尿を用いて、生活習慣の改善を目指す
—栄養モニタリングの新しい提案—【前編】
古くから日本では「尿は健康のバロメーター」と言われてきました。もちろん、尿を見ることの重要性は日本人だけが知っていたのではなく、“医聖”とされるヒポクラテスも紀元前の時代、既に「尿診(uroscopy)」を行っていたそうです。尿を見ることで、その人のさまざまな健康状態を知ることができます。実際、スポーツ領域でも尿の比色によって脱水レベルを確認することが広く行われ、また推奨もされています。
当然ながら、尿から得られる情報は脱水レベルだけではありません。ご存じのように医療の領域では、健康診断にはかならず検尿の項目があり、糖やタンパク、比重などが測定されます。複数の検査項目の結果をあわせて考えれば、栄養状態を推測することも可能です。しかも、採血のような侵襲を伴わずに、全く無侵襲で多くの情報を得ることができるという点も、尿検査の大きな特徴といえるでしょう。
そんな医療領域で活用されてきた尿ですが、日常生活の中で自身の健康や栄養状態を把握するために活用するのは一般的ではありませんでした。つまり、様々な貴重な情報が詰まっている尿が活かされることなくトイレに流れて行ってしまっているというわけです。
これはもったいない。
近年の人工知能(AI)と画像処理技術を駆使し、尿を用いて栄養状態を自動分析して、結果をフィードバックするという新しいサービス「Vivoo(ビブーと読むそうです)」が、2020年に米国で登場。このほど日本人向けにローカライズした『Vivoo』の展開が大塚製薬により始まりました。
Vivooを使うと何がわかるのか、どうやって使うのか、従来の医療で用いられる尿検査と何が違うのか、アスリートのトレーニングやパフォーマンス向上にも役立つのかなどの疑問について、同社ニュートラシューティカル事業部の金澤慎太郎さん(プロフィール ▶)にお答えいただきました。前編と後編に分けて掲載します。新サービスの概要と特徴「栄養状態を非侵襲で瞬時に可視化する」
——最初に、このサービスの概要を説明してください。
Vivooは尿を用いた栄養モニタリングサービスです。まず、スマホに専用アプリをダウンロードして、年齢や性別、身長、体重、喫煙習慣などの情報を登録していただきます。これで準備完了。次に、ストリップと呼ばれる試験紙を取り出し、尿をかけていただいて90秒待ち、スマホのカメラでストリップ(試験紙)をスキャンすると、自動的にその画像データが解析され、分析結果が20秒ほどで返ってきます。
——従来も尿検査、あるいは自分で検体を採取して郵送し判定するといったものがありますね。それらとの違いや特徴は?
尿検査は体外診断用医薬品やOTC検査薬となり、尿中の蛋白や糖などを調べ、様々な病気やその兆候を知ることができる検査です。対して、Vivooは栄養状態のモニタリングを目的にしている点が大きく異なります。また、郵送型の場合は、採尿したものを送ってからレポートが返ってくるまでに週単位の時間がかかりますが、Vivooはすぐに結果が表示され、手軽に確認することができます。直近に食べたものの体への影響がわかることから、普段の食生活における‘気づき’が生まれやすくなるのではないかと考えています。
——Vivooでわかる栄養状態とは?
6項目あります。
まず「水分レベル」。これは性別や体重に基づいた体の中の水分の量を指します。次に「肉/野菜バランス」。これは肉や野菜の摂取量のバランスを把握するのに役立ちます。「骨の健康に関わるミネラル」はカルシウムやマグネシウムなどのミネラルについて、「食塩摂取量」は塩分の摂り過ぎがわかります。これらのほかに、「ビタミンC」や「酸化ストレス」というテスト項目があります。
——水分レベルや酸化ストレス、骨の健康などの情報は、スポーツアスリートにとっても役立ちそうですね。アスリートでの使い方については後ほど詳しくお聞かせいただくとして、もう少し製品の特長についてお尋ねします。アプリ上にはどのように結果が表示されるのでしょう?
レポートはさきほど申しました6つの項目ごとに、10点満点中何点かというスコアと、過不足またはバランスの良し悪しを示すカラーチャートとして表示されます。さらに、日本国内でのVivoo利用者の男女別の平均点も表示され、ご自身のスコアと平均の差もみていただけます。また、テスト結果に基づく管理栄養士監修のアドバイスを見ることができたり、スコアの水位が記録されているので過去の履歴を見比べて、食生活の改善を可視化することもできます。ちなみに利用者の平均点は、毎日、新たなデータを追加して解析した結果が表示されるので、日によって変わります。
測定プロセスと正確性「過去1~3日の栄養状態をAI技術で高精度判定」
——ストリップを見ると、大小あわせて30個くらいのカラフルなセンサーのようなものがついていますが、これはどのようなものでしょうか?
尿中の成分によって色が変化し、その色の変化をアルゴリズムで判定しています。色を基準に比較することで、撮影する場所の明るさや照明の色の影響、スマホカメラの特性などの条件に左右されることなく、正確に判定できます。
——どのくらい正確なのでしょう?
さまざまなテストを行い、そのうち完全一致は87%、判定の誤差として±1段階を許容範囲と考えた場合、99%と高精度で正確に読み取りができます。
——ほぼ100%、許容範囲内のレポートを得られるということですね。米国で開発されたサービスを日本に導入されるにあたり、何か工夫されたことはありますか?
例えば日本人は米国人よりも食塩摂取量が多いことが知られていて、一般生活者のみなさんの食塩摂取量への関心もたいへん高いです。そこで食塩摂取量に関しては、日本オリジナルの工夫を加えて、より精度を高めています。
——テスト結果に反映されるのは、いつ食べた食事の栄養ですか?
テストをする24~72時間(1~3日)前です。Vivooでテストできる6項目については、24~72時間前の食事によって尿の成分が影響されるという一定のエビデンスがあります。
1~3日前に食べた物であれば、多くの方は記憶されているはずですので、Vivooを使って、塩分摂り過ぎ、野菜不足などの結果が出たら、数日前の食事を思い出していただくことで改善点を見つけられ、明日からの健康づくりに役立てられるのではないかと思います。
——ところで、「Vivoo」というサービス名は、どのような意味があるのでしょうか?
Vivooの最後の‘o’を除いた‘vivo’は、英語で生体内を意味します。試験管内での研究をin vitro、生体内での研究をin vivoといいますが、そのvivoです。本サービスが、尿を通して体の中を見るということから、vivoという単語を利用したと聞いています。
で、最後の‘o’はなんでついているのか?ですが、どうやら米国のスタートアップ企業ではサービスの名称に‘o’が二つ連続していると成功するという“神話”があるようなのです。皆さんの中でも思い当たるIT企業がいくつかあるかと思いますが、本サービスを開発したVivosens社もサンフランシスコというスタートアップ企業の“聖地”にありますので、成功を祈念しvivoの後にoをもう一つ追加して、Vivooとしたということです。
関連情報
Vivoo公式サイト(Vivooとは?、測定項目、使い方、Q&A、購入方法ご案内)
Vivoo販売ページ(オオツカ・プラスワン)
プロフィール
-
金澤 慎太郎(かなざわ しんたろう)さん
大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部 eコマース部
1987年生まれ。新潟県出身。米国ネバダ州立大学ラスベガス校教育学部卒業。2010年4月、大塚製薬株式会社入社。 ニュートラシューティカルズ事業部福岡支店、MBA留学(米国ワシントン大学)、事業戦略室を経て、2017年3月から現職。