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アスリートの心臓突然死からの教訓 アスリートやトレーナーによる心肺蘇生の必要性

2020年06月12日

心房細動の専門誌「Journal of Atrial Fibrillation」に、アスリートの心臓突然死に関するレビュー論文が掲載された。過去の突然死を取り上げるとともに、欧州心臓病学会(European Society of Cardiology;ESC)や米国心臓協会(American Heart Association;AHA)のガイドラインの紹介、および現状の問題点の指摘と再発防止のための提言などの内容。

アスリートの心臓突然死からの教訓 アスリートやトレーナーによる心肺蘇生の必要性

日本でも、スカッシュの最中の発作から薨去された高円宮憲仁親王、サッカー練習中の発作から亡くなったJリーガーの松田直樹選手といった著名人の心臓突然死は、今でも多くの人々の記憶に残っている。そしてこれら著名人の不幸が、後の自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator;AED)普及の契機となった。

本論文は、今後も発生し得るアスリートの突然死を防ぐには、スポーツの現場での速やかな救命措置を実施できる環境の整備が必要と述べている。内容の一部を紹介する。

アスリートの心臓突然死のインパクト

アスリートは、強靭な体力と優れた心機能を有すると一般的に理解されており、実際、アスリートの心臓突然死は比較的まれである。しかし、発生した場合、そのインパクトは非常に大きく、さまざまなメディアの注目を集める。

心臓突然死は、「症状の発症から1時間以内に発生する心臓由来の予期せぬ死」と定義され、多くは致命的な心室性不整脈から生じる。突然の心停止が発生した際に、その認識の遅れやタイムリーな心肺蘇生、ことにAEDの使用がなされない場合、突然死に至る。一方で速やかな対応により、健康に何ら影響を残さず退院できるケースもある。

プロスポーツアスリートの心臓突然死(論文から一部を抜粋)

  • Reggie Lewis(レジー・ルイス):バスケットボール選手。肥大型閉塞性心筋症による練習試合中の心停止
  • Marc Vivien Foe(マルク・ヴィヴィアン・フォエ):サッカー選手。肥大型閉塞性心筋症による試合中の心停止
  • Miklos Feher(フェヘール・ミクローシュ):サッカー選手。肥大型閉塞性心筋症による試合中の心停止
  • Antonio Puerta(アントニオ・プエルタ):サッカー選手。不整脈原性右室心筋症による試合中の心停止
  • Wes Leonard(ウェス・レナード):高校生。拡張型心筋症によりバスケットボールの試合後に心停止
  • Flo Hyman(フローラ・ハイマン):バレーボール選手、日本のダイエーに所属。マルファン症候群による大動脈解離のため、松江市での対日立戦の試合中、ベンチに退いた後、心停止
  • Sergei Grinkov(セルゲイ・グリンコフ):フィギュアスケート選手。競技パートナーである妻とともにトレーニング中に、心筋梗塞により心停止。後に動脈血栓症を好発する遺伝子多型を持っていたことが判明
  • Jim Fixx(ジム・フィックス):ジョギングの提唱者。心筋梗塞によりジョギング中に心停止
  • Alexander Dale Oen(アレクサンドル・ダーレ・オーエン):水泳選手。心筋梗塞により合宿中に心停止
  • Darryl Kile(ダリル・カイル):野球選手。心筋梗塞により試合前の休息中に心停止

AEDは突然の心停止のソリューション

文献によると、突然の心停止の発生から1分以内にバイスタンダー (bystander.そばに居合わせた人)による除細動や二次心肺蘇生(Advanced Cardiovascular Life Support;ACLS)がなされた場合、67%が生存するとされている。一方、AHAによると、病院外で発生する突然の心停止の最大40%が一般市民によって対処され、そのうち心肺蘇生法(Cardio Pulmonary Resuscitation;CPR)に精通しているのは60%にとどまるという。ただし、AEDの使用法の訓練を受けたボランティアが、神経機能を損なうことなく、公共の場所で発生した突然の心停止の生存率を大幅に向上させることも示されている。

つまり、よく訓練された一般人によるタイムリーなAEDの使用と、効果的なCPRが、より良い転帰につながる可能性があることがわかる。ただし、病院外で発生する突然の心停止のうち、公共の場所で発生するのは20%にすぎず、他の約80%は自宅で発生している。

スポーツイベントの最中に発生するものは、前者の20%に含まれる。比較的狭い範囲でのトレーニングやスタジアム内では、AEDの早期使用による救命率向上が見込まれ、そのエビデンスも報告されつつある。

突然の心停止によるアスリートの死亡を減らすためには、タイムリーで効果的な蘇生が必須であり、それにはアスリートやトレーナーなど、スポーツの現場にいる人に対するCPRトレーニングの浸透が必要であろう。

文献情報

原題のタイトルは、「Sudden Cardiac Death in Famous Athletes, Lessons Learned, Heterogeneity in Expert Recommendations and Pitfalls of Contemporary Screening Strategies」。〔J Atr Fibrillation. 2019 Dec 31;12(4):2193〕
原文はこちら(Cardiofront)

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