厚労省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」を公表 フレイル予防にも力点
厚生労働省はこのほど、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の報告書をとりまとめ公表した。「日本人の食事摂取基準」は、健康増進法に基づき厚生労働大臣が定める、国民の健康の保持・増進を図る上で摂取することが望ましいエネルギー量と栄養素量の基準。5年ごとに改定しており、2020年版は今年度中に告示され、令和2年度から5年間用いる。
今回の改定の主要ポイント
活力ある健康長寿社会の実現に向けて
きめ細かな栄養施策を推進する観点から、50歳以上について、50~64歳、65~74歳、75歳以上と3段階に細分化し、年齢区分ごとの摂取基準を設定した。従来は50~69歳と70歳以上の2段階だった。
高齢者のフレイル予防の観点から、総エネルギー量に占めるタンパク質由来エネルギー量の割合(%エネルギー)を変更した。具体的には、65歳以上の目標量の下限を13%エネルギーから15%エネルギーに引き上げた。
若いうちからの生活習慣病予防を推進するため、以下の対応を行った。飽和脂肪酸、カリウムについて、小児の目標量を新たに設定。ナトリウム(食塩相当量)について、成人の目標量を0.5g/日引き下げるとともに、高血圧および慢性腎臓病(CKD)の重症化予防を目的とした量として、新たに6g/日未満を設定。コレステロールについて、脂質異常症の重症化予防を目的とした量として、新たに200mg/日未満に留めることが望ましいことを記載。
EBPM基づく政策立案
食事摂取基準を利用する専門職等の理解の一助となるよう、EBPM(evidence based policy making:根拠に基づく政策立案)推進のため、目標量のエビデンスレベルを対象栄養素ごとに新たに設定した。
目標値算定のエビデンスレベル
個別の改定事項や変更点、留意事項
食事摂取状況のアセスメントの方法と留意点
エネルギー摂取量の過不足の評価には、BMIまたは体重変化量を用いる。
食事調査によって得られる摂取量には必ず測定誤差が伴う。実施する食事調査について、より高い調査精度を確保するため、調査方法の標準化や精度管理に十分配慮するとともに、食事調査の測定誤差の種類とその特徴、程度を知ることが重要である。
食事調査の測定誤差で留意を要するのは、過小申告・過大申告と日間変動の二つである。このうち、出現頻度が高いのは過小申告で、中でもとくに留意を要するものはエネルギー摂取量の過小申告だ。
調査法や対象者によってその程度は異なるものの、エネルギー摂取量は日本人の集団平均値で男性 11% 程度、女性 15% 程度の過小申告が存在することが報告されている。
国民健康・栄養調査による 1 日間食事記録法によって得られた
平均エネルギー摂取量と推定エネルギー必要量(身体活動レベル II)の比較
主な変更点と新設項目
- 50歳以上のタンパク質の目標量を変更(単位:%エネルギー)
- 50~64歳;14~20、65~74歳;15~20、70歳以上;同左。
- 17歳以下の飽和脂肪酸の目標量を新設(単位:%エネルギー)
- 3~5歳;10以下、6~7歳;同左、8~9歳;同左、10~11歳;同左、12~14歳;同左、15~17歳;8以下。
- 1歳以上のビタミンDの目安量を変更(単位:μg/日)
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男 性
1~2歳;3.0、3~5歳;3.5、6~7歳;4.5、8~9歳;5.0、10~11歳;6.5、12~14歳;8.0、15~17歳;9.0、18~29歳;8.5、30~49歳;同左、50~64歳;同左、65~74歳;同左、75歳以上;同左。
女 性
1~2歳;3.5、3~5歳;4.0、6~7歳;5.0、8~9歳;6.0、10~11歳;8.0、12~14歳;9.5、15~17歳;8.5、18~29歳;同左、30~49歳;同左、50~64歳;同左、65~74歳;同左、75歳以上;同左。 - 3~5歳のカリウムの目標量を新設(単位:mg/日)
- 3~5歳;1,400以上。
- 3歳以上の鉄の推奨量を変更(単位:mg/日)
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男 性
3~5歳;5.5(変更なし)、6~7歳;5.5、8~9歳;7.0、10~11歳;8.5、12~14歳;10.0、15~17歳;同左、18~29歳;7.5、30~49歳;同左(変更なし)、50~64歳;7.5、65~74歳;同左、75歳以上;7.0。
女性(月経なし)
3~5歳;5.5、6~7歳;同左、8~9歳;7.5、10~11歳;8.5、12~14歳;同左、15~17歳;7.0(変更なし)、18~29歳;6.5、30~49歳;同左(変更なし)、50~64歳;6.5、65~74歳;6.0、75歳以上;同左。
女性(月経あり)
10~11歳;12.0、12~14歳;同左、15~17歳;10.5(変更なし)、18~29歳;同左、30~49歳;同左、50~64歳;11.0。
※なお、妊娠中期の付加量は推定平均必要量が+8.0、推奨量が+9.5に変更された。 - 3歳以上の銅の推奨量を変更(単位:mg/日)
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男 性
3~5歳;0.4(変更なし)、6~7歳;0.4、8~9歳;0.5、10~11歳;0.6、12~14歳;0.8(変更なし)、15~17歳;0.9、18~29歳;0.9(変更なし)、30~49歳;0.9、50~64歳;同左、65~74歳;同左、75歳以上;0.8。
女 性
3~5歳;0.3、6~7歳;0.4、8~9歳;0.5(変更なし)、10~11歳;0.6、12~14歳;0.8(変更なし)、15~17歳;0.7、18~29歳;同左、30~49歳;同左、50~64歳;同左、65~74歳;同左、75歳以上;同左。
※なお、18歳以上に設定されている耐容上限量は7に変更された。また、授乳婦の付加量は+0.6に変更された。 - クロムの耐容上限量を新設(単位:μg/日)
- 18歳以上は耐容上限量が500。
- 生活習慣病予防とフレイル予防の区別
- 生活習慣病予防のための摂取量と、フレイル予防のための摂取量の基準を設定できる栄養素については、区別して示すように改められた。各栄養素摂取基準の表の脚注、または解説文中に記されている。
関連情報
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書(厚生労働省)