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2型糖尿病患者において炭水化物と他の栄養素のバランスが、心血管イベント・死亡リスクに影響する可能性 順天堂大学

2型糖尿病患者において、1日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、心血管イベントや死亡のリスクの増加と関連することが明らかになった。順天堂大学の研究グループの研究によるもので、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

2型糖尿病患者において炭水化物摂取の質と量が、心血管イベント・死亡リスクに影響する可能性 順天堂大学

研究の概要:2型糖尿病患者の心血管イベントや死亡リスクを規定する食事とは?

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の研究グループは、1日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、2型糖尿病患者の心血管イベント※1や死亡のリスクの増加と関連することを明らかにした。

2型糖尿病患者を対象に、食事を含む生活習慣を質問票で評価し、最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡した結果、炭水化物の摂取割合が高いほど心血管イベントや死亡のリスクが増加し、逆に、炭水化物の摂取量が少なく、タンパク質や脂質の摂取量が多いことがそのリスク低下に寄与することがわかった。とくに、動物性のタンパク質や脂質が多いことで、心血管イベントや死亡の発症リスクが低下した。

また、飽和脂肪酸※2の摂取割合が高いことも、心血管イベントや死亡のリスク低下に関連していた。

これらの結果は、2型糖尿病患者の心血管疾患予防のために、食事に含まれる栄養素の調整が非常に重要である可能性を示唆するとともに、その方法は欧米人と日本人では必ずしも同じではない可能性を示唆している。

※1 心血管イベント:心筋梗塞や脳梗塞などに代表される心血管系の病気のこと。2型糖尿病患者ではこのような心血管イベントによる死亡が多いため、心血管イベントの発症を回避することは糖尿病治療において重大な課題。
※2 飽和脂肪酸:主に動物性食品(例:肉、バター、乳製品)や一部の植物性油脂(例:ココナッツオイルやパーム油)に多く含まれている。過剰な摂取は、血中コレステロール値を上昇させ、心血管疾患のリスクを高める可能性があるとされている。そのため、適量の摂取が推奨されている。

研究の背景:カロリー制限では心血管イベントや死亡リスクが低下しない

2型糖尿病患者は、心血管イベントや死亡のリスクが高いことが広く認識されている。糖尿病治療においては、これらのリスクを軽減するために、食事、運動、睡眠、そして生活リズムの改善が重要。しかし、これまでの研究では、脂肪摂取量を減少させることを主としたエネルギー制限食などの生活習慣への介入では、2型糖尿病患者心血管イベントや死亡リスクの低下には結びつかないことが示されている。このことから、単に食事量を制限するのではなく、食事の質や食事以外の生活習慣も考慮することが重要であると考えられる。

「糖尿病治療ガイドライン」(2024年版日本糖尿病学会)では、2型糖尿病患者に対して、初期設定としてエネルギー摂取量の40〜60%を炭水化物から摂取することを提案しているが、適切な栄養素の割合については依然として明確でない。さらに、2024年版の日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインやアメリカ糖尿病学会のガイドラインは、総炭水化物摂取量を減らすことが血糖管理の改善に寄与する可能性を示唆している。しかし、炭水化物摂取割合が心血管イベントや死亡リスクに与える影響や、炭水化物摂取量を減らした場合にタンパク質や脂質を増やすことがどのような影響を及ぼすのか、さらに動物由来と植物由来のタンパク質や脂質では影響が異なるのかについては、依然として不明な点が多い。

そこで研究グループでは、2型糖尿病患者を対象に、食事の栄養素を含むさまざまな生活習慣と心血管イベントや死亡リスクとの関連性を検討した。

研究の内容:低炭水化物で適度な動物性タンパク質・脂質摂取がリスクの低さと関連

本研究では、順天堂医院などに通院中で心血管イベントの既往がない2型糖尿病患者731名を対象に、試験開始時、2年後、5年後に食事、身体活動量、睡眠時間、睡眠の質、生活のリズムなど、さまざまな生活習慣を質問紙により評価し、心血管イベント発症日や死亡日または追跡終了日までの各生活習慣スコアの平均値を算出した。食事評価には、日本人の食習慣を反映させるために設計された簡易型自己記入式食事歴質問票(Brief-type Self-administered Diet History Questionnaire;BDHQ)を使用し、摂取エネルギーや主要栄養素の摂取量を推定した。

炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素は密接に関連しており、例えば炭水化物摂取量が多いと、タンパク質や脂質の摂取量が少なくなる傾向がある。そのため、各栄養素単独での摂取量を検討するのではなく、これら三つの栄養素のバランスを考慮することが重要。このため、炭水化物、タンパク質、脂質の摂取量に基づき、低炭水化物ダイエットスコアを算出した。炭水化物摂取量で11等分し、摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点、タンパク質と脂肪の摂取量でも同様に計算し、これらを合計して「総低炭水化物スコア」を算出した。このスコアが高いほど、炭水化物摂取が少なく、タンパク質や脂質摂取が多いことを示す。また、動物性食品と植物性食品に基づくスコアも別々に算出し、それぞれ「動物性低炭水化物スコア」※3と「植物性低炭水化物スコア」※4として評価した。

最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡し、各生活習慣と心血管イベントまたは死亡のリスクとの関連性を検討した。

