栄養、コーチング、トレーニング、自己効力感…スポーツのパフォーマンスに最も影響する要素は?
スポーツパフォーマンスに影響を及ぼし得る因子の影響力の強さを、構造方程式モデリングという手法で比較検討した結果が報告された。影響力が最も強い可能性のある因子はコーチングの質であり、自己効力感(self-efficacy)、トレーニング強度、栄養などが続くという。中国からの報告。
広大な国土に暮らし多様な背景をもつ中国のアスリートを対象とする研究
スポーツパフォーマンスに影響を及ぼし得る因子は多数存在する。その中で、今回紹介する研究では、コーチング、アスリートのウェルビーイング(well-being〈健康や幸福感〉)、トレーニング強度、栄養、自己効力感に絞り込み調査している。著者によると、中国は国土が広大で気候や文化、経済状態が地域によって大きく異なることから、研究対象はさまざまな地域から募集されたとしている。また、さまざまな競技および競技レベルをカバーした、約1,300人が参加。選択バイアスのリスクを避けるために、その中から無作為に抽出された880人が解析対象となった。
対象の中には、例えば上海のエリートレベル(卓球、体操、水泳)アスリート120人という集団(構造方程式モデリング〈structural equation modeling;SEM〉によるパフォーマンススコアの平均が85.3)が含まれていれば、長沙のレクリエーションレベル(水泳、ヨガ、ピラティス)の70人の集団(SEMによるパフォーマンススコアの平均は67.8)や、蘭州のような地方都市の20人(クロスカントリースキー、登山、オリエンテーリング〈パフォーマンススコア84.5〉)なども含まれていた。
これら880人に対して、コーチングの質、トレーニング強度、食習慣などに関する詳細な調査が行われ、パフォーマンススコアとの関連が解析された。
栄養もパフォーマンスと統計的有意に正相関
解析対象者の特徴
年齢
19~25歳:25.0%、26~35歳:36.4%、36~46歳:22.7%、47歳以上:15.9%。
性別
男性:68.2%、女性:29.5%
競技
個人競技(陸上、水泳、テニスなど):22.7%、団体競技(サッカー、バスケットボール、バレーボールなど):28.4%、持久系(マラソン、自転車など):31.8%、格闘技(ボクシング、レスリングなど):17.0%。
競技レベル
エリート(国際・国内大会レベル):13.6%、大学レベル:31.8%、クラブレベル:34.1%、レクリエーションレベル:20.5%。
競技歴
1年未満:6.8%、1~3年:20.5%、4~6年:27.3%、7~10年:22.7%、10年以上:22.7%。
対象者自身の評価では、トレーニング強度が最も重要と考えられている
まず、解析対象者が自分のパフォーマンスにとって何が重要と考えているかを質問した回答が解析された。その結果、最も重視されていたのはトレーニング強度(スコア4.56)であり、次いで自己効力感(同4.45)、コーチングの質(4.23)、ウェルビーイング(3.86)、栄養(3.75)だった。
この結果のうち栄養について著者らは、「評価スコア3.75は、食習慣がそれなりに重視されていることを示している。ただし標準偏差(SD)が0.68とやや高く、回答者によって評価にばらつきがあることが示された」と述べている。なお、栄養以外の因子の標準偏差は、ウェルビーイングは栄養よりも高くSD=0.72であり、よりばらつきが大きかった。一方、コーチングの質(SD=0.65)やトレーニング強度(同0.60)、自己効力感(0.58)の標準偏差は、栄養に対する評価の標準偏差よりも低く、ばらつきが少なかった。
客観的評価では、コーチングの質が最も重要
次に、客観的な指標に基づき解析すると、コーチングの質(β=0.48)が最も高い関連性が示され、次いで自己効力感(同0.57)、トレーニング強度(0.55)、栄養(0.42)だった。
この結果のうち栄養について著者らは、「栄養とパフォーマンス指標との間に有意な正の相関が確認され、適切な栄養戦略がアスリートの身体能力にとって重要であることが示された」と述べている。なお、この解析における標準偏差は栄養がSD=0.06であり、この値は評価されたすべての因子の中で最も低値であって、客観的なパフォーマンス指標との関連では、栄養の評価はばらつきが小さいとの解釈も可能。一方、自己効力感はSD=0.10であり、評価されたすべての因子の中で最も高値だった。
競技レベルと性別の解析
続いて、競技レベルと性別に解析された結果をみてみよう。
エリートレベルの男性はパフォーマンススコアの平均が85.4であり、パフォーマンスとの関連は、コーチングの質(β=0.72)、自己効力感(同0.67)、トレーニング強度(0.65)、栄養(0.58)の順。エリートレベルの女性はパフォーマンススコアの平均が83.7であり、パフォーマンスとの関連は、男性と同順に、0.68、0.64、0.6、0.55。
大学レベルの男性はパフォーマンススコアの平均が78.2であり、パフォーマンスとの関連は、コーチングの質(0.54)、自己効力感(0.52)、トレーニング強度(0.5)、栄養(0.47)の順。大学レベルの女性はパフォーマンススコアの平均が76.9であり、パフォーマンスとの関連は、コーチングの質と自己効力感がともにβ=0.5であり、次いでトレーニング強度(β=0.48)、栄養(同0.44)の順。
アマチュアレベルの男性はパフォーマンススコアの平均が72.5であり、パフォーマンスとの関連は、上記までと異なり1位は自己効力感のβ=0.46であり、次いでコーチングの質(β=0.45)、トレーニング強度(同0.42)、栄養(0.4)の順。アマチュアレベルの女性も男性同様に1位は自己効力感であってβ=0.44であり、次いで同順に0.42、0.4、0.38。
研究では上記のほかに、媒介分析が行われ、文化的価値観がこれらの関連の一部を媒介していることが明らかになった。論文の結論には、中国のアスリートの成功に不可欠な要素として、コーチング、自己効力感、トレーニング、栄養などが必要であることがわかったと記されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Factors influencing sports performance: A multi-dimensional analysis of coaching quality, athlete well-being, training intensity, and nutrition with self-efficacy mediation and cultural values moderation」。〔Heliyon. 2024 Aug 22;10(17):e36646〕
原文はこちら(Elsevier)