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運動時の脳-脊髄-筋肉連携の詳細が明らかに 国立精神・神経医療研究センターと京都大学による共同研究

2020年05月07日

運動は、からだを動かすことと止まることが間断なく連続している状態。ヒトを含む脊椎動物で、このような運動がどのような神経回路によって制御されているのかはこれまでよくわかっていなかったが、脊髄と大脳皮質一次運動野が筋肉との間に別々の感覚運動ループを形成し、筋力を発揮していることが明らかになった。

巧みな運動では脊髄と脳が役割分担 脊髄と大脳が筋肉と別々にループを形成している

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと京都大学の共同研究グループの研究によるもので、「Communications Biology」誌に論文が掲載されるとともに、同センターのWebサイトにニュースリリースが掲載された。従来、随意運動中に脊髄、大脳皮質を介した感覚運動ループの存在は知られていたが、それらが手の巧緻(こうち)運動の動的、静的運動時に使い分けられていることを示したのは初めてという。

研究の概要

この研究では、サルが人差し指と親指でレバーを掴み(動的)、保持(静的)動作をしている際に、脊髄または大脳皮質一次運動野 (運動野) から集団的な神経活動である局所フィールド電位 (Local Field Potential;LFP) ※1を上肢筋群の筋活動と同時に計測・記録した。

※1 局所フィールド電位(LFP):神経活動を電気的に記録した信号のうち、低周波(~300Hz)の成分。個々の神経細胞の活動ではなく、集団的な活動を反映する。

脊髄、運動野と筋電活動との機能的結合を表すコヒーレンス解析※2を行った結果、いわゆるベータ帯域 (15~30Hz)において、動的時には脊髄と筋肉、静的時には運動野と筋肉とのコヒーレンスが顕著に現れることを発見した。

※2 コヒーレンス解析:信号を各周波数成分に分解し、周波数ごとの時間的な相関(機能的な結合)を評価する解析方法。

また、脊髄と筋肉との機能的結合が、人差し指や前腕の屈筋などの、つまむ(精密把持)※3ときの張力発揮に大きく貢献する筋群とその局所的なネットワークにみられ、運動野と筋肉との機能的結合は指の筋群と上肢全体とのネットワークが観察された。

※3 精密把持:人差し指と親指の指先のみをつかったつまみ運動。親指が他の指と対向した霊長類の一部だけが行える器用な運動。

さらに、脊髄と筋肉、運動野と筋肉の信号の伝播の因果性解析では、それぞれ双方向性の相互作用がみられた。このことから、観察された機能的結合は帰還信号のループによって現れていることが示唆される。

研究の詳細

4頭のサルに、人差し指と親指でレバーをつまみ、保持する、という行動課題を行わせているときの、脊髄または運動野からの神経活動および上肢の筋活動を同時に計測、記録した(図1A、B)。電気的神経活動の比較的低帯域 (~200Hz) の信号は局所的フィールド電位※1と呼ばれ、集団的な神経活動を反映するとされている。この信号と筋肉の電気的活動との機能的結合を、コヒーレンス解析※2と呼ばれる、信号の周波数帯別の相関をとらえる解析によって調べた。この解析を行うことでどの帯域で信号間の相関があるのか、つまり機能的に結合しているかが検出できる。

その結果、ベータ帯域 (15~30Hz)において 脊髄と筋肉とのコヒーレンスが動的運動時に、運動野と筋肉とのコヒーレンスが静的運動時に現れることを発見した(図1C、D)。

図1 行動課題と脊髄、大脳皮質一次運動野、筋活動の記録

図1 行動課題と脊髄、大脳皮質一次運動野、筋活動の記録

(A)サルが人差し指と親指でレバーをつまみ、保持する動作を行っている間に筋活動(EMG)と同時に脊髄、または一次運動野から局所フィールド電位(LFP)※1と呼ばれる脳活動を記録。
(B)行動課題の時系列と信号の模式図。
(C)脊髄からのLFP(上段)、EMG(中段)と両者のコヒーレンス※2(下段)。動的なGrip時(つまむ動作)に20Hz前後のコヒーレンスが顕著にみられる。
(D)運動野からのLFP(上段)、EMG(中段)と両者のコヒーレンス(下段)。静的なHold時(保持)にコヒーレンスが顕著にみられる。
(出典:国立精神・神経医療研究センター)

