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大学生の食料不安による孤立・孤独は「温かい炊き出し」で改善できる? フードパントリーイベントでのアクションリサーチによる検証

国内でも大きな課題となっている食料不安に対して、フードパントリー(食品配布)が普及してきている。しかし、単に食品を手渡すだけの活動では、食料不安に付随する「孤独感」や「精神的な健康」までは十分にケアできていない可能性がある。今回、昭和女子大学食健康科学部健康デザイン学科の黒谷佳代氏ら研究グループは、配布活動に「出来たての温かい食事(炊き出し)」を組み合わせることで、学生の満足度や孤独感にどのような影響を及ぼすかを検討した研究の結果が報告された。都内の大学生を対象に行ったアクションリサーチ研究であり、論文が「Dietetics」に掲載された。

大学生の食料不安による孤立・孤独は「温かい炊き出し」で改善できる? フードパントリーイベントでのアクションリサーチによる検証

食料不安に直面する日本の大学生:44%が「丸一日食べない」経験も

国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization;FAO)によると、2024年には世界人口の8.2%が飢餓に直面していると推測され、日本でも中等度から重度の食料不安を抱えている成人が、2022~24年の3年間の平均で5.8%と報告されている。また、国内の大学生を対象とする調査から、食料が十分でないために体重が減ったり、丸一日食べずに過ごしたりするとの回答が44%に上るという報告もみられる。つまり、食料不安は遠い国の話ではなく、日本国内にも身近に存在する課題であり、日々の食事を十分食べられていない大学生が少なくないという衝撃的な実態がある。

フードパントリーは、地域の企業や団体、個人の寄付により集まった食品を、必要としている人に供給する活動であり、食品ロスを減らすという側面もあわせもつ。この活動は学生のエネルギー需要を満たすという面で役立っていることは確かだが、一方で、食料不安に伴うことの多い孤立や孤独には対処できていない可能性がある。

大学生、特に一人暮らしの学生は、経済的困窮が「社会的な孤立」に直結しやすい傾向にある。これに対し、近年注目されているのが「共食」による孤独感の緩和である。本研究では、「炊き出し」がこの孤独感・孤立を軽減する一助となるか、アクションリサーチを通じて検証した。

2,500円相当の食品提供±「豚汁の炊き出し」による介入

この研究は、著者らが地域のフードパントリー主催者と協力し、食糧支援活動の改善を探る一連のアクションリサーチプロジェクトの一環として行われた。解析の対象は3回のイベントの参加者であり、それらではいずれも2,500円相当の食料品を提供した。

3回のイベントのうち2024年10月および2025年10月には豚汁の炊き出しを行い、おかわり自由で提供した。また、会場の床にマットを敷き、参加者に靴を脱いでもらって、よりくつろげるようにした。

一方、2025年2月に行ったイベントでは、この炊き出しをせず、飲み物と菓子を提供した。マットは敷かずに机と椅子を配置した。

いずれの回もBGMやスタッフとの会話など、温かい雰囲気の演出を心掛けた。

評価項目について

アンケートでは、炊き出しに対する満足度、イベント会場の満足度、スタッフとの会話の頻度を、4段階のリッカート尺度で評価してもらった。

孤独感については、日本語版のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)孤独感尺度短縮版を用いて評価した。これは、「自分は孤立していると感じる頻度」といった3項目の質問で判定する精度検証済みの指標。スコアが高いほど孤独感が高いと判定する。

炊き出しのあり/なしでイベント参加者の背景は同等

イベント参加者数は、炊き出しを行った2回が計136人、炊き出しを行わなかった回は62人で、このうち前述のアンケート調査に回答したのは、87人、41人だった。

炊き出しありのイベントとなしのイベントの参加者の背景を比較すると、性別の分布、参加回数、就労(アルバイト等)状況、食事の頻度、食品の買い物の頻度、健康状態の自己評価、生活状況という調査項目のすべてについて有意差がなかった。

「100%の満足度」と「居場所」への変容

炊き出しありのイベントに参加した学生の満足度は極めて高く、豚汁を食べた参加者全員(100%)が満足と回答した。特筆すべきは、「会場への満足度」が、炊き出しありの回で有意に高かったことである(p=0.003)。これは、温かい食事が提供されることで、会場が単なる「効率的な食品配布ポイント」から、学生が心理的に安心し、尊重されていると感じられる「居場所」へと変容したことを示唆している。なお、スタッフとの会話については、いずれのイベントでも8割以上の学生が会話をしており、有意差は認められなかった。

UCLA孤独感尺度の調整スコアの平均値は、炊き出しありでは6.53、炊き出しなしでは6.41であり、有意差はなかった(p=0.69)。

FAO「食料安全保障」の視点からみた「食の利用(Utilization)」の重要性

炊き出しの提供や会場の満足度は高いという有意差がみられたにもかかわらず、UCLA孤独感尺度スコアには有意差がないという結果について、論文では「食料安全保障」の多面的なフレームワークから考察がなされている。

FAOは、食料安全保障を「供給」「入手」「利用」「安定」の4要素で定義している。従来のフードパントリーは、無償で食品を渡すことで「入手」の障壁を下げることに主眼が置かれてきた。しかし、本研究が注目したのは「利用」の側面である。「利用」とは、単に食べ物があるだけでなく、それが適切に調理され、栄養として吸収され、さらに精神的な充足や尊厳を伴って摂取されることを指す。
炊き出しによる温かい食事の提供は、調理環境や時間に制約のある学生に対し、即座に食べられる栄養を届けるだけでなく、「もてなされる」という心理的充足感を通じて、この「利用」の質を大きく底上げしている。数値上の孤独感が即座に変わらなくとも、学生の食生活の質と尊厳を支える上で、炊き出しは極めて重要な役割を果たしているといえる。

今後の課題と研究の限界:温かい料理を「つながり」の起点に

本研究の限界として、いくつかの交絡因子の影響も否定できない。第一に、実施時期の相違である。炊き出しを行ったのは10月であったが、炊き出しなしのフードパントリーイベントは2月に実施された。2月は気温が低く、温かい食べ物への潜在的なニーズや心理状態が10月とは異なっていた可能性があり、これが結果に影響を及ぼした可能性がある。第二に、アクションリサーチという性質上、特定の地域の大学生のみを対象とした単一事例の研究であり、結果の一般化には慎重を要する。また、スタッフとの会話は活発であったものの、学生同士の深い交流には至っていなかった可能性も指摘されている。
著者らは、炊き出しが「支援を受ける側の心理的な壁」を下げ、豊かな環境を提供した意義は大きいとしている。今回の研究成果は、フードパントリーが単なる物資支援に留まらず、温かい食事を介して「学生が大切にされている」と感じられる場を作ることの重要性を示した。今後は、この炊き出しによって醸成された温かい雰囲気を活かし、参加者同士の交流を促す具体的な仕掛けを組み合わせることで、より包括的な孤立支援へとつながることが期待されると総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Enhancing Food Utilization and Satisfaction Through Hot Meals: An Action Research Study on Community Food-Pantry Events for University Students in Tokyo」。〔Dietetics (Basel, Switzerland). 2026 Feb 24;5(1):11〕
原文はこちら(MDPI)

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