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高齢者の調理技術、栄養知識、味覚・嗅覚低下と食事摂取に関する研究が乏しいことが明らかに 系統的レビュー

高齢者の身体的・社会的・精神心理的・行動的な制約が食事摂取に与える影響を整理するために行われた、システマティックレビューの結果が報告された。口腔機能の低下が、肉、魚、豆類、野菜、果物の摂取量の少なさと関連し、暮らし向きがよくないことや教育水準が低いことは、食事の質の低さと関連していた。一方で、調理スキル、栄養学知識、味覚・嗅覚低下が食事摂取に与える影響を調べた研究はほとんどなかったという。国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センターの木下かほり氏、鈴鹿医療科学大学保健衛生学部の古屋かな恵氏、千葉大学大学院情報・データサイエンス学府の片桐諒子氏による研究の結果であり、「The Journal of Aging Research & Lifestyle」に論文が掲載された。

高齢者の調理技術、栄養知識、味覚・嗅覚低下と食事摂取に関する研究が乏しいことが明らかに 系統的レビュー

高齢者はなぜ、あまり食べなくなるのか?

加齢とともに食事摂取量が減少することが多い。この変化は、身体活動量や基礎代謝の低下に伴いエネルギー需要が減少することとの関連という点で、歩調のあった変化と言えなくもない。ただし実際には、口腔機能や味覚・嗅覚機能、認知機能の低下、高齢者うつ、社会的サポートの欠如など多くの因子の重複により、減少したエネルギー需要さえ満たせていないことがある。また加齢に伴いエネルギー需要は減るものの、抗酸化・抗炎症などにかかわる微量栄養素の需要は大きく低下しないと考えられており、食事摂取量が減ることによってビタミンやミネラルが不足しやすくなる。このように、加齢に伴う変化や老年症候群が「意図しない不健康な食習慣」をまねき、また、これらの結果としてサルコペニアやフレイルを含む種々の老年症候群の進行が加速するという悪循環を生む。

高齢者の食事・栄養素摂取量の減少は、身体的・社会的・精神心理的・行動的要因の影響を受けることは知られているが、実際にどのような食品や栄養素が不足しやすいかについては十分に整理されていない。ヘルシーエイジングの達成には、高齢者個々のもつ様々な要因を多面的にとらえ、個別化された栄養支援が不可欠である。そのため、木下氏らは、高齢者一人ひとりに寄り添った栄養支援の検討に役立つ情報を整理することを目的にシステマティックレビューに基づくナラティブシンセシスを行った。

文献検索について

システマティックレビューとメタ解析のための優先報告項目(PRISMA)ガイドラインに準拠して、MEDLINEとWeb of Scienceを用いた文献検索を2024年9月に行った。最新の知見を得るために、検索対象期間は2019年6月1日~2024年6月1日の5年間とした。

包含基準は、65歳以上の地域在住高齢者を対象として、身体的・社会的・精神心理的・行動的要因と食事摂取状況との関連を検討した研究であり、査読システムのあるジャーナルに英語または日本語で発表され、全文を入手可能なものとした。施設居住者や入院患者を対象とする研究は除外した。対象に65歳未満が含まれている研究は、年齢で層別化され65歳以上の集団での解析結果が示されているものは採用した。

一次検索で2,354報がヒットし重複削除後の1,972報を、2名の研究者が独立してタイトルと要約に基づきスクリーニングを実施して、124報を全文精査の対象とした。採否の意見の不一致は3人目の研究者も含めた討議により解決した。最終的に29件の研究報告を適格と判断した。

29件の研究のうち25件は横断研究であり、他の4件はコホート研究だった。サンプルサイズは84~8万5,456人(65歳未満も含めた人数)だった。

以下、論文では、身体的要因、社会的要因、精神心理的要因、行動的要因ごとの結果が定性的に示されている。

身体的要因と食事摂取量の関連

身体的要因として主に口腔機能に焦点を当てた研究が多く抽出された。文献検索のキーワードには、味覚・嗅覚の低下に関連する用語も含められていたが、それらを変数として検討した包含基準を満たす報告はなかった。

口腔機能との関連は11件の研究で検討されていた。口腔機能の低下は、歯の本数、咬合力、口腔立体認知能などで評価され、たんぱく質の豊富な肉、魚、豆類や、微量栄養素が豊富な野菜、果物の摂取量の低値と関連していた。

