認知機能改善のベストな運動法は? 過去30年、80件のRCTのメタ解析から明らかに
身体活動が認知機能の維持・向上につながることに関しては多くのエビデンスが存在する。しかし、どのような運動を、どの程度行うのが最も効果的なのか、また、性別や年齢によって行うべき運動や時間は異なるのかといった点は明らかになっていない。
これらの疑問に対する答えが報告された。筑波大とバーゼル大学(スイス)の研究グループが、これまでに発表された運動と認知機能に関する論文のデータをメタ解析したもので、「Nature human behaviour」誌に掲載されるとともに、筑波大のWebサイトにニュースリリースが掲載された。
認知機能改善につながる運動のタイプは?
研究グループでは、過去30年間に報告された、健常者の認知機能に焦点を当て行われたランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を実施した。その結果、4つのポイントが明らかになった。
まず、認知機能改善につながる運動のタイプについてだが、運動のタイプにかかわらず、習慣的な運動は認知機能を改善させることが明らかになった。しかしその効果は、有酸素トレーニングや筋力トレーニングよりも、コーディネーショントレーニングと呼ばれる、手足の協調運動やボールドリブルなど、身体や物のコントロールが求められる神経系のトレーニングで大きいことがわかった。
図1は、運動のタイプ別に効果を比較したもの。円の大きさはそれぞれの研究における参加者数を表しており、大きい円ほど参加者が多い。「ミックス」とは、2種類以上のタイプの運動を組み合わせて行った検討の結果。
運動のタイプごとに示されている3つの横線は、中央が効果量の平均値、上下の2本は95%信頼区間を示している。コーディネーショントレーニングが他のタイプの運動よりも効果が大きいことがわかる。ただし、コーディネーショントレーニングの丸の数は少なく、コーディネーショントレーニングの効果に着目した研究の件数がまだ少ないことも示された。
図1 運動の種類の違いによる効果量の比較
認知機能改善につながる運動の継続時間は?
次に、認知機能改善につながる運動の継続時間についてだが、比較的長時間(60~90分)の運動を長期間(22週間以上)継続すると、効果は高まることがわかった。
図2は、運動の継続時間・期間別に効果を比較したもの。1回あたりの運動継続時間が長く、22週を超えて継続すると、他の条件に比較し効果が大きいことがわかる。ただし、短い時間の運動が効果がないことを示しているわけではない。
図2 トレーニングの期間と運動時間の違いによる効果量の変化
男性と女性で効果的な運動は異なる?
続いて、男性と女性とで、認知機能の改善に効果的な運動のタイプが異なるのかを検討した。
図3はその結果を表したもので、トレーニング強度を徐々に上げていく場合(漸進性あり)、研究参加者に占める女性の割合が多いほど効果が小さくなり、一方で漸進性がない場合、女性の割合が多くなっても効果はあまり変化していない。このことから、男性に対しては徐々に強度を上げていく漸進性トレーニングが適しており、女性に対しては漸進性のない低強度~中強度のトレーニングが適していることがわかった。
図3 性別とトレーニングの漸進性の有無による効果量の比較
年齢によって運動の効果は異なる?
最後に、年齢によって運動が認知機能に与えるポジティブな効果に差があるかを検討した。
図4がその結果で、3本の横線の中央は回帰直線、上下の線はその95%信頼区間を示している。円の大きさはそれぞれの研究の参加者数を表し、左側にいくほど若年者を対象とした研究、右側にいくほど高齢者を対象とした研究。
回帰直線に傾きはなく、研究参加者の年齢によるトレーニング効果に違いがないことが示された。ただし、多くの研究が、若年者か高齢者かのいずれか一方のみを対象とした研究であることがわかった。
図4 年齢の違いによる効果量の比較
研究グループでは、「認知機能は身体的・精神的健康、QOL、学力、キャリアなど、生活のあらゆる側面にかかわる重要なもの。今後、本研究成果を基に、認知機能を改善させる運動プログラムが開発されることが期待される」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Systematic review and meta-analysis investigating moderators of long-term effects of exercise on cognition in healthy individuals」。〔Nat Hum Behav. 2020 Mar 30〕
原文はこちら(Springer Nature)
プレスリリース
過去30年間の知見から認知機能を改善させる運動を解明(筑波大学)