炭水化物の摂取増加が体タンパク質の増加に寄与する ただし筋力はアップせず 若年日本人男性RCT
炭水化物の摂取量を増やしエネルギー過剰状態にすることで、体内のタンパク質量が増加することが、若年日本人男性を対象とする無作為化比較試験(RCT)の結果として示された。(株)明治と福岡大学身体活動研究所を中心とした共同研究グループ(筆頭著者:畑本陽一氏、責任著者:川中健太郎氏)によるもので、「Clinical Nutrition」に論文が掲載された。この機序として、体脂肪量の増加に伴うアディポカイン分泌の変化が関与している可能性があるという。
エネルギー過剰状態にすることで体タンパク質を増やせるか?
アスリートが筋肉量や筋力をアップさせようとする時、または高齢者がサルコペニアを改善しようとする時、栄養介入としてはタンパク質食品を十分に摂取することが重要とされている。しかし、1937年の古い報告に、炭水化物または脂質によってエネルギー過剰状態にすることでも、窒素バランスが正になり体タンパク質の同化が進むとの報告がある(DOI: 10. 1042 / bj0310694)。とは言えその後、このような視点での研究は行われておらず、エネルギー過剰が体タンパク質に与える影響は未だ不明。
このトピックに関連する結果解釈の注意点として、仮にエネルギー過剰状態を維持して除脂肪量(筋量の指標)が増えたとしても、増えた分の多くは体内のナトリウム量およびグリコーゲンの増大に伴う水分量の増加によると考えられる点が挙げられる。(株)明治・福岡大学の研究グループはこの点に留意して、除脂肪量から体水分量と骨ミネラル量を差し引いた体タンパク質量を実際に評価する方法を用いた。そして、主として炭水化物摂取量を増やすことによるエネルギー付加が、除脂肪量のみならず体タンパク質量に及ぼす影響を検討した。
若年男性24名を2群に分け、1群は+40%のエネルギー付加を行いながら6週間介入
研究参加者は大学生を中心に募集され、応募した40名から、疾患の既往、腹部手術歴、何らかの食事療法を施行中、40g/日以上のプロテインサプリ摂取、食品アレルギーなどの該当者を除外し、24名を対象とした。
研究デザインは並行群間無作為化比較試験。12名ずつの2群にランダムに割り付け、各参加者のエネルギー必要量(基礎代謝と身体活動量の測定により算出)を基に、1群(P群)はタンパク質の摂取量を増やすことで+10%のエネルギー超過状態として、他の1群(PE群)はタンパク質を10%、炭水化物を30%増やして計40%のエネルギー超過状態とした。両群ともにタンパク質摂取量は2.2-2.3g/kg体重/日に統一した。タンパク質の増量にはホエイプロテインサプリ、炭水化物の増量にはエナジーゼリーやエナジーバー、果汁100%ジュースを用いた。介入の割り付けが参加者にも明らかであることから、盲検化はされていない。
介入期間は6週間で、主要評価項目は全身の体タンパク質量とした。副次評価項目として体重、体脂肪量、除脂肪量、体内水分量を設定した。なお、40%のエネルギー超過を6週間という設定は、それによって除脂肪量が増加するという先行研究の報告を参照し設定した。また、水中体重法、二重標識水法、ならびに二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)によって身体容量、体水分量、骨ミネラル量のそれぞれを評価して、既報論文の計算式から体脂肪量と体タンパク質量を算出した(4成分法, DOI: 10. 3945 / ajcn. 112.048074)。
エネルギー超過により6週間の介入で体タンパク質量が有意に増加
介入中に、タンパク質摂取量のみを増やす群(P群)の1名が脱落し11人となった。ベースラインにおいて、年齢、体重、BMI、体組成、およびBDHQ(簡易型自記式食事歴法質問票)により把握した摂取エネルギー量・栄養素量に有意差はなかった。介入中の食事やサプリの摂取遵守率は両群ともに95%以上だった。
タンパク質摂取量のみを増やしたP群は有意な変化なし
P群では介入期間中に、体タンパク質量、体重、体脂肪量の有意な変化がなかった。それに対して、炭水化物摂取量も増やして+40%のエネルギー超過とする群(PE群)では、体タンパク質量(p=0.009)、体重(p<0.001)、および体脂肪量(p=0.005)が有意に増加していた。