以前の介入研究において、口腔機能が低下した者に対する食事指導は栄養摂取量を改善することが示されており、本レビューの結果からも、口腔機能の低下により摂取量が減少しやすいこれらの食品の咀嚼に配慮した調理法などの指導に役立つ可能性が示唆された。

社会的要因と食事摂取量の関連

経済状況(家計のゆとり)に関する8件の報告が抽出された。経済状況の違いによる食品や栄養素の摂取量の違いを検討した文献はなく、すべて食事の質との関連を検討していた。これらのうち6件は、家計のゆとり状況と食事の質(HEI-2010、食事バランスガイドの遵守度スコア、DDSなどで評価)との間に正の関連を報告していた。一方で2件の研究は、関連はみられないと報告していた。関連がなかった理由として、家計のゆとりがなくとも食料が入手しやすい環境では食事の質に影響を受けないことが示唆されており、経済的に恵まれない高齢者でも入手しやすい食品を用いた食事の質向上のための支援が重要な可能性がある。

婚姻状況や世帯人数(例:独居など)に関する研究は7件が含められたが、食事の質や摂取量との関連は一貫していなかった。これは、性別、調理技術、栄養知識などの違いに起因する可能性があり、これらの要因を考慮したさらなる研究の必要性が示唆された。

教育歴に関する研究は6件あり、すべての研究が低い教育水準と食事の質の低さに関連があると結論づけていた。特定の食品群との関連を検討した論文は乏しく、教育水準が低いと摂取量が影響されやすい食品の特定にはいたらなかったが、高齢者に対する栄養教育介入は、野菜、果物、食物繊維の摂取量を増加させることを示した先行研究があり、教育水準の低い高齢者への栄養教育の必要性を示唆している。

心理的要因と食事摂取量の関連

抑うつとの関連を検討した研究が2件存在した。そのうち1件は、うつ状態が地中海食スコア(mediterranean diet score;MDS)や代替健康食指数(alternative healthy eating index;AHEI)の低下と関連していることを報告していた。別の1件は縦断研究の報告であり、うつ状態と野菜や肉類の摂取量の減少、乳製品や菓子類の摂取量の増加との関連を報告していた。

うつ症状は高齢者の食欲低下を引き起こすことや、高齢者は食品選択において嗜好や感覚的な魅力を優先する傾向があることを示す先行研究があり、うつ治療と並行して食欲を刺激する介入や食品選択の教育的支援が重要な可能性がある。

行動的要因と食事摂取量の関連

フードセキュリティ(物理的・経済的な食料の入手しやすさ)を検討した研究は4件が含められたが、結果は一貫していなかった。調理スキルに焦点を当てた研究が1件あり、女性では調理スキルが低い場合に野菜や果物の摂取頻度が低いことが報告されていた。栄養学的知識を扱った研究も1件のみ含められ、栄養学的知識を有し栄養情報を利用していることは食事の質と正の関連があった。
このように、食料の入手しにくさ、低い調理スキル、栄養学的知識の乏しさなどは食事摂取に影響しうる重要な制約要因であるものの、これらの要因による食事摂取の特徴を検討した研究はほとんどなく、栄養学知識や調理スキルを評価する標準化された指標も存在しなかった。この分野での研究の必要性が示唆された。

食事摂取量が低下した高齢者に対する栄養スタッフの役割

以上一連の結果に基づき栄養スタッフの役割について、以下のような考察が述べられている。

「栄養士には、高齢者の食事摂取量を制限するこれらの要因を理解し、摂取量最適化のための個別化したアプローチが求められる。例えば、肉や野菜を咀嚼しやすくする調理指導、社会経済的支援を十分に受けていない高齢者や調理スキルの低い高齢者に対して、低コストで簡易な調理法を用いたレシピ提示、買い物の支援などである。さらに、うつ症状のある高齢者に対しては、心理学の専門家と連携のもとで栄養とメンタルヘルスを統合した介入を探ることも必要である」。

また一方で、「栄養知識や味覚・嗅覚の状態、調理スキルが食事摂取量に及ぼす影響を検討した研究が少なく、これらの制約要因による高齢者の食事摂取特性に関する研究には大きなギャップがあることも明らかになった」と付け加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary intake characteristics in older adults: A systematic review of physical, social, psychological, and behavioral limitations」。〔JAR Life. 2026 Feb 6:15:100064〕
原文はこちら(Elsevier)

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