パラアスリートのオーバートレーニング症候群と疲労骨折など骨ストレス障害の関連についてのエビデンス
今回はパラアスリートのオーバートレーニング症候群を、疲労骨折などの骨ストレス障害との関連性から総括したレビュー論文を取り上げる。クロアチアの研究者によるもので、身体的要因、心理的要因、環境要因などの幅広い視点で、このテーマに関する現在のエビデンスが整理されている。栄養との関連について述べられている部分を中心に要旨を紹介する。
イントロダクション:パラアスリートのOTSとBSI
パフォーマンス向上を意図して行われるトレーニングの結果として生じるオーバートレーニング症候群(overtraining syndrome;OTS)と、それに伴う疲労骨折などの骨ストレス障害(bone stress injury;BSI)は、パフォーマンス低下や選手生命の短縮という当初の意図とは正反対の結果をもたらしかねず、アスリートにとって大きな懸念材料といえる。OTSの有病率は若年アスリートでは30%に上り、スポーツ傷害の10~20%は疲労骨折が占めるというデータもある。
このような問題は健常アスリートだけでなく、パラアスリートも直面していると考えられる。それのみならず、本論文の著者は、パラアスリートは障害というハンデの克服のために健常アスリートと比較して、よりOTSのリスクが高い可能性もあると述べている。
このような背景から、著者らはパラアスリートのOTSとBSIの関連について文献レビューによる総括を行った。PubMed、Web of Science、Google Scholarを用い、「オーバートレーニング症候群」、「骨」、「パラアスリート」というキーワードを含む文献を検索。ヒットした37件の論文から、過去20年以内(2003~23年)に発表され、全文が公開されている英語論文、28件を解析対象とした。
OTSとBSIのリスク因子
年齢は、アスリートのオーバートレーニング症候群(OTS)発症リスクに影響を与える可能性のある変更不能な因子として特定されている。若いアスリートはトレーニングの強度が高く、回復に充てる期間が不十分なため、OTSに至りやすい傾向がある。
性別も、OTSリスクに影響を与えると考えられるもう一つの重要な変更不能な因子であり、女性は男性に比べてリスクが高いことがわかっている。月経周期に伴うホルモン変動は、女性のOTS脆弱性に寄与している可能性がある。
過去の怪我の既往もOTSの潜在的なリスク因子であることが示唆されている。怪我の既往があるアスリートは、動作パターンの変化や不均衡が生じ、オーバーリーチやオーバートレーニングにつながる可能性が指摘されている。
炎症性サイトカイン
近年、アスリートのOTSおよびBSIの発生と炎症マーカーとの関連に関心が集まっている。炎症という現象自体は組織修復プロセスで重要な役割を果たしているが、過度または長期の炎症は組織損傷の一因となり得、インターロイキン-6(interleukin-6;IL-6)、腫瘍壊死因子アルファ(tumor necrosis factor-alpha;TNF-α)などの炎症性サイトカインやC反応性タンパク質(C-reactive protein;CRP)が、OTSに関与している可能性があることが強調されている。より具体的には、これらのマーカーのレベルの上昇が、OTSのアスリートによくみられる疲労、筋肉損傷、免疫機能障害の発症に寄与している可能性があるという。
遺伝的素因
遺伝的素因も、OTSやBSIリスクに関連しているだろう。疲労耐性、筋損傷マーカー、炎症反応など、OTSリスクと関連のある指標といくつかの遺伝子変異が研究されている。例えば、コラーゲン合成に関連する遺伝子多型を、OTSやBSIの文脈で解釈した報告がみられる。ただしOTSのリスクに寄与する特定の遺伝的素因はまだ十分に理解されていない。
栄養の不足とエネルギー供給
栄養の不足や栄養バランスの乱れは、OTSとBSI双方のリスクに重大な影響を及ぼす可能性がある。とくにエネルギー可用性の低い状態(low energy availability;LEA)が重大なリスク因子として注目されている。
LEAは、アスリートのエネルギー摂取がトレーニングおよび通常の生理機能のための需要を満たさない場合に発生し、ホルモン分泌、免疫機能、骨代謝など、さまざまな身体機能に悪影響を及ぼす。LEAと骨の健康との関係は、広範な研究が行われてきている。LEAは女性アスリートの月経不順や男性アスリートのテストステロンレベルの低下につながるとされ、これらのホルモンの変化は骨の健康に有害な影響を及ぼし得る。
LEAの状態にある女子大学長距離ランナーは、エネルギー出納が保たれているランナーと比較して、腰椎の骨密度が有意に低いことが報告されている。さらにLEAは骨芽細胞と破骨細胞の両方の活性に影響を与え、骨のリモデリングプロセスを変化させる可能性がある。例えば、インスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1;IGF-1)、エストロゲン、レプチンシグナル、および機械的負荷への応答の変化を通じて、骨芽細胞機能の低下を来し得る。また、LEAによるエストロゲンレベルの低下は破骨細胞の活性を高め、過剰な骨吸収につながる。
心理社会的要因
心理的ストレスが、OTSの発症と進行に大きく寄与する因子であることが明らかにされている。パラアスリートにおいてストレスは、トレーニング要求、競技のプレッシャー、私生活のストレス、完璧主義傾向など、さまざまな因子から発生し得る。一方で、高レベルの心理的ストレスを経験するアスリートのすべてが一様にOTSを発症するわけではないことにも、留意する必要があるだろう。この事実は、OTSに対する感受性の個人差が重要な役割を果たしていることを示唆している。アスリートの心理的ストレスとOTSの関連をより深く理解するために、複雑系現象として捉える試みもなされている。
OTSとBSIの予防・管理戦略
アスリートのオーバートレーニング症候群(OTS)を防ぐために必要なアプローチの一つは、トレーニングのピリオダイゼーションである。ピリオダイゼーションは、トレーニング量と強度を計画的に変化させることで、パフォーマンスを最適化しながらOTSのリスクを最小限に抑えることに利用できる。
ピリオダイゼーションに加えて、シーズン前のトレーニング中にバイオマーカーをモニタリングすることも、OTSの兆候を検出するのに役立つだろう。有用性が報告されているバイオマーカーとして、血小板、好中球数、単球数、カルシウム、クレアチニン、アルカリホスファターゼ、C反応性タンパク質、コルチゾール、およびテストステロンなどが挙げられる。
さらに、栄養介入がOTSと骨ストレス障害(BSI)からの回復促進の双方において重要な役割を果たす。十分なエネルギー摂取は、激しいトレーニングによるエネルギー需要を満たすために重要であり、エネルギーの可用性が低いとREDs(relative energy deficiency in sport)につながる可能性があり、REDsに適切に対処しない場合、深刻な健康上の問題を引き起こす。
トレーニングにより生じる要求を満たし、回復プロセスを促進するには、主要栄養素(炭水化物、タンパク質、脂肪)と微量栄養素(ビタミン、ミネラル)を適切に摂取することが重要であり、アスリートは活動レベルに則した栄養ニーズを満たすために、スポーツ栄養の専門家と協力する必要があるだろう。
文献情報
原題のタイトルは、「Overtraining Syndrome as a Risk Factor for Bone Stress Injuries among Paralympic Athletes」。〔Medicina (Kaunas). 2023 Dec 27;60(1):52〕
原文はこちら(MDPI)