また、コヒーレンスがみられる筋肉にも違いがあり、脊髄では人差し指と前腕の屈筋群、運動野では手内在筋、手外在筋群全体にみられた(図2A)。さらに、同一の神経活動を記録している箇所において複数の筋群からのコヒーレンスがみられたことから、その筋群が同じ信号のやりとりをしているネットワークにあると推定し、その組み合わせを調べた。

すると脊髄は前腕の屈筋群同士でネットワークを形成しているのに対し、運動野は手指の筋肉だけでなく、前腕、上腕の幅広い筋群とのネットワークを形作っていることがわかった(図2B、C)。

図2 脊髄と運動野にコヒーレンスがみられる筋群とそのネットワーク

図2 脊髄と運動野にコヒーレンスがみられる筋群とそのネットワーク

(A)脊髄LFP※1とコヒーレンス※2がみられた筋群(青)と運動野LFPとコヒーレンスがみられた筋群(橙)。脊髄においては人差し指の屈筋(FDIとFDPr)と手首の屈筋に多くみられるのに対し、運動野においては手内在筋と手外在屈筋群に多くみられる。
(B)脊髄のコヒーレンスからみられるネットワーク。主に手外在屈筋群と手首屈筋群とのつながりが顕著にみられる。
(C)運動野のコヒーレンスからみられるネットワーク。手の筋群や手首の筋群だけでなく上腕筋も含めた多様な筋と筋とのつながりがみられる。
(出典:国立精神・神経医療研究センター)

さらに、これらのコヒーレンスの時系列情報から、神経活動と筋活動の間の因果性解析を行った。この解析により、神経活動と筋活動のどちらが他方に、または双方が影響を与えているかを調べることができる。

解析の結果、脊髄、運動野のコヒーレンス、いずれにおいても筋活動との双方向の因果性が認められた(図3)。これは脊髄、運動野、それぞれが筋活動と相互作用のループを形成していることを示唆する。さらに行った時間的遅れの解析によって、この双方向性のやりとりの時間が、その信号の相互作用のループにかかる時間と一致することを発見した。

こうしたことから、動的、静的運動時には脊髄、運動野、それぞれが筋肉との帰還信号を介した相互作用のループによって運動を制御していることが示唆された。

図3 脊髄と運動野にみられるコヒーレンスの因果性解析

図3 脊髄と運動野にみられるコヒーレンスの因果性解析

Grip(動的運動)時にみられる脊髄のコヒーレンス(上段左)、Hold(静的運動)時にみられる運動野のコヒーレンス(下段右)の両方において、LFPからEMG(図上向きヒストグラム:LFP→EMG)、EMGからLFP(図下向きヒストグラム:EMG→LFP)の双方向に因果性が認められる。
(出典:国立精神・神経医療研究センター)

今後の展望

本研究の成果により、ヒトの巧みな運動の制御を可能にしている神経機構の理解や運動機能障害に対する治療法の開発が進むと考えられる。

具体的には、脊髄を介した帰還回路が、歩行などのロコモーションだけでなく、巧緻性を要する随意運動においても使われていることがわかった。脊髄損傷や脳損傷などで運動機能を再建するにあたり、動的と静的な運動の場面において、末梢の筋肉との信号の中継を振り分けて接続することでより精緻な機能を回復させる治療に展開することが期待される。

プレスリリース

動的・静的筋力発揮に脊髄と大脳皮質一次運動野の帰還信号のループが別々に関わっていることを発見(国立精神・神経医療研究センター)

文献情報

原題のタイトルは、「Distinct sensorimotor feedback loops for dynamic and static control of primate precision grip」。〔Commun Biol. 2020 Apr 2;3(1):156〕
原文はこちら(Springer Nature)

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