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大学生アスリートが認識しているエネルギー・栄養摂取量と実際の摂取量に乖離、栄養知識の欠如が原因か?

米国の女子大学生ラクロス選手を対象とした調査結果から、推奨量よりも大幅に少ない食事しかとっておらず、その背景に栄養に関する知識の不足があることが報告された。この現状から論文の著者らは、大学生アスリートは栄養教育のメリットが高い集団であると述べている。

大学女子ラクロス選手の食事摂取量が大幅に不足 栄養知識の欠如が原因か?

食事習慣はアスリートの健康とパフォーマンスに大きな影響を持つ。アスリートは、トレーニング量の維持と回復、パフォーマンスの向上のため、一般的平均以上のエネルギー量と各種栄養素の摂取を必要とする。国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)や国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)もアスリートのための食事の必要性を強調している。

その一方で大学生アスリートでは、栄養摂取推奨量を満たしていないとの報告が散見されるが、女性チームスポーツ選手の栄養摂取状況に関する報告は不足している。このような状況を背景に行われた本研究は、女子大学生ラクロス選手の食事摂取量をISSNの推奨と比較し、また彼女らの摂取量に関する認識レベルを評価する目的で実施された。

NCAAディビジョンIIの女子選手20名の食事摂取量を調査

対象は全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)ディビジョンIIに属する20名の女子ラクロス選手。平均年齢は20.0±1.7歳、身長169.7±6.4cm、体重69.9±10.7kg、体脂肪率27.5±3.3%。

シーズン中の連続4日間にわたり、活動量計によりエネルギー消費量を計測するとともに、食事摂取量を記録した。また、摂取必要量の認識、および自分が摂取していると思っている量のアンケートを行い、実際に摂取している量との乖離を調べた。なお、このアンケートの回答者数は17名で、前述の調査より3名少ないため、後述する摂取エネルギー量の平均値などに若干の差が生じている。

エネルギー量と栄養素量のほぼすべてが推奨値と有意差

摂取エネルギー量は大幅に少ない

調査結果をエネルギー出納から順にみていこう。
選手のエネルギー消費量は平均2,582±303kcal/日だった。一方、摂取エネルギー量は平均2,162±392kcal/日、体重あたりでは32.1±7.9kcal/kg/日だった。

ISSNでは運動強度が低い場合40kcal/kg/日、中等度では50kcal/kg/日、高強度では60kcal/kg/日を推奨しており、これを本研究の対象者の体重を用いて1日あたりの摂取推奨量を算出すると、同順に2,756±403kcal/日、3,445±504kcal/日、4,134±605 kcal/日となる。よって、本研究の対象者の摂取エネルギー量は活動レベル「低」の推奨量よりも少なく、有意差が存在した(p<0.001)。

炭水化物やタンパク質の摂取量も少ない

次に炭水化物については、摂取量の平均が236±74g、体重あたり3.48±1.19gだった。ISSNの推奨は、運動強度が低い場合4.0g/kg/日、中等度では6.0g/kg/日、高強度では8.0g/kg/日であり、本研究の対象者の体重から1日あたり摂取推奨量を算出すると、275.6±40.3g/日、413.4±60.5g/日、551.2±80.7g/日となる。よって、本研究対象者の炭水化物摂取量は活動レベル「低」の推奨量よりも少なかった(p=0.05)。

続いてタンパク質は、摂取量の平均が78.8±19.6g、体重あたり1.18±0.38gだった。ISSNの推奨は、運動強度が低い場合1.4g/kg/日、中等度では1.6g/kg/日、高強度では1.8g/kg/日であり、本研究の対象者の体重から1日あたり摂取推奨量を算出すると、96.5±14.1g/日、110.2±16.1g/日、124.0±18.1g/日となる。よって、本研究対象者のタンパク質摂取量は活動レベル「低」の推奨量よりも少なく、有意差が存在した(p=0.011)。

脂質摂取量は逆に多め

脂質は、摂取量の平均が87.9±22.8g、体重あたり1.13±0.41gだった。ISSNの推奨は、運動強度が低い場合、摂取エネルギー量全体の15%、中等度では25%、高強度では35%であり、本研究の対象者の摂取推奨量を算出すると、36.0±6.5g/日、60.0±10.9g/日、84.1±15.2g/日となる。よって、本研究対象者の脂質摂取量は、活動レベル「低」や「中」の推奨量よりも多く有意差が存在した(p<0.001)。ただし、活動レベル「高」の推奨量とは有意な差がなかった(p=0.37)。