※3 動物性低炭水化物スコア:炭水化物摂取量に基づき、動物由来のタンパク質や脂質の摂取量に重点を置いた低炭水化物ダイエットスコアの一種。このスコアは、食事からのエネルギー摂取割合において、炭水化物よりも動物性食品(肉、魚、乳製品など)から摂取する脂肪やタンパク質の割合が高い場合に高いスコアを付与するように設計されている。炭水化物摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点とし、動物性タンパク質あるいは脂肪の摂取量がそれぞれ最も少ないものを0点、最も多い摂取量を10点とした。合計30点満点でスコアが高いほど動物性タンパク質と脂肪の摂取量が多く、炭水化物の摂取量は少ないことを意味する。
※4 植物性低炭水化物スコア:炭水化物摂取量に基づき、植物由来のタンパク質や脂質の摂取量に重点を置いた低炭水化物ダイエットスコアの一種。このスコアは、食事からのエネルギー摂取割合において、炭水化物よりも植物性食品(豆類、全粒穀物、果物、野菜など)から摂取する脂肪やタンパク質の割合が高い場合に高いスコアを付与するように設計されている。炭水化物摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点とし、植物性タンパク質あるいは脂肪の摂取量がそれぞれ最も少ないものを0点、最も多い摂取量を10点とした。合計30点満点でスコアが高いほど植物性タンパク質と脂肪の摂取量が多く、炭水化物の摂取量は少ないことを意味する。

対象者の平均年齢は57.8±8.6歳、62.9%が男性で、BMIは24.6±4.1だった。平均追跡期間は7.5±2.4年で、その間、55人(7.5%)に心血管イベントまたは死亡というアウトカムが発生した。

分析の結果、年齢、性別、総エネルギー摂取量、動脈硬化のリスク因子を調整した後も、炭水化物摂取割合が高いほど主要アウトカムの発生リスクが高いことが示された。また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになった。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いと、リスクが低いという関係が認められた。

図1

明らかな心血管イベントの既往のない731名の2型糖尿病患者を対象とした観察研究において、炭水化物摂取割合が高いほど心血管イベントと死亡のリスクが高いことが示された。また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになった。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いとリスクが低いことも認められた。
(出典:順天堂大学)

これまでの一般人口を対象とした研究では、炭水化物摂取割合と死亡リスクとの関係に一貫性がなかったが、本研究では、2型糖尿病患者において、炭水化物摂取割合が多いほど主要アウトカムの発生リスクが増加することが示された。糖代謝異常を伴う2型糖尿病患者は、一般人口に比べて炭水化物摂取の影響を受けやすい可能性がある。とくに、日本人の主食である米の摂取量が多いと、主要アウトカムが増加する可能性が示唆された。

西洋諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと総死因および心血管イベントによる死亡リスクが高まる一方で、「植物性低炭水化物スコア」が高いとリスクが低下することが示されている。しかし、アジア諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと死亡リスクが低下することが報告されている。本研究でも、日本の2型糖尿病患者において「動物性低炭水化物スコア」が高いと主要アウトカムのリスクが低下することが確認された。この結果は、動物性タンパク質や脂質を増やし、炭水化物摂取量を減らすことが、主要アウトカムの発生リスクを低下させる可能性があることを示唆している。

なお、日本における動物由来のタンパク質源としては魚が主であり、本研究の対象者においても肉類の摂取量は比較的少なかった。肉類はタンパク質、ミネラル、ビタミンが豊富で、エネルギー源として優れており、適量の肉類摂取の有用性が動物性脂質摂取のリスクに優り、心血管リスク低減に寄与したと考えられる。したがって、過剰な動物性タンパク摂取を勧めるものではないと考えられる。

以上の結果から、日本人2型糖尿病患者においては、炭水化物の摂取割合が高いと心血管イベントや死亡リスクが増加し、逆に、炭水化物摂取量が少なく、動物性のタンパク質や脂質摂取量が多いことがリスク低下に関連していることがわかった。これらの結果は、2型糖尿病患者の心血管疾患予防において、食事に含まれる栄養素の調整が重要であることを示唆している。

今後の展開:低炭水化物とする介入によって予後を改善させ得るか?

本研究では、炭水化物摂取割合と心血管イベントや死亡リスクとの関連について明らかにした。しかし、今後は炭水化物摂取割合を減らすことで、どのようなメカニズムで心血管イベントが抑制されるのかを明らかにする必要がある。また、本研究では炭水化物摂取割合が約45%で予後に良い影響を与える可能性があることがわかったが、さらに厳格な糖質制限食が予後に与える影響についても検討することが今後の課題。さらに、食事の栄養素バランスを調整した介入研究を通じて、長期的に心血管イベントの発生リスクを低下させるかどうかを検討することが重要であると考えられる。

研究グループでは、「2型糖尿病の治療において、食事療法は最も重要な要素であり、今後の研究によって適切な栄養素の割合が明らかになることが望まれる。さらに、個々の健康状態、生活習慣、血糖値の管理目標に基づき、最適な栄養素の摂取バランスを調整した食事プランを提供する個別化されたアプローチによって、心血管イベントなどの合併症の発症や進展が抑制されることが期待される」としている。

関連情報

2型糖尿病を有する人の炭水化物摂取割合と予後の関連性が明らかに― 食事栄養素のバランスの重要性 ―(順天堂大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Relationship of carbohydrate intake proportion to cardiovascular events in Japanese people with type 2 diabetes mellitus」。〔J Clin Endocrinol Metab. 2025 Mar 21:dgaf179〕
原文はこちら(Oxford University Press)

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