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オメガ3脂肪酸が筋肉・持久力・認知機能に与える影響とは? 国際スポーツ栄養学会(ISSN)が見解を公表

国際スポーツ栄養学会(International Society of Sports Nutrition;ISSN)はこのほど、長鎖オメガ3多価不飽和脂肪酸(ω-3 polyunsaturated fatty acid;ω-3 PUFA)に関する見解(position stand)をまとめ、同学会発行の「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に発表した。

オメガ3脂肪酸が筋肉・持久力・認知機能に与える影響とは? 国際スポーツ栄養学会(ISSN)が見解を公表

ISSNによるω-3 PUFAに関する10項目の見解

国際スポーツ栄養学会(ISSN)のポジションスタンドは、ISSNの編集者と評議会が、読者の関心を引くトピックを特定してそのトピックに関するエキスパートに執筆を依頼する招待論文であり、執筆された草稿はレビューと修正が加えられたうえでISSNの公式見解として承認される。

今回発表されたポジションスタンドは、アスリートのω-3 PUFA欠乏リスク、健康への影響、筋肉痛や頭部への打撃に対する保護効果、睡眠への影響などについて、10項目が総括されている。論文の本文の一部をピックアップして紹介したうえで、論文の最後にまとめられている10項目のポジションスタンドを示す。

イントロダクション

PUFAは主に、ω-3とω-6に分類される。注目すべき短鎖ω-3 PUFAとして、α-リノレン酸とステアリドン酸、長鎖ω-3PUFAとして、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;EPA)とドコサペンタエン酸(docosapentaenoic acid;DPA)、ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid;DHA)が含まれる。炎症促進性や血栓促進性を示すω-6 PUFAに対して、ω-3 PUFAは抗炎症性、抗不整脈性、抗血栓性である。ω-3 PUFAの摂取は、心臓血管系、網膜、筋骨格系、脳血管系に対する保護効果を発揮し、神経疾患や病状に良い影響を与える可能性がある。

スポーツ領域でのω-3 PUFAサプリメントのメリットとしては、酸素消費量の減少、免疫システムのサポート、回復の促進、同化作用の向上などが挙げられる。また、消化器系の健康、認知機能、睡眠の質に好ましい影響を与え、アスリートの外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)に対する保護効果をもたらすことも示唆されている。

アスリートは、一般的にω-3 PUFA不足のリスクがある。例えば、全米大学体育協会(NCAA)ディビジョンIのフットボール選手404人を対象に行われた研究では、ω-3指数(O3i)が8%を超える選手は1人もいなかった。参加者の平均O3iは4.4±0.8%であり、これは後年の心血管疾患リスクが高くなる可能性を示している。

ω-3 PUFAの供給源として、日本やスカンジナビア諸国のような魚を多く摂取する国以外では、魚油サプリメントが最も一般的である。魚油サプリは、無作為化比較試験(RCT)とそのレビューやメタ解析により、心臓保護、抗血栓、抗炎症、神経保護に関するメリットがエビデンスとして示されている。

回復と筋肉痛

多くの研究が、運動誘発性筋損傷(exercise-induced muscle damage;EIMD)や遅発性筋肉痛(delayed-onset muscle soreness;DOMS)、パフォーマンス指標(筋力またはパワー)、関節可動域、筋損傷マーカー(クレアチンキナーゼ〈creatine kinase;CK〉、乳酸脱水素酵素〈lactate dehydrogenase;LDH〉)、および炎症マーカー(C反応性蛋白〈C-reactive protein;CRP〉、インターロイキン-6〈interleukin-6;IL-6〉、腫瘍壊死因子-α〈tumor necrosis factor-alpha;TNF-α〉)に対するEPAやDHA摂取の影響を評価している。

総合的にみて、ω-3 PUFAはDOMSを軽減する可能性があることを示唆している。一方、EIMD後の骨格筋のパワーやパフォーマンスに対する影響のエビデンスは、それほど堅牢ではない。CKやLDHに対する影響も一貫性が不十分なようである。

認知機能やメンタルヘルス

脳の成分の半分以上は脂質で、その脂質の約3分の1はω-3 PUFAである。ω-3 PUFAは細胞膜のリン脂質二重層で重要な役割を果たし、神経伝達物質の調節にも影響を与える。

ω-3 PUFAの少ない食事はセロトニンとドーパミンのレベルの低下と関連している。ω-3 PUFAは血液脳関門を通過するため、脳の血液循環に影響を与える可能性があることも当然と言える。脳血流の増加により脳への酸素と栄養素の供給が増加し、認知機能と精神的健康に影響を与える可能性があると、一般的に理解されている。ただし、ω-3 PUFAの認知機能への影響に関する研究の大半は、神経変性疾患患者や高齢者を対象としており、健康なアスリートを対象にした研究は限られている。

外傷性脳損傷

動物モデルでの複数の研究では、ω-3 PUFAを豊富に含む食事が外傷性脳損傷(TBI)関連の認知機能的転帰および神経生理学的転帰を改善することが示されている。そのメカニズムは、ω-3 PUFAが抗酸化物質として機能し、TBIによって誘発される活性酸素種(reactive oxygen species;ROS)を減弱させると考えられている。また、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)のアップレギュレーションも想定されている。

米国のアメリカンフットボール選手を対象に、ω-3 PUFAサプリの予防的使用について3件の研究が行われており、結果をまとめると、DHAはプラセボと比較して、軸索損傷のマーカーである血清ニューロフィラメントライトの上昇を緩和した。より大規模なRCTを早急に実施する必要がある。

10項目のポジションスタンド

  1. アスリートはω-3 PUFA欠乏症のリスクが高い可能性がある。
  2. サプリメントを含むω-3 PUFAが豊富な食品は、ω-3 PUFAレベルを高めるための効果的な戦略である。
  3. ω-3 PUFAサプリメント、とくにエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)は、有酸素運動中の持久力と心血管機能を高めることが示されている。
  4. ω-3 PUFAサプリメントは、若年成人の筋肥大には効果をもたらさない可能性がある。
  5. ω-3 PUFAサプリメント摂取をレジスタンストレーニングと組み合わせると、用量と期間に依存して筋力が向上する可能性がある。
  6. ω-3 PUFAサプリメントは、激しい運動後の筋肉痛の主観的な測定値を減少させる可能性がある。
  7. ω-3 PUFAサプリメントは、運動選手のさまざまな免疫細胞反応に良い影響を与える可能性がある。
  8. 頭部への繰り返しの衝撃を受けるアスリートにおける、予防的なω-3 PUFA摂取は、神経保護効果をもたらす可能性がある。
  9. ω-3 PUFAサプリメントは、睡眠の質の改善に関連している。
  10. ω-3 PUFAはプレバイオティクスに分類されるが、アスリートの腸内細菌叢と腸の健康に関する研究は、現時点では不足している。

文献情報

原題のタイトルは、「International Society of Sports Nutrition Position Stand: Long-Chain Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2441775〕
原文はこちら(Informa UK)

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