貧血の有無で十代アスリートの体力を予測 持久力や筋力をヘモグロビン値で説明可能
若年アスリートの体力は貧血によって、かなりの程度が左右されるとする研究結果が、ガーナから報告された。持久力や筋力をヘモグロビンレベルで予測可能だという。
アスリートの貧血問題
貧血は世界的な公衆衛生上の課題であり、とくに本研究が実施されたガーナのような開発途上国では、未成年の貧血が大きな懸念となっていると著者らは述べている。ただし、日本を含む先進国でも、若年アスリートでは鉄欠乏または貧血の潜在的リスクが決して低くないことが報告されている。
アスリートは一般に健康な集団と考えられがちだが、貧血に関してはそうともいえない。その理由として、激しいトレーニングによる鉄需要の増大、発汗に伴う鉄の喪失、反復される微小な衝撃による溶血の亢進(行軍貧血)、トレーニング疲れによる食事由来の鉄摂取量の減少などが挙げられる。
アスリートの鉄欠乏や貧血は、易疲労傾向とそれによるトレーニングの質の低下、回復の遅延などを来して、それらの結果としてアスリートとしての成長が阻害される。より具体的には、持久力や筋力の低下につながる可能性が懸念される。
このような背景のもと、今回紹介する論文の著者らは、ガーナ国内の若年アスリートを対象として、貧血の有病率を調査するとともに、ヘモグロビン値の低さがアスリートとしてのパフォーマンス指標に関連しているか否かを検討した。
貧血があると体力が低く、ヘモグロビン値は持久力と握力に関連
研究の対象は、ガーナのサッカー、陸上競技、ボクシングのクラブやチームから募集された、10~19歳の若年アスリート194人。全体の平均年齢は15.8±2.5歳で、解析に際しては以下の三つの年齢層での比較が行われた。思春期前期(10~13歳、平均12.8±1.1歳)、思春期中期(14~16歳、平均15.8±0.9歳)、思春期後期(17~19歳、平均18.7±0.6歳)。
貧血の有無は、世界保健機関(WHO)の基準に基づき、15歳未満はヘモグロビン(Hb)12.0g/dL未満、15歳以上は男子13.0g/dL未満、女子12.0g/dL未満で判定した。評価した体力関連指標は、心肺持久力(VO2max)、筋力(握力)、柔軟性(座位体前屈)、および反応時間(落下し始めた定規をできるだけ早く指でつまむテストで評価)。
思春期アスリートの貧血有病率は14.3%
思春期アスリートのヘモグロビン(Hb)値は平均13.6±1.5g/dLで、貧血有病率は14.3%だった。
これを性別に見た場合、Hbは男子が13.6±1.5g/dL、女子は12.5±1.2g/dLであり、男子のほうが有意に高かった(p=0.049)。ただし、貧血有病率に関しては、男子・女子ともに14.3%であった。
年齢層別にみた場合のHbと貧血有病率は、思春期前期が12.8±1.1g/dL、20.7%、思春期中期が13.4±1.3g/dL、15.8%、思春期後期は14.1±1.6g/dL、8.9%であり、年齢が上がるほどHbが高くなり、貧血有病率は低下していた。
貧血の有無でVO2maxに有意差があり、握力も非有意ながら貧血あり群で低い
次に、体力関連指標の評価結果を貧血の有無別にみると、以下のように、VO2maxに有意差が認められ、握力についても有意水準には至らないものの、貧血群で低い傾向が認められた。VO2maxは、貧血群が37.1±13.9mL/kg/分、非貧血群が43.4±7.2mL/kg/分(p=0.042)、握力は右手が同順に26.7±7.3kg、31.7±9.1kg(p=0.067)であり、左手もほぼ同じレベルでp値は0.067だった。
一方、貧血の有無で、柔軟性(p=0.628)や反応時間(p=0.137)との有意差はみられなかった。
ヘモグロビンレベルでVO2maxと握力を予測可能
続いて、Hbと体力関連指標との関連を、二変量回帰分析で検討。すると、HbはVO2maxと有意な正の関連があり、VO2maxの分散の10.5%をHbレベルで説明できることがわかった(β=0.623、R2=0.105、p=0.005)。また、Hbは握力の絶対値とも有意な関連があり、握力の分散の19.6%(右手の場合)をHbレベルで説明できることがわかった(β=2.697、R2=0.196、p=0.005。左手もほぼ同様)。握力を体重で調整した相対握力もHbと有意な関連があり、Hbで分散の14.3%が説明された(β=0.087、R2=0.143、p=0.001)。
一方、Hbレベルは、柔軟性(p=0.530)や反応時間(p=0.249)との有意な関連はみられなかった。
著者らは、「ヘモグロビンレベルは、思春期のアスリートの心肺持久力と筋力を予測すると考えられる。思春期のアスリートが競争力を高め、栄冠を勝ち取ろうとする場合、貧血に注意を払う必要がある」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Anemia Predicts Physical Fitness Among Adolescent Athletes in Ghana」。〔Health Sci Rep. 2024 Dec 9;7(12):e70243〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)