蛋白質摂取量を増やすだけでサルコペニアの改善は可能か? 韓国の研究
筋肉量・筋力が低下し身体活動に支障が生じるサルコペニアは、多くの国において人口の高齢化とともに増加している。本研究が報告された韓国では、高齢者の20.8%がサルコペニアに該当するという。
疫学研究から、サルコペニアは高齢者の蛋白質摂取量と逆相関すると報告されており、介入研究からは、蛋白摂取量を増やし運動を付加することで、サルコペニアが改善することが示されている。しかし運動を付加せずに、蛋白質摂取量を増やすのみでサルコペニアの改善効果が得られるか否かは明らかになっていない。
蛋白質摂取量を3群に分けて12週間介入
この研究は、韓国・ソウルの4カ所の福祉センターで実施された。栄養失調のリスクがある70〜85歳の高齢者120名を1:1:1の比率で3群に分類。各群の蛋白質摂取量を、0.8、1.2、1.5g/kg/日として12週間介入した。腎不全または肝不全等の患者、および、歩行やコミュニケーションをとれない人は除外した。介入期間中、身体活動は通常量を維持するよう指示した。
介入前後に12時間の絶食後、デュアルエネルギーX線吸収測定法により筋肉量を評価した。食事摂取量は24時間思い出し法により登録栄養士が評価した。12週間の介入研究を終了した被験者は96名(男性31名、女性65名)だった。
蛋白質摂取量の変化で三分位に分類し検討
結果は、介入期間中に生じた蛋白質摂取量の変化を三分位に分類したうえで検討した。
ベースラインにおいて、年齢、BMI、四肢骨格筋量(Appendicular skeletal muscle mass;ASM)、骨格筋量指数(Skeletal Muscle Mass Index;SMI)、歩行速度、独居の割合、喫煙・飲酒習慣、併存疾患、認知機能障害、ADL(Activities of Daily Living.日常生活動作)、IADL(Instrumental Activities of Daily Living.手段的日常生活動作)等に有意差はなかった。ただし、ベースライン時点の蛋白質摂取量は、介入期間中の蛋白質摂取量の変動が大きかった三分位群で少なかった(介入中の蛋白質摂取量の変化が最も少なかった第1三分位群のベースライン時蛋白質摂取量は0.93±0.29g/kg/日、第2三分位群は0.79±0.21g/kg/日、最も変化が大きかった第3三分位群は0.72±0.20g/kg/日)。
男性は摂取蛋白質量が増えた群で筋肉量が増加、女性は有意差なし
介入前後の筋肉量の変化と、介入中の摂取蛋白質量の変化との関連を検討した結果、男性では有意差が認められた。男性のASMの変化量は、第1三分位群-0.08±0.96kg、第2三分位群0.10±0.56kg、第3三分位群1.01±0.85kg(傾向性p=0.012)であり、介入中に蛋白質摂取量が大きく増えた群で筋肉量が増加していた。
一方、女性では、このような関連は認められなかった(傾向性p=0.976)。
歩行速度には男性も有意な関連を認めず
続いて、介入中の摂取蛋白質量の変化と、歩行速度の変化との関連を検討した結果、男性、女性ともに有意な関連は認められなかった。
ベースラインの年齢や蛋白質摂取量、飲酒習慣、認知機能、歩行速度等で調整後、摂取蛋白質量の変化と評価した各パラメータとの相関を検討した結果、男性では、ASM/kg体重(r=0.483,p=0.017)、およびASM/BMI(r=0.522,p=0.009)との間に有意な正相関が認められた。ただし、歩行速度との相関はやはり有意でなく、女性はすべてのパラメータとの関連が有意でなかった。
高齢男性は蛋白質摂取量を0.54g/kg/日超、増やすと筋肉量が増える可能性
以上の検討から、男性では介入期間中の蛋白質摂取量が最も増えた群は、運動を付加せずとも筋肉量関連パラメータが有意に改善する可能性が示された。本研究における男性の摂取蛋白質量の変化量は、第1三分位群は0.15g/kg/日以下、第2三分位群は0.15~0.54g/kg/日であり、第3三分位群は0.54g/kg/日超の増加だった。
これらの結果から、著者らは本研究の結論を「習慣的な蛋白質摂取量を>0.54g/kg/日、増やすことが高齢男性の筋肉量の改善と明確に関連していることを示唆している」とまとめるとともに、今後は高齢女性の筋肉量を増やすために必要な摂取蛋白質量を調査するとともに、男性についてもより大規模な臨床試験での検討が必要」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Amount of Protein Required to Improve Muscle Mass in Older Adults」。〔Nutrients. 2020 Jun 6;12(6):E1700〕
原文はこちら(MDPI)