な低~中強度運動+少量の乳蛋白摂取で、筋肉量が増加する

高齢者でも継続の負担とならない強度の運動、および少量の乳蛋白の摂取を長期間継続することで、筋肉量が有意に増加するという研究結果が報告された。実行可能性の高い介入法として期待される。株式会社明治研究本部の中山恭佑氏らと帯広畜産大学の村田浩一郎氏、浦島匡氏の共同研究によるもので、「European journal of nutrition」に論文掲載されるとともに、同社および同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。

高齢者が継続可能な低~中強度運動+少量の乳蛋白摂取で、筋肉量が増加する

実行可能性の高いサルコペニア予防・改善法が求められている

加齢や疾患により筋肉量の減少や筋力が低下した状態「サルコペニア」は、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の低下、要介護リスクの増大につながるため、予防と早期介入が必要とされる。高齢者を対象とした研究から、筋力トレーニングや高用量の蛋白質摂取が、筋肉量の維持・改善に有効と報告されているが、双方ともに高齢者には負担が大きく、長期間継続できる人は限られている。そのため、多くの人が継続的に実行可能な介入法の確立が求められている。

今回の研究では、この実行可能性という点を重視し、運動介入は低~中強度の運動で行い、食事介入は高品質の乳蛋白を10g/日と少量にとどめ、介入期間を6カ月と既報の研究より長めに設定した。研究デザインは無作為化プラセボ対照二重盲検試験で、体組成、身体パフォーマンス、生化学検査値の変化を評価した。

60~84歳の122名を対象に半年間介入

研究の参加者は帯広市在住の60~84歳で自立した生活を送っている高齢者。除外基準は、重篤な心血管疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、肝疾患、腎疾患、運動器疾患、食物アレルギー疾患等の既往者、既に筋力トレーニングを行っている人、医師が不適と判断した人など。

募集された254名のうち適格基準を満たす人126名を、性別、年齢階級層(70歳未満と以上)が一致するように調整のうえ、コンピューター生成の乱数に基づき無作為に、乳蛋白群とプラセボ群、各63名に割り当てた。介入前に各群2名が研究参加を辞退したため、各群61名(計122名)で介入を開始した。介入期間中に、研究と無関係の体調不良等のため3名(乳蛋白群2名、プラセボ群1名)が脱落し、最終的に119名が介入を終了した。

食事介入

乳蛋白群は、一般的な牛乳蛋白質よりも吸収が速く筋合成亢進作用が強いとの報告のある、最近開発された酸性化牛乳蛋白質飲料(乳蛋白質濃縮物、トレハロース、大豆多糖類、クエン酸などからなる)を摂取してもらった。栄養組成は、炭水化物7.0g、蛋白質10.1g、脂質0.2gで、1本(200mL)あたり68kcal。一方、プラセボは乳蛋白質濃縮物の代わりにマルトデキストリンを配合し、炭水化物16.0g、蛋白質0.1g、脂質0.5gで、エネルギー量は乳蛋白群と同じく68kcal。

両群ともに、毎日の運動トレーニング終了後、1時間以内に1本摂取することとした。

運動介入

参加者は6カ月間毎日、運動トレーニングを行うように指示された。その内容は、自分自身の体重を用いた6種類の運動と、1kgのメディシンボールを用いた5種類の運動で、1日あたり計10分程度。運動強度は、各人が少なくとも12回は繰り返すことができるくらいの低~中程度とした。また、モチベーション維持のため、2カ月ごとにメニューの一部を変更した。

介入前の背景因子や介入中の栄養摂取状況は両群同等

ベースラインにおける主な背景を、乳蛋白群、プラセボ群の順にみると、女性の占める割合74 vs 77%、年齢71.4±0.8 vs 70.4±0.7歳、BMI23.1±0.4 vs 22.8±0.4、体脂肪率29.0±1.0 vs 27.7±1.0%であり、いずれも有意差がなかった。

また介入前および介入後3カ月、6カ月時点で実施された食事摂取量調査の結果も、群間の有意差はなかった。

乳蛋白群でのみ除脂肪体重が有意に増加、体脂肪量が有意に減少

それでは介入による変化をみてみよう。

まず体組成に関して、除脂肪体重はベースラインにおいて乳蛋白群39.7±0.9kg、プラセボ群39.9±1.0kgであり、有意差がなかった。ところが6カ月の介入後、乳蛋白群は40.3±0.9kgと有意に増加していたが(p<0.001)、プラセボ群は39.8±0.9kgで有意な変化がなく(p=0.534)、介入期間中の除脂肪体重の増加量に有意な群間差が認められた(p=0.004)。

体脂肪量はベースラインにおいて乳蛋白群16.6±0.8kg、プラセボ群15.6±0.8kgであり、有意差がなかった。ところが介入後は乳蛋白群は15.8±0.7kgと有意に減少していたが(p<0.001)、プラセボ群は15.6±0.8kgで有意な変化がなく(p=0.990)、介入期間中の体脂肪量の減少量に有意な群間差が認められた(p=0.002)。

飲料を摂取した6カ月間の体組成の変化

飲料を摂取した6カ月間の体組成の変化

(出典:株式会社明治プレスリリース)

身体パフォーマンスは両群ともに向上し、群間差はなし

身体パフォーマンスは、評価した項目のうち握力を除くすべて(最大歩行速度、膝伸展力、膝屈曲力、Timed Up & Goテスト、座位からの立ち上がりテスト、腕立て伏せ)において、乳蛋白群、プラセボ群ともに介入によって有意に向上し、群間差は認められなかった。握力は両群ともに有意な変化がなかった。

プラセボ群で血漿クレアチニンが有意に上昇、乳蛋白群で尿酸値が有意に低下

生化学検査では、介入前後でプラセボ群の血漿クレアチニンに有意な上昇が認められた(p=0.012)。一方、乳蛋白群の血漿クレアチニンに有意な変化はなく(p=0.338)、介入期間中の変化量に有意な群間差が認められた(p=0.014)。

また尿酸値は乳蛋白群で有意に低下したが(p<0.001)、プラセボ群は変化がなく(p=0.528)、介入期間中の変化量に有意な群間差が認められた(p<0.001)。その他、乳蛋白群でIGF-1(インスリン様成長因子1)の有意な上昇、プラセボ群でHDL-Cの有意な上昇、両群でトリグリセライドの有意な上昇が認められた。

パフォーマンスへの影響や他の蛋白質サプリとの比較が今後の課題

以上一連の結果をもとに、研究グループでは、「低~中等強度の運動トレーニングと低用量乳蛋白による長期介入が、健康な高齢者の筋肉量を増加させることが明らかになった。また体脂肪量と血漿尿酸値の低下が認められた」と結論をまとめている。その一方で、身体パフォーマンスはプラセボ摂取群と有意差がなかったことから、生理学的なメリットは限定される可能性が示されたことや、酸性化牛乳蛋白以外の蛋白質との比較を行っていないという研究の限界点を考察として述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of low-dose milk protein supplementation following low-to-moderate intensity exercise training on muscle mass in healthy older adults: a randomized placebo-controlled trial」。〔Eur J Nutr. 2020 Jun 10〕
原文はこちら(Springer Nature)

プレスリリース

帯広畜産大学
株式会社明治

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