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高齢者の筋トレによる潜在的な血管リスクを、入浴で抑制できる?

筋トレが高齢者の血管系の潜在的なリスクを高める可能性があり、入浴によってそのリスクが部分的に緩和されることを示唆するデータが中京大学大学院スポーツ科学研究科の渡邊航平教授の研究チーム(渡邊航平研究室)から報告された。同研究室の竹田良祐氏らを中心に、主に愛知県名古屋市、長久手市、豊田市在住の高齢者約200名を対象として行われた研究であり、「International Journal of Biometeorology」に論文が掲載された。

高齢者の筋トレによる潜在的な血管リスクを、入浴で抑制できる?

筋トレで血管に悪影響? 入浴がそれを抑制?

筋力トレーニングは、高齢者のサルコペニアや糖代謝異常などのリスク抑制のため、広く推奨されている。その一方、心血管系への有益性のエビデンスが豊富な有酸素運動とは異なり、筋トレはその強度や頻度次第で血圧上昇や動脈硬化の悪化という負の影響が生じ得ることを示唆する研究結果が複数報告されている。心血管リスクが高い状態にあることの多い高齢者では、この点への留意がより重要となる。

他方、入浴(湯船に浸かる入浴)の心血管リスク抑制作用に関して、多くのエビデンスが蓄積されてきている。では、高齢者での筋トレ効果を維持しつつ、筋トレで生じ得る負の側面を、入浴で抑制できないだろうか? 今回紹介する論文の研究は、このような疑問に基づき実施された。

解析対象者の特徴

この研究には、現喫煙者やBMI30超を除く196人の地域在住高齢者が参加。身体活動習慣を「国際標準化身体活動質問票(international physical activity questionnaire;IPAQ)」を用いて把握したほか、入浴習慣や服薬状況に関する調査、心血管の健康状態、筋力・筋肉の質などを評価した。本トピックに関する解析は、心血管系に作用する薬剤を服用している人(66人)、筋トレを行っていない人(96人)を除外して、34人(男性13人、女性21人)を対象とした。なお、環境(気温)による血圧等への影響を避けるため、これらの調査は秋季に実施された。

解析対象者の主な特徴は、年齢72.2±5.6歳、BMI20.8±2.8、血圧127.4±17.1/76.3±10.7mmHgであり、動脈の柔軟性の指標である上腕-足首脈波伝搬速度(brachial-ankle pulse wave velocity;baPWV)は1,656.6±319.7cm/秒で、筋力の指標として評価した最大等尺性膝関節伸展トルク(maximum voluntary contraction;MVC)は113.5±39.3Nmだった。筋トレ強度については、自己申告のトレーニング内容に基づき、米国スポーツ医学会のガイドラインの基準を用いて評価した結果、1.8±0.5任意単位(a.u.)だった。

入浴については1人を除いて全員が習慣的に行っており、頻度は5.5±2.2回/週、入浴時間は16.5±6.2分、湯船の温度は40.3±0.8℃だった。

筋トレのみを行っている高齢者では、負の影響がより明確

ふだんの筋トレ強度が高い高齢者は収縮期血圧が高い

まず、日常の筋トレ強度と筋量(筋肉の厚さ〈筋厚〉や四肢骨格筋量〈appendicular skeletal muscle mass;ASM〉)や筋力、筋肉の質、および心血管リスクとの関連を検討した。

全員が日常的に筋トレを行っているこの集団において、筋トレの強度は、筋厚、筋力(MVC)、筋肉の質(エコー強度)、ASMとの関連は有意でなく、かつ、動脈硬化の指標として評価したbaPWVとの関連は非有意だった(p値が最小で0.144)。

収縮期血圧(systolic blood pressure;SBP)との関連も、交絡因子未調整段階では正の関連の傾向が認められるにとどまった(r=0.344、p=0.063)。ただし、年齢、性別、入浴状況(頻度、時間、湯船の温度)などの交絡因子を調整する(これらの要因を除外する)と、筋トレの強度が強いほどSBPが高いという有意な関連が確認された(r=0.409、p=0.034)。

つまり、高強度の筋トレが高齢者の心血管リスクとなり得ることが示唆された。

筋トレと並行して有酸素運動を行っている高齢者では関連が非有意

次に、筋トレだけでなく、有酸素運動も行っている高齢者15人(71.4±4.7歳、男性8人。全員が習慣的に入浴)を対象として同様の解析を行った。

その結果、筋トレの強度は、前記の各パラメータとの有意な関連がなく、交絡因子調整後にbaPWVとの有意水準未満の負の関連(筋トレ強度が強いほど血管の柔軟性が良好な傾向)がみられるにとどまった(p値が最小でp=0.06)。

筋トレのみ群では心血管リスクとの関連がより強く、入浴習慣が部分的に緩和

続いて、運動は筋トレのみを行っている高齢者19人(73.1±6.3歳、男性5人。1人のみ習慣的には入浴していない高齢者)を対象として同様の解析を行った。

その結果、筋トレの強度は、筋厚と正相関し、筋エコー強度との関連は非有意だった。この結果は、年齢や性別、入浴状況を調整した後にも変わらなかった。

一方、年齢と性別を調整後、baPWV(r=0.541、p=0.037)、およびSBP(r=0.681、p=0.005)は筋トレ強度と正相関し、とくにSBPについては入浴状況を調整後には、より強い相関が認められた(r=0.744、p=0.006)。つまり、筋トレの強度が高いほど心血管への負の影響が強く現れていて、入浴がその影響を部分的に緩和していることが示唆された。

他方、筋トレ強度とMVCとの関連は、わずかに非有意だが正相関の傾向を示し(年齢と性別を調整後にr=0.524、p=0.054)、この相関は入浴状況を調整後にも変わらなかった(r=0.524、p=0.098)。よって、入浴は筋トレの主効果である筋力には負の影響を及ぼさず、心血管リスクを緩和すると考えられた。

より安全で効果的な入浴方法の確立に期待

これら一連の結果を基に著者らは、「習慣的に筋トレを行っている高齢者では、筋トレ強度が高いと心血管系に悪影響が生じることが示唆され、それに対して習慣的な入浴が、筋トレ効果を損なうことなく、悪影響の一部を抑制すると考えられる」と総括している。

一方、研究対象のほぼ全員(1人以外)に入浴習慣があったために比較対照群を置いていないこと、横断研究であること、運動強度を自己申告に基づき判定していること、残余交絡の存在の可能性などを限界点として挙げ、さらなる研究の必要性を指摘。とくに、血管イベントの起こりやすい冬季の安全な入浴方法の確立が求められるとしている。

なお、高齢者において筋トレが心血管に負の影響を及ぼし得るメカニズムとしては、先行研究の知見を基に、運動負荷に応じた交感神経系の亢進、血圧上昇を介した血管内皮機能の低下などが考えられるとし、入浴には交感神経活性抑制および内皮機能改善作用が報告されているという。

文献情報

原題のタイトルは、「Impact of higher resistance exercise and bathing habits on cardiovascular risks in older adults」。〔Int J Biometeorol. 2025 Mar 11〕
原文はこちら(Springer Nature)

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