日本の食文化や栄養課題に特化した栄養プロファイルモデルを開発 医薬基盤・健康・栄養研究所
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所はこのほど、日本の食文化や栄養課題を踏まえた加工食品や料理の栄養評価法「日本版栄養プロファイルモデル」を開発した。「Nutrients」に2報の論文が掲載されるとともに、同研究所のサイトにプレスリリースが掲載された。
発表のポイント
日本では整備されていなかった「栄養プロファイル」の日本版を開発
諸外国では、食品の栄養価を総合的に判断できるよう、特定の栄養素等の含有量で食品を評価する「栄養プロファイル※1モデル」が整備され、栄養政策で活用されているが、日本ではこれまで「栄養プロファイルモデル」が整備されていなかった。
このたび、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の研究グループは、国立研究開発法人としての公平的・中立な立場にたち、“加工食品”(麺類、ヨーグルト、果物加工品といった区分)や“料理”(ごはん、煮物、焼き鳥、酢豚、カレーライス等といった区分)の新しい栄養評価法として、日本の食文化や栄養課題を踏まえた日本版「栄養プロファイルモデル」の加工食品版と料理版の二つを開発した。
日本版「栄養プロファイルモデル」について
加工食品版について
加工食品版は、加工食品中の栄養素等の含有量に基づき、当該食品が健康に良い影響を与えるかどうかを点数で評価するもので、日本食品標準成分表※2に収載されている668種類の加工食品を対象に開発した。この668種類を栄養学的な特徴で六つの食品群に分類し、類似した食品の間で点数を比較することで、健康に配慮して製造された加工食品をより高く評価できるように工夫している。
図1 日本版栄養プロファイル【加工食品版】
料理版について
料理版は、食品単独ではなく、料理1食分当たりの栄養素の含有量で“料理”の栄養価に応じて“料理”をランク付けする、国際的にも画期的な栄養プロファイルモデル。このモデルにより、単独では摂取しない調味料(みそ、しょうゆ等)や調理油等を含めた食品の組合せを包括的に評価できる。また、例えば、麺類の汁を残した場合と残さなかった場合の健康への影響も数値化して比較することも可能であり、より適切な食べ方の提案にも応用できる。
図2 日本版栄養プロファイル【料理版】
期待されること
消費者がより健康的な食品や料理に容易にアクセスでき、自然に健康になれる食環境整備を進めるために、今回開発した二つの日本版栄養プロファイルモデルを活用し、食品関連事業者※3による食品や料理の改良が促進されることが期待される。
概要
日本人がより健康になるために、自然に健康になれる持続可能な食環境整備が求められている。日本では、消費者が適切な食品の選択ができるよう栄養表示制度が定められているが、諸外国ではこれに加えて、健康的な食品の開発・流通・利用の促進を目的に、食品の栄養価に応じて食品をランク付けする「栄養プロファイルモデル(NPモデル)」が活用されている。
一方、日本では広く活用可能なNPモデルは策定されていない。また、諸外国のNPモデルの多くは欧米の食生活や栄養課題を踏まえて開発されたものであり、日本の現状に必ずしも適合するものではない。これを背景に、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の研究グループでは、市販される加工食品や料理に適用可能な日本版のNPモデルを開発した。
日本を含むアジア諸国では、複数の食品を組み合わせた“料理”が食事を構成していることが食文化の特徴といえる。そこで研究グループは、欧米のNPモデルにはない、料理用のNPモデルを示すことが不可欠と考え、日本の栄養課題と食文化に対応する、加工食品版および料理版のNPモデルの開発を目指した。
加工食品
日本で流通している加工食品の栄養価を総合的に評価するため、日本版NPモデル(加工食品):NPM-PFJを開発した。単独での使用よりも、料理の一部として使用されることが多い調味料類や油脂類はNPM-PFJの対象外とした。
