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7週間のランニングで脳の海馬の体積が変化し抑うつ症状が軽減する可能性

2025年01月22日

中等強度のランニングによって、脳の海馬の体積が変化するというデータが報告された。海馬は記憶や感情の調節にかかわる脳領域であり、本研究ではランニング介入後に抑うつレベルの低下も観察されたという。

7週間のランニングで脳の海馬の体積が変化し抑うつ症状が軽減する可能性

運動による抑うつの改善と海馬体積の関係性

スポーツを含む身体活動が身体的健康やメンタルヘルスによいことは広く知られている。また運動が加齢に伴う認知機能低下を抑制することに関しても多くのエビデンスが蓄積されてきている。

これらの影響のうち、身体への影響のメカニズムは、代謝や血流の改善や筋量の増加、体脂肪減少などを介するものとして説明でき、実際にそれを裏付ける多くの研究報告がある。それに対してメンタルヘルスへの影響のメカニズムは不明点が少なくないものの、うつ病では脳内の海馬の体積の減少が観察されること、運動は海馬の体積に影響を及ぼす可能性があることなどが報告されている。こういった知見から、運動は海馬体積に対して保護的に作用し、それによって抑うつレベルが改善されるという一つのメカニズムの存在が想定される。

以上を背景として本研究の著者らは、運動介入による持久力の向上と海馬体積、および抑うつレベルの変化との相互の関連性を検討した。オーストリアからの報告。

習慣的に適度な運動をしている若年男性に7週間のランニング介入

この研究の参加者は、ソーシャルメディア(Facebook、Instagram、YouTube)や、研究者の所属大学(グラーツ大学)内のメーリングリスト、ポスター、チラシなどで募集され、おもに大学生54人が登録された。世界保健機関(WHO)が推奨している身体活動量(週あたり150分の中強度運動)の範囲内の運動やスポーツを行っていること、および男性であること(追加解析を容易にするため)を条件として、22人が参加。うち1人は研究期間中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患のため脱落し、解析対象は21人(24.50±3.49歳〈範囲20~31〉、男性100%、BMI24.61±3.18)となった。

研究デザインは単群での前後比較試験で、介入は6週間のランニングとした。ただし、COVID-19パンデミックへの対応のために介入期間が1週間伸び、7週間となった。

介入方法と評価指標について

介入期間中、研究参加者は地元の郊外に設けられたコース(距離5km、高低差約100m)でランニングを行った。ランニング中は脈拍モニタリングを行い、事前に評価されたVO2maxの80%に相当する心拍数を維持することとした。介入期間中の走行回数は約16回だった。なお、ランニングを行う時間帯は、条件の標準化のため、できるだけ正午から夕方までとされた。

研究参加登録時(T1)、VO2max評価などのための2週間のベースライン期間が終了した介入開始直前(T2)、介入の前半(3週間)が経過した時点(T3)、および介入終了時点(T4)に、抑うつレベル(Center for Epidemiological Studies Depression;CES-D)、VO2max、およびMRIにより脳体積の評価を行った。

なお、CES-Dは1~60点の間で抑うつレベルを評価する指標で、スコアが高いほど抑うつが強いと判定する。MRIでは主に記憶や感情の調節にかかわる脳領域である海馬に焦点を当て、海馬の頭部、体部、尾部の体積を計測した。

VO2maxが大きく上昇するほど抑うつレベルが大きく低下

では結果だが、まず抑うつレベル(CES-D)の変化をみると、運動介入によりCES-Dスコアが経時的に低下し、抑うつレベルが軽くなっていた。例えば、T1は13.48±1.72点であったものが、T4は10.48±1.77点であり有意にスコアが低下していた(p=018、効果量〈d〉=0.56)。またT2(12.76±1.37点)からT4の間でも、有意なスコア低下が観察された(p=0.040、d=0.48)。

次に、VO2maxに着目すると、介入前(T2)が42.07±1.74mL/kg/分であったものが、介入後(T4)は46.07±1.53mL/kg/分へと有意に上昇していた。またこのVO2maxの上昇は、上記のCES-Dスコアの低下と、有意な負の相関関係が認められた(r=-0.541、p=0.011)。

海馬体積は尾部で有意な変化を観察

最後に海馬体積については、頭部と体部では有意な変化が認められなかったが、尾部では以下のように有意な変化が観察された。

左海馬尾部の体積(mm3)は、T1からT4の順に、620.29±13.51、613.41±13.74、620.55±14.26、619.36±13.62であり、T1からT2(ベースラインの2週間で運動介入を行っていない期間)では有意に減少し、介入開始後のT2からT3、およびT2からT4にかけては有意に増加していた。

右海馬尾部の体積は同順に、629.53±18.43、629.77±17.63、638.17±19.21、627.73±16.73であって、ベースライン期間のT1からT2にかけては有意な変化がなく、介入開始後のT2からT3にかけて有意に増加し、介入後半のT3からT4にかけて有意に減少していた。

つまり、左海馬尾部と右海馬尾部の双方が、最初の運動介入サイクルの後に体積が有意に増加しており、2回目の介入サイクル後にも左海馬尾部は増大した状態が保たれていて、右海馬尾部は減少していた。この結果を著者らは、海馬尾部の体積がうつ病の発症と寛解に関連しているとする先行研究と一致しているとしつつ、このトピックに関する今後の研究では海馬全体の体積ではなく、海馬の部位別に体積を詳細に評価する必要があるとしている。

なお、論文中に記されているリミテーションには、介入第二段階では、研究スタッフがCOVID-19のために評価タイミングに遅延が生じていたことが記されており、研究参加者は研究機関の終了時期が不確かになったことで精神的ストレスが生じていた可能性があるとしている。

結論は、「7週間にわたるランニング介入は、抑うつ症状の軽減と関連していた。海馬の体積の変化は非常に特異的で、特定の部位に限られた変化が生じるようであり、今後の研究が求められる」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Changes in hippocampal volume and affective functioning after a moderate intensity running intervention」。〔Brain Struct Funct. 2024 Dec 13;230(1):2〕
原文はこちら(Springer Nature)

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