ボストンマラソン参加者の利用可能エネルギー不足(LEA)はレース成績や医療需要の発生と関連
2022年のボストンマラソン参加者を対象とする解析の結果、利用可能エネルギー不足(LEA)に該当する選手はレース成績が不良で、イベント中に医療を受けた回数が多かったことが明らかになった。論文の著者らは、大規模な持久系競技イベントの参加者に対して、LEAのスクリーニングをする必要性に言及している。
ボストンマラソンの参加者を対象とする大規模な研究
持久系スポーツのアスリートは、利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)やスポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;REDs)の頻度が高いことが知られている。これには、消費エネルギー量が大きいということのほかに、体重が軽いほうがパフォーマンス上有利と考えるアスリートが多いことの影響もあるとみられる。
これまでにもLEAはアスリートの健康やパフォーマンスに負の影響を及ぼすことが示唆されているが、持久系スポーツの大規模なイベント参加者を対象とする検討はいまだ行われていない。本研究はボストンマラソンという大規模イベントの参加者を対象としていて、論文には「LEAとパフォーマンスや医療需要発生との関連を検討した最大規模の研究」と述べられている。
2万5,000人の参加者のうち1,000人以上が研究に参加
この研究では2020年のボストンマラソン参加登録者に対して、大会4週間前から送信された週ごとの電子メールで研究協力者を募集した。研究参加に協力を申し出たアスリートには、大会1週間前までにwebアンケートに回答してもらい、利用可能エネルギー不足(LEA)リスクが評価され、ほかにトレーニング量や疾患既往歴などが調査された。研究では、それらの自己申告データに基づきLEAを判定しボストン大会でのレース成績と、大会中に発生した医療需要イベントとの関連を解析した。
なお、大会中に発生した医療需要イベントは、コース上およびゴールエリアに計30カ所設置されたエイドステーションでの医療対応数を集計して評価した。また、LEAの判定基準は性別ごとに、以下の3項目のいずれかに該当する場合と定義した。
- 自己申告に基づく摂食障害(eating disorders;ED)または食行動の乱れ(disordered eating;DE)
- 摂食障害検査アンケート(Eating Disorder Examination-Questionnaire;EDE-Q)の総合スコアが2.30超(感度90%、特異度100%)
- 女性のLEA質問票(Low energy availability in female questionnaire;LEAF-Q)のスコアが8以上(感度78%、特異度90%)
- 自己申告に基づく摂食障害(ED)または食行動の乱れ(DE)
- 摂食障害検査アンケート(EDE-Q)の総合スコアが1.68超(感度77%、特異度77%)
- 男性のLEA質問票(LEA in Males Questionnaire;LEAM-Q)で評価した性腺機能障害
大会データと研究参加者数
2022年ボストンマラソンは4月18日に開催され、気温10.2±2.7℃、湿球黒球温度(WBGT)は2.8~14.1℃と標準的でストレスの少ない環境で実施された。登録者2万8,586人のうち2万5,304人(88.5%)がスタートし98.4%が完走した。
このうち1,063人が研究に参加登録し(女性563人、男性500人)、1,030人(96.9%)がスタートして、データ欠落のない女性546人(97.0%)と男性484人(96.8%)が解析対象とされた。
LEAに該当するランナーは最終順位が下位で、走行中の医療需要発生率が高い
解析対象選手のうち、女性の42.5%、男性の17.6%が、前記3項目のいずれかに該当し、利用可能エネルギー不足(LEA)と判定された。
両群を比較すると、年齢は女性・男性ともにLEA群のほうが若年だった(女性は38.8±12.2 vs 46.1±12.6歳、男性は41.8±12.6 vs 53.2±12.6歳〈いずれもp<0.001〉)。ただし、BMI、トレーニングでの走行距離には、女性・男性ともに有意差はみられなかった。
LEAの有無とレース成績との関係
レース成績や医療需要発生リスクとの関連の解析に際しては、年齢、BMI、競技歴、トレーニングでの走行距離の影響を統計学的に調整した。
解析の結果、女性選手の場合、非LEA群の最終順位は948.6±57.6位であるのに対して、LEA群は1,377.4±82.9位であり、前者のほうが有意に良好な成績だった(p<0.001)。男性選手も同様に、非LEA群の最終順位は794.6±41.0位であるのに対して、LEA群は1,262.4±103.3位であり、前者のほうが有意に良好な成績だった(p<0.001)。
LEAの有無とレース中の医療需要発生リスクとの関係
研究参加者においてレース中に49件の医療需要が発生していた。非LEA群では713人中26人に発生し、発生率は3.7%、LEA群では317人中23人に発生し、発生率は7.3%であり、相対リスク(RR)1.99(95%CI;1.15~3.43)と、後者において医療重要が有意に多く発生していた(p=0.013)。
これを重症度別に解析すると、軽症イベント(医療機関への搬送を要さない状態)は有意差がなかったが、重度(中等症〈医療機関への搬送を含む対応を要した状態〉と重症〈集中治療室へ搬送・入室を含む緊急治療を要した状態〉の合計)は、非LEA群では11人に発生し発生率は1.5%、LEA群では14人に発生し発生率は4.4%であり、RR2.86(1.13~6.24)と、後者において発生率が有意に高かった(p=0.008)。
文献情報
原題のタイトルは、「Boston Marathon athlete performance outcomes and intra-event medical encounter risk associated with low energy availability indicators」。〔Br J Sports Med. 2024 Nov 11:bjsports-2024-108181〕
原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)