イングランドプレミアリーグ所属選手の試合前と試合中における炭水化物、水分、カフェイン摂取量の実態
イングランドのプロサッカーリーグ、プレミアリーグの現役選手が試合に臨む前、および試合中に摂取する、炭水化物、水分、カフェインを調査した結果が報告された。選手の多くが欧州サッカー連盟(UEFA)の推奨する炭水化物摂取量を満たしていないことなどが明かにされている。またその理由として、選手は炭水化物を固形の食品ではなく液体ベースの製品から摂取しているためではないかといった考察が加えられている。
サッカーの進化とともに選手への身体的要求・栄養要件がより厳しくなっている
プロのサッカー選手は1試合で10~13kmを走行し、その多くは低~中速(19.8km/時以下)が占めるものの、走行距離の約8%は高速走行(19.8km/時)が占める。また、近年のサッカーの進化により選手にはより高度のテクニックと身体的負荷のかかるプレーが求められるようになってきており、このような流れは今後もさらに続くと予測されている。
このような変化とともに、サッカーの試合中の中枢神経系および骨格筋のエネルギー需要は以前に増して増大していると考えられ、試合後半や延長戦でのグリコーゲン枯渇によるパフォーマンス低下が発生しやすくなる。現在、欧州サッカー連盟(UEFA)は、選手に対して30~60g/時の炭水化物摂取を推奨している。
また、プロサッカー選手が試合出場に際して摂取すべきは炭水化物だけでなく、水分やカフェインも重要とされる。これまでのところ、エリートレベルサッカー選手の試合中の栄養素摂取量を調査した研究は少なく、わずかにみられる報告も、サンプル数が10人未満の小規模な研究であり、また一つの栄養素のみが調査されていた。これに対して今回報告された研究では、UEFAのチャンピオンリーグに出場している22人のエリート選手の炭水化物、水分、カフェインの摂取量が同時に調査されている。
プレミアリーグの男子エリート選手22人を2試合にわたり調査
この研究は、書面での研究参加への同意を得られた、プレミアリーグでプレーしているエリートレベルの男子サッカー選手22人(27±4歳、182.9±9.2cm、81.1±8.5kg)。欧州出身が19人、南米出身が3人であり、全員が欧州リーグで最低3シーズン以上の競技歴を有していた。データは2試合から取得され、いずれも午前11時にスタートした。気象条件は気温27~31°C、風速4miles per hour(約6.4km/時)、湿度45~58%で、雲量は少なかった。
各選手の炭水化物、水分、カフェイン摂取量のモニタリングは、ウォームアップ前、ウォームアップ中、キックオフ前、前半の試合中、ハーフタイム中、後半の試合中に評価された。評価には2名の研究者立ち合い、各選手の行動を観察し、選手が摂取し終わった後の容器を計量して摂取量を算出した。炭水化物と水分については、電解質のみの液体、6%炭水化物溶液、半固形ジェルが、通常の試合と同じように提供されていた。このほかに、試合後にスポーツ栄養士が選手へ個別にインタビューし、選手自身が摂取したと考えている主観的な摂取量を記録し、客観的な評価との差異を検討した。
試合中は、携帯型心拍数モニターとGPSユニットを使用して、走行距離、走行速度などを評価した。おもな結果は、平均心拍数が159±7bpmで、最大心拍数に対して84±3%であり、試合時間の10±11%は最大心拍数の95%の負荷が生じていた。試合中の最高速度は平均30.1±2.1km/時、総走行距離は1万35±796m、高速走行距離は646±277m、スプリント走行距離は174±109m。
炭水化物摂取量:平均は17g/時と少ない
ウォーミングアップから試合終了までの140分間での炭水化物摂取量は平均40±27gで、1時間あたり17±11g/時だった。
液体からの炭水化物は総炭水化物摂取量の59%を占め、半固形ジェルが28%、固形が13%だった。炭水化物摂取量の時間的な分布は、ウォームアップ中が2%、キックオフ直前が22%、試合前半が9%、ハーフタイム中42%、試合後半25%だった。
水分摂取量:試合後に体重が2kg減少
試合中の水分摂取量は平均1.06±0.33Lで、1時間あたり0.45±0.14L/時だった。水分摂取量の時間的な分布は、ウォームアップ中が8%、キックオフ直前が19%、試合前半が22%、ハーフタイム中30%、試合後半21%だった。
摂取された全水分のうち、54%は水であり、40%は炭水化物の水溶液、6%は電解質の水溶液だった。なお、体重はキックオフ直前から試合後にかけて2.0±1.1%減少していた。
カフェイン摂取量:利用者の平均摂取量は2.8mg/kg
選手の55%がカフェインを摂取したと報告し、平均摂取量は233±148mg(2.8±1.1mg/kg)だった。カフェイン摂取量の時間的な分布は、ウォームアップ前が136±56mg、キックオフ直前117±41mg、ハーフタイム中120±45mgだった。
ウォームアップ前に摂取されたカフェインは、カプセルが42%、カフェインを含む液体が30%、カフェインガムが28%であり、キックオフ直前とハーフタイム中に摂取されたカフェインはすべてガムだった。
主観的摂取量と客観的な評価結果との差:炭水化物摂取量の自己評価は過大
選手自身が予測した炭水化物摂取量は59±25gであり、これは前述の実際の摂取量である40±27gより有意に高値だった(p<0.001)。水分摂取量(主観的評価1.25±0.43 vs 客観的評価1.06±0.33L〈p=0.084〉)やカフェイン摂取量(240±103 vs 233±94mg〈p=0.86〉)は、有意差がなく正しく見積もられていた。
著者らは現在の炭水化物摂取量の推奨に対する疑問も指摘
これらの結果を総括し論文の結論は以下のように述べられている。
プレミアリーグのチームに所属するエリートサッカー選手は、試合中を通して明らかに炭水化物の摂取量が不足している。ただし、サッカーのパフォーマンスと炭水化物摂取量との用量反応関係を示したデータがないことから、UEFAガイドライン推奨が適切なのかという疑問も生じる。今後の研究では、本研究で示されたような炭水化物摂取量の少なさが、アスリートのさまざまな状況下で実際に不適切なのか否か、不適切であるならばその理由を明確にする必要がある。栄養学の分野では膨大な研究が行われてきているが、アスリートが必ずしも推奨事項を満たしているわけではないことも明らかであり、必要とされるなら行動変容を引き起こすための介入方法を設計しなければならない」。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutritional habits of professional team sport athletes: An insight into the carbohydrate, fluid, and caffeine habits of English Premier League football players during match play」。〔J Sports Sci. 2024 Sep;42(17):1589-1596〕
原文はこちら(Informa UK)