なお、脂質摂取量が多く炭水化物が少ないという傾向は、本調査の対象が米国で行われたものであることが関係している可能性が考えられる。

栄養の知識や自分の摂取量の認識も不十分

摂取エネルギー量は「自分が考えているとおり」の量を摂取しているが本当は少ない

アンケート調査から得られた「自分が摂取すべきだと思うエネルギー量」は平均2,000±300kcal/日だった。それに対して「自分が摂取していると思うエネルギー量」は平均2,214±679kcal/日であり200kcal以上多く、「推奨量をやや上回って摂取している」と感じている可能性もあるが、統計的有意差はなかった(p=0.42)。一方、「実際に摂取している量」は平均2,137±418kcal/日だった。なお、実際の摂取量は前述のように調査対象者数の相違により、前記調査の数値と若干異なる(以降についても同様)。

この3つの数値は有意差がなかった。ただし、前述のように本来の摂取推奨量は活動量が「低」でも2,756±403kcal/日であることから、必要だと思っている量、摂取していると思っている量、実際の摂取量のいずれも不足していることがわかる。

炭水化物は「必要以上に摂取している」と感じているが本当は少ない

炭水化物については、「自分が摂取すべきだと思う量」が平均80±213g/日、「自分が摂取していると思う量」が平均150±280g/日であり、「推奨量より多く摂取している」と感じていることがわかった(p=0.004)。一方、「実際に摂取している量」は平均242±73g/日であり、自分が摂取していると思う量よりもさらに多く摂取していた。しかしそれでも前述のように、本来の摂取推奨量275.6±40.3g/日(活動量が「低」の場合)より有意に少ない量しか摂取していない。

タンパク質は「自分が考えているとおり」の量を摂取しているが本当は少ない

タンパク質については、「自分が摂取すべきだと思う量」が平均45±41g/日に対して、「自分が摂取していると思う量」が平均30±32.5g/日であり15g少なく、「推奨量を満たしていない」と感じている傾向がみられるが、統計的有意差はなかった(p=0.39)。一方、「実際に摂取している量」は平均77.7±20.4g/日だった。

この3つの数値は有意差がなかったが、前述のように本来の摂取推奨量は活動量が「低」でも96.5±14.1g/日であることから、必要だと思っている量、摂取していると思っている量、実際の摂取量のいずれも不足していることがわかる。

脂質は「必要以上に摂取している」と感じている

脂質については、「自分が摂取すべきだと思う量」が平均30±40g/日、「自分が摂取していると思う量」が平均50±63g/日であり、「推奨量より大きく超える量を摂取している」と感じていることがわかった(p=0.007)。一方、「実際に摂取している量」は平均86.1±22.4g/日であり、自分が摂取していると思う量よりもさらに多く摂取していた。そして前述のように、活動量が「低」または「中」の場合は、実際に本来の摂取推奨量より有意に多く摂取している。

大学生アスリートは栄養教育のメリットが大きい

以上の結果からの考察として著者らは、「女子大学生アスリートは専門機関が推奨しているエネルギー量・栄養素量を満たしていないことがわかった。活動レベルが「低」の場合の推奨量(摂取エネルギー量については40kcal/kg/日)との比較でも少なく、さらにラクロスでは1ゲーム平均800~1,000kcalを消費する」と述べ、摂取量の不足を指摘している。

そして、このような栄養上の問題が、知識の不足または食行動の誤解の結果なのか、その他、負の習慣の結果なのかはわかっていないとした上で、「本研究から、アスリートのエネルギーおよび主要栄養素の必要性に対する知識と、認識された栄養摂取量、および実際の食事摂取量との間に大きな乖離が見つかった。とくに炭水化物と脂肪については標準偏差が大きいことから、一部のアスリートは日々の栄養の必要性に関する基本的な理解が欠けていることを示唆している」と考察。

結論として、「この研究の結果は、大学生アスリートは栄養の基本的な事項を適切に理解しておらず、栄養教育を受けることによるメリットが大きい可能性を示している」とまとめている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrient Status and perceptions of energy and macronutrient intake in a Group of Collegiate Female Lacrosse Athletes」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2019 Oct 15;16(1)〕

原文はこちら(Springer Nature)

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