NPM-PFJは、オーストラリアとニュージーランド政府が栄養表示制度に導入しているヘルス・スター・レーティング(HSR)を参考とし、栄養摂取に関する日本人向けの基準値(日本人の食事摂取基準等)を考慮して、各加工食品を採点するための基準に改めた。この基準を用いて、日本食品標準成分表に収載されている668種類の加工食品を採点し、特徴が類似した六つの食品群に分類した。この食品群内の点数の分布に基づいて、それぞれの加工食品の評価を行うことができる。
NPM-PFJでは、過剰摂取になりやすい傾向に鑑み、エネルギー、飽和脂肪酸、糖類、ナトリウムを、摂取を制限すべき栄養素等(制限栄養素等)として考慮した。一方、摂取不足になりやすい傾向に鑑み、たんぱく質、食物繊維を、摂取を推奨すべき栄養素(推奨栄養素)として考慮した。そのほか、特定の食品群(果実類、野菜類、種実類、豆類、きのこ類、藻類)の重量を考慮した。NPM-PFJは、加工食品の総合的な栄養価を可視化するツールであり、日本の食文化や栄養政策に適合したものとなった。
例えば、保存上の理由等により自ずと食塩含有量が高くなる野菜漬物や魚介類の塩辛といった加工食品を、海外のモデルであるHSRで評価した場合、食塩の量を減らす工夫をしたとしても概ね低い評価のままだが、NPM-PFJでは他の加工食品とは異なる食品群として評価するため、工夫した結果が評価されやすくなる。このことで、食品事業者の工夫次第でより評価の高い加工食品の開発に貢献できると考えられる。これにより、食品事業者による健康に配慮した加工食品の開発が容易となり、より多くの消費者が健康に配慮した製品を入手しやすくなると期待できる。
料理
日本版NPモデル料理版は、NPM-PFJを料理に適用できるモデルに拡張したもので、制限栄養素等および推奨栄養素はNPM-PFJと同じ。日本版NP料理版では、「食事バランスガイド※4」に掲載されている105種類の料理を対象とし、料理を主食、副菜、主菜、複合料理(副菜と主菜で構成する料理)、主食付き複合料理という五つの料理カテゴリーに分類した上で、各料理カテゴリーの全体スコアの分布を評価。それによって、五つの各料理カテゴリー内での料理を差別化している。
日本版NP料理版は、単独では摂取しない調味料(みそ、しょうゆ等)や調理油等も含め、食品を組み合わせた“料理”として包括的に評価できることが大きな特長。これにより、既存のNPモデルでは概ね低評価となる調味料や調理油等は、他の食品との組合せにより包括的な評価に組み込むことができる。また、食べ方の違いによる料理の評価にも活用することが可能で、例えば、麺類の汁をすべて残した場合は、汁を全部摂取したときよりも高評価となる仕組み。このように、料理の「食べ方」が健康的か否かも評価できる。
日本版NPモデル(加工食品版・料理版)は、中立的・公平な立場から、日本の食文化や栄養課題を踏まえて開発された。消費者がより健康的な食品や料理に容易にアクセスでき、自然に健康になれる食環境整備をさらに進めるために、この二つの日本版NPモデルの活用により、食品事業者による食品や料理の改良が促進されることが期待される。
プレスリリース
日本版栄養プロファイルモデル(加工食品版・料理版)を開発―日本の食文化や栄養課題を踏まえた加工食品や料理の栄養評価法―(医薬基盤・健康・栄養研究所)
文献情報
- 「Development of a Nutrient Profiling Model for Processed Foods in Japan」。〔Nutrients. 2024 Sep 7;16(17):3026〕 原文はこちら(MDPI)
- 「Development of a Nutrient Profile Model for Dishes in Japan Version 1.0:A New Step towards Addressing Public Health Nutrition Challenges」。〔Nutrients. 2024 Sep 6;16(17):3012〕 原文はこちら(MDPI)