ITT解析(介入中の脱落やプロトコルからの逸脱も含め、割り付け通りに行う解析〈intention-to-treat〉)の結果、主要評価項目の体タンパク質量はPE群のほうが大きく増加していた(p=0.035)。同時に副次評価項目の体重、体脂肪量も、PE群のほうが有意に大きく増加していた(いずれもp=0.005)。一方、除脂肪量や体内水分量の変化幅には有意差がなかった。PPS解析(脱落やプロトコル逸脱データを除外した解析〈per protocol set〉)も結果は同様だった。
つまり、6週間のエネルギー超過によって、体タンパク質量の増加が促進されたことが示された。
体タンパク質の増加にアディポカイン分必も関与している可能性
上記のほかに本研究では以下のように、いくつかの興味深い結果が見いだされた。
エネルギー摂取量を40%増やしても、出納のプラス幅は20%以下
介入期間中のエネルギーバランス(総摂取量を総消費量で除した値。1は均衡を意味する)は、10%増やしたP群では0~2週が1.00、2~4週が1.16、4~6週では1.02だった。40%増やしたPE群でも同順に1.16、1.20、1.17であり、最大でも2割程度プラスになる範囲に収まっていた。
体タンパク質量の増加は、四肢の除脂肪量や筋力の上昇を伴わない
前述のように40%のエネルギー超過で体タンパク質量の有意な増加が観察された。しかし、四肢の除脂肪量(appendicular lean mass;ALM)や筋力については、有意な影響がみられなかった。
エネルギー超過によりレプチン分泌量が増加
本研究では介入前後と介入期間中に計4回、血液を採取し、男性ホルモン(テストステロン)、ストレスホルモン(コルチゾール)、インスリン様増殖因子-1(IGF-1)、成長ホルモン、レプチンを測定した。これらのうち、コルチゾール、IGF-1、成長ホルモンの変化については両群間に有意差がなかったが、テストステロンは両群で低下しPE群の低下幅が有意に大きかった(p=0.027)。また、レプチンはP群では低下しPE群では上昇して境界域の有意差が認められた(p=0.050)。なお、レプチンは脂肪細胞から分泌される代表的なアディポカインで、食欲やエネルギー代謝との関連が知られているが、筋タンパク質合成促進効果を有することも報告されている。
体タンパク質量の変化は脂肪量およびレプチン分泌量の変化と相関
介入期間中の体タンパク質の変化と関連のある因子を検討したところ、ITT解析では体脂肪量のみが正相関を示したが(r=0.820、p=0.002)、PPS解析では体脂肪量(r=0.807、p=0.005)とともにレプチン分泌量(r=0.646、p=0.029)にも有意な正相関が観察された。
この知見を筋量増大に適用する場合の留意点
著者らは、本研究を「エネルギーバランスの超過が全身の体タンパク質量増加につながることを示した初のエビデンス」と位置づけている。一方、限界点として、体タンパク質の増加が筋量増加によるものかを特定できていないことを挙げている。また、筋力の上昇が確認されなかったことから、「仮に筋内のタンパク質量が増えたとしても、トレーニング負荷がなければ筋力はアップしない可能性がある」と考察が加えられている。
体タンパク質増加のメカニズムに関しては、体脂肪やレプチン分泌の増加との相関が認められたことから、「体脂肪量増加に伴ったアディポカインの分泌上昇が一部関与しているのでないか」としている。
また、この知見をアスリートの筋量増大に適用しようとする場合、「体タンパク質量だけでなく体脂肪量も有意に増えることに留意し、短期間にとどめるなどの工夫が必要」と述べられている。他方、臨床において高齢者のサルコペニア改善に援用する場合、体脂肪量の増加も有益なことがあるため、長期的な介入試験のエビデンスが必要ではあるものの、より有用性が高い可能性を指摘している。
文献情報
原題のタイトルは、「Greater energy surplus promotes body protein accretion in healthy young men: A randomized clinical trial」。〔Clin Nutr. 2024 Sep 30;43(12):48-60〕
原文はこちら(Elsevier)